学位論文要旨



No 212532
著者(漢字) 逸見,直也
著者(英字)
著者(カナ) ヘンミ,ナオヤ
標題(和) 高速・長距離光ファイバ通信システムにおける分散伝送限界の研究
標題(洋)
報告番号 212532
報告番号 乙12532
学位授与日 1995.11.09
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12532号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 菊池,和朗
 東京大学 教授 藤井,陽一
 東京大学 教授 多田,邦雄
 東京大学 教授 神谷,武志
 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 助教授 中野,義昭
内容要旨

 将来の高度情報化社会の実現には、画像等の大容量の情報を伝達するサービスが不可欠になる。また、コンピュータの高速化、大規模化に伴い、コンピュータ内、あるいはコンピュータ間の高速デジタル通信は将来必須の技術となっている。これらのサービスを実現するためには、従来我々が使用してぎた電話等の音声帯域をカバーする通信網に比較して1000倍以上の伝送容量を有する通信網が要求される。

 この要求に答える技術として最も有望な技術が低損失、高帯域の伝送路である光ファイバを用いた光通信である。光通信の歴史は、1970年代に始まった光ファイバの低損失化によって始まった。この時代のコーニングによる低損失光ファイバの開発、AT&Tベル研による光通信を目指した半導体レーザの開発を待ち光通信の研究開発は急速に展開した。現在では、従来の電気系1チャンネルの通信容量の数1000倍以上にあたる2.4Gb/sの光通信システムが幹線系の大容量通信路として実用化され、さらには10Gb/sの光通信システムの実用化も検討されている。

 本論文は、筆者が手掛けた高速光通信、特に幹線系の長距離光通信技術に関して行った仕事をまとめたものである。高速・長距離光通信伝送技術の究極の目的は、いかに大きな情報量をいかに遠くまで伝送するかを極める技術といっても過言ではあるまい。この究極の目的の限界は、伝送損失限界と伝送後波形歪限界で支配される。本論文では、主に後者の伝送後の波形歪限界に関して、送信信号の光スペクトル広がりと伝送路である光ファイバの波長分散の関係を実験・理論的に明確にした。まず、現在実用化されている光通信システムで問題となった半導体レーザの直接変調時のスペクトル広がりの伝送特性への影響に関して、筆者独自の方法を通じて実験・理論的に明確化した。さらに将来の超高速伝送系へ対応した技術として筆者が提案した能動的な送信スペクトル変形法であるプリチャープにより従来の波形歪限界の打破できることに関して言及する。また、最後に最近のトピックスである伝送路の損失補償法として光増幅器を用いた光通信伝送系、特に超長距離直接光増幅中継系に関して伝送特性を改善する一方式に関して提案・実証を行った。本論文によって示された伝送可能距離と伝送速度の関係を図1に示す。

図1 本研究を通じて明確になった光ファイバ伝送可能距離と伝送速度の関係
審査要旨

 本論文は、"高速・長距離光ファイバ通信システムにおける分散伝送限界の研究"と題し、光伝送システムの大容量化・長距離化を制限する要因を明らかにし、この限界を打破するための方策を示したものである。

 まず、通常分散光ファイバを用いたシステムを、1.5m帯に移行した場合の伝送距離限界を、理論・実験両面から明らかにした。次に、このような1.5m帯光伝送システムにおける分散限界を打破する分散補償法を、提案・実証した。さらに、分散シフト光ファイバを用いた光増幅中継系における伝送距離限界について検討し、ファイバの非線形効果を抑圧するための解決策を呈示した。

 本論文は、7章から構成されている。

 第1章は"序論"である。これまでの光通信の実用化の歴史を振り返り、本論文で取り扱う課題の位置づけを行っている。

 第2章は"高速・長距離光通信伝送系における伝送限界"と題し、高速・長距離光通信の伝送限界を決定する要因を明確にしている。さらに、この伝送限界を打破するために本論文で扱う研究課題を、整理して示している。

 第3章は"直接変調された半導体レーザのサブモード発振による伝送限界"と題し、通常分散光ファイバを用いたシステムを1.5m帯に移行した場合に伝送距離限界を制限する第一の要因であるサブモード発振を取り上げている。

 分布帰還型(DFB)半導体レーザを直接変調して光送信器を構成すると、サブモード発振が生じることがある。本章では、サブモード発振による伝送限界を明らかにし、サブモードを生じない条件は、主モード-サブモード間の閾値利得差で把握できることを理論的ならびに実験的に示した。この結果、/4位相シフトDFBレーザを用いれば、サブモード発振は完全に抑圧できることがわかった。

 第4章は"直接変調された半導体レーザのチャーピング波長広がりによる伝送限界"と題し、サブモードが抑圧された直接変調半導体レーザにおける波長チャーピングが伝送特性に及ぼす影響を検討している。時間分解スペクトル測定により、直接変調時のチャーピング特性を明確にし、この結果を用いてギガビット帯の波形歪伝送限界を明らかにした。2.4Gbps以上の1.5m帯通常分散光ファイバ伝送システムでは、チャーピングにより伝送距離は80kmに制限されることが示された。この限界を打破するには、外部変調を用いた光送信器が必要である。

 第5章は"外部変調器を用いた光通信システムの伝送限界とプリチャープ法による伝送限界の打破"と題し、外部変調を用いた光送信器で構成されたシステムの伝送限界を制限する要因を分析し、この限界を打破する新技術としてプリチャープ法を提案している。

 10Gbpsの1.5m帯通常分散光ファイバ伝送システムでは、外部変調を用いた場合でも、伝送距離は40kmに制限されることを示した。次に伝送距離を拡大する分散補償技術として、送信器内の外部変調器により意図的にチャーピングを与えるプリチャープ法を提案した。この方法により伝送距離は2-4倍程度まで拡大できることを、理論ならびに実験的に示した。

 第6章は"光増幅器を用いた超長距離直接増幅中継系の伝送限界と分散アレンジ法による伝送限界の拡大"と題し、分散シフト光ファイバとエルビウム添加光ファイバ増幅中継器を用いた長距離光伝送系に関しての検討を行っている。このようなシステムでは、ファイバの非線形効果により伝送限界が現れる。本章では、分散アレンジ法を新たに提案し、理論・実験により本方式が非線形効果を抑圧しえることを示した。

 第7章は本論文の結論である。

 以上のように本研究は、高速・長距離光伝送システムにおける伝送限界を支配する要因を分析し、この限界を打破する手段としてプリチャープ法や分散アレンジ法を提案し、実験によりその有効性を確認したもので、電子工学への貢献が大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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