審査要旨 | | 本論文は,鉄筋コンクリート構造の設計合理化について,LNG地下タンクを対象として,限界状態設計法を活用して行った研究の成果をとりまとめ,安全性の向上と経済性の向上とを同時に実現した合理的な設計法を提案したものである。 第1章は,序論であって,本研究の意義および背景を述べ,限界状態設計法に基づくことの利点を挙げている。 第2章では,限界状態の設定を適切にすることの具体的提案をしている。 LNG地下タンク側壁の設計において支配的となる地震荷重を,その生じる確率によって,供用期間内に1回程度発生する中規模地震,まれに生じる大地震および供用期間内に生じる可能性が極めて小さく従来は設計に考慮していなかったような最大級の地震の3種類に分類し,それぞれの地震作用に対して,異なる限界状態を設定することを提案している。すなわち,中規模地震に対して健全性を保証するための断面降伏,大地震に対して軽微な損傷を許容する断面破壊,最大級の地震動に対して当面の貯液機能を保持するための断面破壊を,それぞれの限界状態と設定することを提案したのである。このことによって,地震に対する安全性についての信頼度が上がるのである。 また,躯体内面は,水および酸素の供給がないため,鉄筋腐食に関する検討が不要であることを明確にし,これによって経済化が大きく図れることを明らかにした。 第3章では,構造解析上の設計合理化の提案を行っている。 耐震設計で従来は全く無視していた連続地中壁を安全側にモデル化して設計に採り入れること,側壁の剛性を実情に近い値とすることなどである。これらによって,合理的に経済化が図れるのである。 第4章では,安全性の評価に用いる各種の部分安全係数,すなわち,材料,部材,荷重,構造解析などの不確実性および構造物の重要度を考慮するための安全係数を,根拠を明確にしながら,大型構造物に対して合理的に設定した。これらの部分安全係数を総合した安全係数は,従来の値よりも大きくなっている。このことは,従来よりも安全性を高めたことを意味しており,今後の技術知見の蓄積によって,より一層の経済化を図る余地が残されているのである。 第5章では,提案した設計法によって設計されたLNGタンクが,以上の合理化によって,従来よりも経済的となることを示している。新設計法によれば,地震に対する安全性とせん断力に対する安全性は増しており,安全に対する信頼性は高まっていることを明確に示している。 第6章は結論であって,限界状態設計法が,責任技術者のリーダーシップによって設計合理化を実現するのに適した設計法であることを具体的に明らかにしたのである。 本論文は,従来の設計法よりも一段と合理的な設計法を具体的に提案し,それをLNG地下タンクに適用することによって,安全性と経済性とを図れることを明確な形で示したものであって,コンクリート工学の進歩に大きく貢献するものである。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |