学位論文要旨



No 212530
著者(漢字) 渡部,威
著者(英字)
著者(カナ) ワタナベ,タケシ
標題(和) 高炉水砕スラグ微粉末の現地混合による重力式コンクリートダムの合理化施工に関する研究
標題(洋)
報告番号 212530
報告番号 乙12530
学位授与日 1995.11.09
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12530号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡村,甫
 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 教授 國島,正彦
 東京大学 助教授 前川,宏一
 東京大学 助教授 小沢,一雅
内容要旨

 本研究は、重力式コンクリートダムの合理化施工を主題としたものであり、筆者は、長谷ダム(1992年完成、堤高102m)への適用を通して、新たなコンクリート材料の開発、施工法の検討から、施工実績に基づく評価、ダムコンクリートの温度規制方法の検討に至る一連の多岐に亘る研究を実施した。

 コンクリート材料としては、高炉水砕スラグ微粉末を混和材として多量(最大65%置換)使用した低発熱型ダムコンクリートを開発し、しかも、高炉スラグ微粉末と中庸熱ポルトランドセメントを我が国で初めて現地ミキシングプラントで混合することにより、配合変更の選択に融通性を持たせるとともにコンクリート材料の経済性を追求した。施工法については、我が国で初めて拡張レヤー工法(ELCM)を全面的に採用し、加えて、種々の工法の合理化を行うことで、経済的な急速施工を図った。施工実績に基づき、コンクリートの材料特性を評価し、合理化施工の有効性を実証した。さらに、現状のダムコンクリートの温度規制方法に関して温度実測データに基づく解析的検討を加え、いくつかの提言を行った。また、コンクリートの温度上昇特性に水和発熱モデルを適用し、温度実測データと比較することで、このモデルのダムコンクリートに対する有効性を示した。

 本論文は6章よりなるが、以下に論文内容の要旨を各章ごとに順を追って記載する。

 第1章では、研究の背景と目的について述べた。

 第2章では、コンクリートダム建設技術の変遷を概観し、面状工法の開発の経緯とその特徴を体系的に論じた。

 また、ダムコンクリートの品質、特に発熱特性の変遷を整理し、最近の20年間で断熱温度上昇の終局値(K値)か約10℃低下しており、ダムコンクリートの低発熱化が図られていることを示した。

 さらに、面状工法の優位性を定量的に評価するために、長谷ダムを対象として、柱状工法(レヤー工法)による場合と面状工法(ELCM)による場合の工期と工事費を試算した。その結果、工期を同一とした場合、面状工法の方が約2,000円/m3程度経済的であることを示した。

 第3章では、高炉水砕スラグ微粉末コンクリートの材料面の研究成果について論じた。

 まず、セメントペーストおよびモルタル試験により、スラグ微粉末の粉末度、置換率、石膏添加量と諸特性との関係を述べ、所要の特性を満足し、経済的なコンクリートとするには、粉末度3,000〜3,500cm2/g、置換率65%程度を上限とし、石膏添加量3%程度が適切であることを示した。

 次に、コンクリートの諸特性に関する実験結果から、スラグ置換率65%、単位結合材料140kg/m3のコンクリートは、ダム用のコンクリートとして品質上問題なく、かつ従来のダムコンクリート(フライアッシュ30%置換)と同程度に低発熱性を有することを明らかにした。

 また、高炉スラグコンクリートの発熱特性は、打設温度や雰囲気温度に対する依存性が高いことを示した。さらに、高炉スラグコンクリートの長期(最大15年間)安定性について述べるとともに、現地混合においても十分な練り混ぜ均等性が確保できることを示した。

 第4章では、施工実績の分析結果から得られたダムコンクリートの材料特性と品質および急速施工を実現するために試行した方策について論じた。

 まず、適切な品質管理を行えば、高炉水砕スラグ微粉末単体の品質が長期にわたって安定していることをデータに基づいて実証した。次に、高炉水砕スラグ微粉末とセメントを現地混合しても、コンクリートの品質(特に強度)上全く問題ないことを実証した。

