審査要旨 | | 本論文は,細菌の代謝産物中に植物生理活性を有する新規物質を検索し,それらを単離・構造決定した結果についてまとめたもので,本文3部と序論,及び要約および総括の部等よりなっている。 第1部は,植物病原細菌Psuedomonas syringae pv.syringaeの生産する植物毒素に関するものである。本論文の著者は,わが国で単離されたP.syringae pv.syringe SY12株の培養液よりレタス種子の発芽阻害を指標に,活性物質の検索をおこなった結果インドール酢酸を単雑した。ところで,この種の細菌からは既にsyringomycin,およびsringotoxin等の植物毒素が単離されているものの,それらの構造には不明の点があった。その点に注目し,抗真菌活性を指標に検索をつづけ,デプシペプチド性の新規植物毒素であるsyringostatin A,およびBを単離した。これら化合物について構造解析の結果,両化合物は構成脂肪酸部分がAでは3-hyroxytetrade-canoic acid,Bでは3,4-dihydr oxytetradecanoic acidである点が異なるものの他のペプチド部分構造は同一であることを明らかにした。さらに,類似の構造を有する,syringomycinやsyringotoxinの構造を再検討し,それらの構造を図1に示すように決定した。 図1 Syringostatin A,syringomycie EおよびSyringotoxinの構造 なお,本化合物の生物活性について,その毒性は本物質の界面活性作用による膜構造の破壊による可能性があることを示唆した。 第2部は,放線菌Streptomyces graminofaciensの生産する植物生理活性物質rotihibin関するものである。土壌より分離した放線菌の培養液について,レタス種子の発芽阻害を指標に活性物質の検索を行った結果,S.graminofaciensと同定された1菌株がレタス芽生えの成長阻害活性を示す物質を生産している事を見いだした。そこで,活性の本体の単離を試み主成分としてrotihibinAと命名した新規化合物を単離するとともに,類縁体であるrotihibin Bの存在をも明らかにし,それらの構造を図2のように決定した。 図2 Rotihibin類の構造 Rotihibinは,試験した各種の細菌,真菌,動物細胞等に対しては全く生育阻害活性を示さず,植物に対してのみ成長阻害活性を示した。なお,rotihibinを,タバコに投与したところ葉数を減少することなく草丈の伸長を阻害する矮化作用を示した。 第3部は,Agrobacterium rhizogenesisに感染した植物の生産する新規オパインmikimopineに関するものである。わが国で単離されたA.rhizogenesisの1菌株の感染した植物が新規オパインを生産していることが,筑波大鎌田らにより見いだされ,mikimopinと命名された。本論文の著者は,同菌の感染により生じた毛状根より,mikimopinを単離するとともに,mikimopinが酸性条件下で容易にmikimopinのラクタム体に変換される事を見いだした。ミキモビンおよび,そのラクタム体について構造解析をおこない,図3に示すように既知のオパインであるcucumo-pineとジアステレオマーの関係にある事を証明した。 図3 ミキモピンおよびククモピンの構造 本論文は,細菌類の生産する新規活性物質を単離し,その化学構造を明らかにしたもので,天然物有機化学および生理活性物質化学に対して貢献するところが少なくない。よって,審査員一同は,本論文が博士(農学)の学位請求論文として,価値あるものと認めた。 |