本研究においては、神経芽腫におけるN-myc遺伝子増幅の迅速且つ正確な定量法として競合的PCR法(competitive PCR、略称 cPCR)が新たに開発され、下記の結果が得られている。 1.癌遺伝子であるN-myc遺伝子増幅の有無は、神経芽腫において患者の予後と最も深い相関関係にあることが知られている。 2.しかしながら、Southern hybridization法は、遺伝子の定量法としては優れているものの、多くの時間、多量の材料を要すること、あるいは手順が繁雑であること等の欠点を持っている。この為、より微量の検体からN-myc遺伝子のコピー数を迅速且つ正確に判定する方法の開発が望まれてきた。 3.Becker-AndreとHahlbrockは、PCRの長所を生かしたまま定量性を持つ競合的PCRの手法を考案した。 4.競合的PCR法とは、定量しようとする鋳型DNAと既知量の類似DNAを同じ反応試験管に入れ、1種類のプライマーセットを用いて、増幅反応を行い、産物DNAの量比から元の鋳型DNAの量を知ろうとする方法である。このことを可能にするためには、類似DNA(競合DNA)と被検DNAとが区別可能であることが必要である。 5.本研究では、N-myc第2エキソンを含む232塩基対領域をPCR領域として設定し、この領域内にある制限酵素Mlu l切断箇所を削除することにより競合DNAを作成することとした。 6.このようにして作成した競合DNAを用いて、N-mycに対する競合PCRの手法を完成させた。 7.次いで、神経芽腫症例のDNAを材料として用い、競合的PCRによるN-mycの値と従来のSouthern hybridizationによる値とを比較した。 以上のごとく、この競合PCRを用いた実験的研究によりN-mycの増幅度の迅速かつ正確な定量が可能である事が示された。本研究は、これまで神経芽腫において何人も開発していなかった定量法を新たに樹立したものであり、学位の授与に値するものと考えられる。 |