 また、堤体コンクリートの温度測定結果およびそれに基づく逆解析結果から、長谷ダムで打設されたコンクリートが低発熱型であり、かつ、発熱特性に温度依存性があることを検証した。さらに、ひずみの測定結果から、コンクリートの材齢初期に圧縮ひずみが蓄積されることを示した。現行の許容引張ひずみに関する考え方ではコンクリートの材齢初期に導入される圧縮ひずみを無視して安全側の評価を行っているが、今後、数多くのデータが蓄積されれば、現行の許容引張ひずみをより現実的に設定できる余地が残されているものと考えられる。

 一方、ELCMによる急速施工の総合効果を最大限に発揮するために、長谷ダムではプレキャスト型わくブロックによる監査廊の形成、打設ヤード境界部での埋殺し型わくの採用、高標高部での追跡2層打ち(1.5m)を行い、これらが施工の合理化に資することを実証した。長谷ダムにおける打設速度は、4.4m/月であり、この値は我が国の既往の面状工法における打設速度と比較して、充分速いものであると評価できる。

 第5章では、現状のダムコンクリートの温度規制方法を概観し、貫通クラックの原因となる短期問題について、詳細な温度実測データに基づいて解析的に検討した。また、発熱特性の温度依存性を考慮した水和発熱モデルの有効性について、実測データをもとに検討した。

 まず、現行の短期問題に関する簡便な評価手法が、便宜的にリフト内の均一な温度降下に伴う外部拘束の考え方を用いているのに対して、長谷ダムにおける詳細な実測温度データから、(1)リフト内の温度は深度方向に不均質な温度降下分布を示すこと、(2)当該リフト下部と下位リフトの温度履歴は概ね同一と考えられることを明らかにし、内部拘束が支配的であることを示した。内部拘束の考え方に基づいて拘束ひずみを試算したところ、その値は従来の外部拘束の考え方を用いた拘束ひずみよりも明らかに小さくなることを示した。このことは、許容温度降下量の設定値を従来より大きくできることを示しており、温度規制方法の合理化に資するものと考えられる。

 次に、コンクリートの発熱特性の温度依存性を考慮した水和発熱モデルを作成し、このモデルが従来の断熱温度上昇試験に基づく発熱モデルよりも実測温度履歴をより精度よく表現できることを示した。また、水和発熱モデルに基づく温度履歴解析の精度向上を図るためには、養生条件の定量的評価法の確立、長期発熱特性の試験・評価法の確立および打設温度の違いに起因する積算発熱量の相違の把握が重要であることを論じた。

 第6章では結論として、各章で得られた結果についてまとめた。

 以上、本研究では、高炉水砕スラグ微粉末を多量に使用したコンクリートを現地混合し、ELCMで施工することにより、合理化施工が実現できること、および品質上も問題がないことを実証した。最近の事例では、札内川ダム(1996年完成予定、堤高114m)において、高炉スラグコンクリート(長谷ダムと同じ最大スラグ置換率65%)がRCD工法で施工されており、その経済性が注目され始めている。また、明石海峡大橋(3P)主塔基礎(1992年3月打設完了)においても高炉スラグコンクリート(スラグ置換率70%)が採用されている。ELCMに関しては、栗山ダム(1994年完成、堤高31.9m)、三春ダム(1995年完成、堤高65.0m)等の中規模ダムで採用されており、筆者と同様な認識が普及しつつあるものと思われる。混和材とセメントの現地混合に関しては、最近の事例はないが、筆者の試算によれば、長谷ダムの結合材を現地混合することで、その材料費を1,500円/t程度低減できる。したがって、混和材の置換率が高い場合には、現地混合する方が明らかに有利であり、今後、現地混合方式の採用が望まれる。

 一方、我が国の中〜大規模ダムは、現状ではRCD工法もしくはELCMで施工されている。しかし、諸外国では、単位結合材量150kg/m3以上のコンクリートを使用し、我が国の面状工法以上に急速施工性を有するRCC工法が開発されてきている。合理化施工という観点からみれば、この工法に関する研究開発を今後進めていく必要があるものと考えられる。

