審査要旨 | | Campylobacter jejuni(C.jejuni)は,ヒトの主要な腸管病原菌の一つとして重要視されている。また胃腸炎のみならず,ニワトリでは壊死性肝炎への関与が,ヒトでは髄膜炎や胆嚢炎,尿路感染症などへの関与がそれぞれ報告されている。しかしながらその発症機序については尚不明な点が多く残されている。本研究ではC.jejuniの病原因子,特に毒素の産生条件とその検出法に関する基礎的検討を行うとともに,ウズラの感染実験動物としての有用性について検討した。 第1章:C.jejuniによるサイトトキシン(CTX)の産生条件と培養細胞を用いた検出法の検討。 C.jejuniの培養濾液を用い,培養細胞側の条件を変えてCHO細胞に対するCTX活性を比較したところ,CTX活性は細胞培養に用いたMEM培地に添加する血清の種類と濃度によって差が認められた。また用いる株化細胞によっても感受性に大きな差が見られた。したがってCTXの検出にはCHO細胞を用いた20%FCS,10%NCS添加MEM培地あるいは無血清培地(SFC)が適していた。菌の培養条件の検討では,Brucella brothはCTXの産生に最も適していたが,M199培地では全く産生されなかった。静置培養と攪拌培養でもCTXの産生性に差が見られた。今回検討した至適条件により,すでにCTX産生性が報告されている菌株を用いてCTXを検出したところ,これまでの報告と異なる結果を得た。 第2章:ヒトおよび動物由来株のCTX産生性の比較。 日本および外国で分離されたヒトおよび動物由来株を用いCHO細胞を用いた3つの測定系でCTX活性を検出した。ヒトおよび動物由来株あるいは日本および外国由来株の間に各測定系でのCTXの検出率に有意差は見られなかった。分離株は3つの測定系におけるCTXの検出パターンから,4つのグループに分けられた。一方コレラ様エンテロトキシンはすべての菌株から検出されなかった。 第3章:CTXの性状と細胞致死活性発現の条件。 3種類の測定系を用いてCTXの性状を調べた。FCS測定系で検出されるCTXは易熱性で,Mw(Da)は限外濾過により50〜100Kと推定され,NCS測定系で検出されるCTXは,耐熱性て,Mw(Da)が0.5〜3Kと考えられた。SFC測定系で検出されるCTXは加熱により完全には失活せず,またMwも一定の範囲にはなかった。FCSおよびNCSのCTXは,トリプシンやペプシン処理で失活しなかったが,DTT等の還元剤により完全に失活した。さらにCTX活性の発現は培養細胞に添加する血清に依存していた。 第4章:C.jejuniの溶血様活性の検出条件の検討。 溶血様活性は培地pHが6.0から6.5の範囲で最も明瞭に認められたが,pHが5.7以下あるいは7.2以上では菌は発育しても溶血様の緑色帯は検出されなかった。経時的観察では溶血様活性は37℃培養では48時間後に,42℃培養では24時間後に検出された。しかしながら培養をさらに継続すると溶血様活性は両培養温度で消失した。これに代わって,37℃培養では6日後に,42℃培養では3日後に溶血様活性が認められるようになったが,コロニー直下のみの溶血だった。両溶血様活性の検出には,Blood agar baseとNutrient agarにウサギあるいはヒト血液を添加したものが優れていた。至適条件下で培養したところ,すべての供試株でおよび溶血様活性か検出された。 第5章:C.jejuni感染ウズラにおける壊死性肝炎の形成。 静脈内にヒトおよびニワトリ由来株を2か月齢のウズラに接種すると,接種1日後から肝臓の表面および内部に巣状壊死が多数認められ,病理組織学的にも肝細胞の多発性巣状壊死と診断された。肝臓の壊死は接種7日後までは高頻度に認められたが,10日以降はほとんど見られなかった。接種菌は肝臓で3日後までは高い菌数を示したが,4日以降は,血中凝集抗体価の上昇とともに減少し,血液および脾臓からは,感染初期にのみ分離された。一方胆汁中からは菌が接種5分後には回収され,以後14日間の観察期間中,盲腸内容と同様に接種菌が分離された。菌の経口投与では壊死性肝炎は認められず,盲腸内容からのみ接種菌が分離された。 以上本論文はC.jejuniの病原性につして,毒素産生性および感染実験動物としてのウズラにおける病変形成について検討したもので,学術上,応用上貢献するところが少なくない。よって審査員一同は本論文が博士(獣医学)の学位論文として価値らるものと認めた。 |