人間の運動は、筋の活動によって生じる。しかし、筋の活動は、その力がおよぼされる骨格の動きとしてしか、外部から観察できない。したがって、これまで筋の形状と発揮される力との関係は、死体を対象とした静的な観察、あるいは、実験動物を対象とした観察から説明されてきた。それらの説明によれば、一般に大きな力の発揮が求められる筋は羽状型であり、大きな動きが求められる筋は紡錘型である。 本論文は、新しく開発された超音波断層法と核磁気共鳴画像法とによって、人間を対象として、経皮的に筋の形状と発揮される力との関係を明らかにしようとしたものである。 まず、羽状筋である上腕三頭筋について筋厚と羽状角を、筋力に大きな違いのある32名の対象者を選んで測定し、筋厚と羽状角との間には正の相関があり、トレーニングによる筋の肥大が筋の生理学的横断面積の増加となることを明らかにした。さらに、53名を対象として外側広筋、腓腹筋などについて同様の測定を行い、羽状筋においては、筋厚と羽状角との間に正の相関があることを報告している。 次に、肘関節の伸筋(羽状筋)と屈筋(紡錘筋)とについて、4名を対象として生理学的横断面積を比較し、羽状筋は紡錘筋に対し筋線維長は短いが、生理学的横断面積当たりのトルクには、羽状筋と紡錘筋との間に差のないことを明らかにした。 以上の観察を、成長期の人間62名を対象として1年間の間隔をおいて、筋厚と羽状角を測定し、筋はかならずしも相似形には変化せず、形状を変えながら大きくなることを明らかにした。また、8名を対象として20日間の非活動(ベッドレスト)状態の前後で、上腕三頭筋、外側広筋、腓腹筋の筋厚と羽状角を比較したところ、腓腹筋においてのみ筋厚と羽状角が減少し、長期間の臥位姿勢の影響が選択的に現れたと説明している。さらに、5名を対象として、10週間のレジスタンストレーニング前後において、上腕三頭筋の筋厚と羽状筋および発揮筋力を測定し、形状は増大したが生埋学的横断面積当たりの筋力は変化しないか、減少する傾向が見られたと報告している。 以上のように、これまで困難であった人間の生体での筋の形状と活動能力との関係を、新しい技術を応用して直接明らかにしたことは、今後の体育科学の発展に大いに寄与するものであり、博士(教育学)の学位論文として、優れたものであると判断した。 |