 筆者の所属する関西電力(株)では、次期揚水発電所建設予定地点において、国内最大級(堤高約150m)の重力ダムを建設する予定である。このクラスのダムでは、品質、コスト、工程、安全管理の点において、従来以上の様々の問題が生じることが予想される。次期地点では、本研究での成果と課題を踏まえ、材料面、施工面、温度規制面の研究開発を推進して、より一層の合理化施工を図るつもりである。

審査要旨

 本論文は,わが国で初めて,重力式コンクリートダムに,高炉スラグ微粉末の現地混合使用および拡張レヤー工法を適用し,施工実績に基づいて,その経済性ならびにコンクリート品質の評価を行い,重力式コンクリートダムの合理化施工法を提案するものである。

 第1章は,序論であって,本研究の背景および目的を述べている。

 第2章は,コンクリートダム建設技術の変遷を概観し,拡張レヤー工法の開発経緯とその特徴を体系的に述べたものである。

 長谷ダムを対象として面状工法の優位性を定量的に評価した。すなわち,工期を同じとした場合には,従来の柱状工法にくらべて,堤体コンクリート1立方メートル当たり2,000円程度の経済化が図れたのである。また,ダムコンクリートの品質,特にコンクリートの水和発熱特性の変遷を整理し,最近の20年間で断熱温度上昇が約10℃低下してきていることを明らかにした。

 第3章は,高炉スラグ微粉末コンクリートの材料面における研究成果について述べたものである。

 セメントおよびモルタルの実験結果に基づいて,高炉スラグ微粉末の粉末度を3,000〜3,500とし,スラグの置換率を65%以下とするのが適切であることを示した。そして,これを用いたコンクリートの品質ならびに発熱特性が,従来のフライアッシュを用いたダムコンクリートと同等の性質であることを確認した。これらによって,高炉スラグを多量に混合したコンクリートがダムコンクリートとして適切であることを明らかにしたのである。

 また,高炉スラグを多量に混入したコンクリートの発熱特性が,打設温度および雰囲気温度に対して極めて敏感であることを示し,施工時にこれらのことを注意する必要のあることを述べている。

 第4章では,施工実績の分析から得られたダムコンクリートの材料特性と品質および急速施工を実現するための各種工夫について述べている。

 適切な品質管理を行えば,高炉スラグ微粉末の品質は長期にわたって安定しておりコンクリートの品質は現地混合を行っても全く問題ないことを実証している。また,堤体コンクリートの温度観測によって,このコンクリートが低発熱型であると共に,温度依存性が高いことを確認している。

 プレキャストコンクリート型枠ブロックによる監査廊の形成,打設ヤード境界部における埋め殺し型枠の採用,高標高部における追跡2層打ちなどが,拡張レヤー工法による急速施工の総合効果を十分に発揮させうることを確証している。

 第5章では,ダムコンクリートの温度規制方法を概観し,貫通ひびわれの原因となる温度応力の検討を詳細に行った結果を述べている。

 コンクリートの水和発熱特性がその時点における温度に依存することを考慮した最新の温度解析法を用いると,従来から行われている断熱温度上昇試験を直接用いた温度解析法によるよりも,実測温度履歴を精度良く表現できることを確証している。

 また,リフト内の温度は,深度方向に不均質な温度降下分布を示すこと,当該リフト下部と下位リフトの温度履歴は概ね同一と考えてよく,外部拘束よりも内部拘束が重要であることを明らかにした。このことは,許容温度降下量の設計値を従来よりも大きく設定できることを意味するものであって,温度規制方法の合理化に資するものである。

 第6章は結論であって,高炉スラグ微粉末を多量に使用したコンクリートを現地で混合し,拡張レヤー工法で施工することによって,合理化施工が実現できること,およびコンクリートの品質上も全く問題のないことを実証したのである。

 この研究と実績の後,高炉スラグを多量に用いたコンクリートがダムコンクリートや大橋梁の主塔基礎などに使われ始めており,その低発熱性と経済性とが注目されている。また,拡張レヤー工法も中規模ダムで採用し始めており,本研究の価値が実際の工事現場で実証されつつある。本研究はこの分野の進歩に大きく貢献しているのである。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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