本論文は、"高速・長距離光ファイバ通信システムにおける分散伝送限界の研究"と題し、光伝送システムの大容量化・長距離化を制限する要因を明らかにし、この限界を打破するための方策を示したものである。 まず、通常分散光ファイバを用いたシステムを、1.5m帯に移行した場合の伝送距離限界を、理論・実験両面から明らかにした。次に、このような1.5m帯光伝送システムにおける分散限界を打破する分散補償法を、提案・実証した。さらに、分散シフト光ファイバを用いた光増幅中継系における伝送距離限界について検討し、ファイバの非線形効果を抑圧するための解決策を呈示した。 本論文は、7章から構成されている。 第1章は"序論"である。これまでの光通信の実用化の歴史を振り返り、本論文で取り扱う課題の位置づけを行っている。 第2章は"高速・長距離光通信伝送系における伝送限界"と題し、高速・長距離光通信の伝送限界を決定する要因を明確にしている。さらに、この伝送限界を打破するために本論文で扱う研究課題を、整理して示している。 第3章は"直接変調された半導体レーザのサブモード発振による伝送限界"と題し、通常分散光ファイバを用いたシステムを1.5m帯に移行した場合に伝送距離限界を制限する第一の要因であるサブモード発振を取り上げている。 分布帰還型(DFB)半導体レーザを直接変調して光送信器を構成すると、サブモード発振が生じることがある。本章では、サブモード発振による伝送限界を明らかにし、サブモードを生じない条件は、主モード-サブモード間の閾値利得差で把握できることを理論的ならびに実験的に示した。この結果、/4位相シフトDFBレーザを用いれば、サブモード発振は完全に抑圧できることがわかった。 第4章は"直接変調された半導体レーザのチャーピング波長広がりによる伝送限界"と題し、サブモードが抑圧された直接変調半導体レーザにおける波長チャーピングが伝送特性に及ぼす影響を検討している。時間分解スペクトル測定により、直接変調時のチャーピング特性を明確にし、この結果を用いてギガビット帯の波形歪伝送限界を明らかにした。2.4Gbps以上の1.5m帯通常分散光ファイバ伝送システムでは、チャーピングにより伝送距離は80kmに制限されることが示された。この限界を打破するには、外部変調を用いた光送信器が必要である。 第5章は"外部変調器を用いた光通信システムの伝送限界とプリチャープ法による伝送限界の打破"と題し、外部変調を用いた光送信器で構成されたシステムの伝送限界を制限する要因を分析し、この限界を打破する新技術としてプリチャープ法を提案している。 10Gbpsの1.5m帯通常分散光ファイバ伝送システムでは、外部変調を用いた場合でも、伝送距離は40kmに制限されることを示した。次に伝送距離を拡大する分散補償技術として、送信器内の外部変調器により意図的にチャーピングを与えるプリチャープ法を提案した。この方法により伝送距離は2-4倍程度まで拡大できることを、理論ならびに実験的に示した。 第6章は"光増幅器を用いた超長距離直接増幅中継系の伝送限界と分散アレンジ法による伝送限界の拡大"と題し、分散シフト光ファイバとエルビウム添加光ファイバ増幅中継器を用いた長距離光伝送系に関しての検討を行っている。このようなシステムでは、ファイバの非線形効果により伝送限界が現れる。本章では、分散アレンジ法を新たに提案し、理論・実験により本方式が非線形効果を抑圧しえることを示した。 第7章は本論文の結論である。 以上のように本研究は、高速・長距離光伝送システムにおける伝送限界を支配する要因を分析し、この限界を打破する手段としてプリチャープ法や分散アレンジ法を提案し、実験によりその有効性を確認したもので、電子工学への貢献が大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |