学位論文要旨



No 212579
著者(漢字) 室町,泰徳
著者(英字)
著者(カナ) ムロマチ,ヤスノリ
標題(和) 都心商業地域における駐車政策分析モデルに関する研究
標題(洋)
報告番号 212579
報告番号 乙12579
学位授与日 1995.12.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12579号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 太田,勝敏
 東京大学 教授 岡部,篤行
 東京大学 教授 大西,隆
 東京大学 助教授 桑原,雅夫
 東京大学 助教授 原田,昇
内容要旨

 駐車問題は、近年、最も世論の関心を呼んだ社会問題の1つとなっている。路上に蔓延する違法駐車と道路渋滞は、日本におけるモータリゼーションの進展に交通施設整備が追いつかない状況を象徴している。駐車問題に起因する社会的不経済は、もはや許容限度を越えるレベルに違しているものと考えられる。このような背景の下、都市計画中央審議会は「自動車の駐停車施設整備のあり方とその整備推進方策」についての中間答申(平成3年)をまとめている。答申では、駐車施設の計画的整備の基本的な考え方において、駐車施設整備に関するマスタープラン策定の必要性を指摘している。また、答申に前後して、道路交通法の改正(昭和61年)を始め、車庫法、駐車場法、標準駐車場附置義務基準の改正、公共駐車場建設に対する補助融資制度の整備など、制度上の改革が矢継ぎ早に実施され、駐車施設整備の環境は急速に整いつつある。今後、地方自治体においては、駐車施設整備マスタープランを策定し、その政策手段としてこれら諸制度を活用していくことが重要な課題となる。

 駐車施設整備マスタープランの策定においては、まず駐車問題への対応の基本方針を定め、これに沿った具体的政策目標を実現する上で適切な駐車政策を選択しなければならない。しかし、従来の日本における駐車需要算定法は公共駐車場の建設を中心とした供給サイドの駐車政策を指向しており、今後重要性が増すと考えられる需要サイド、ドライバーの行動に直接働きかける駐車政策への対応は不十分である。そこで、本研究では、

 1)需要サイドの駐車政策を検討し得る新しい駐車政策分析モデルを開発し、

 2)実際に駐車政策分析モデルを適用して、駐車政策の効果分析を行う

 ことを目的として研究を進めた。具体的な研究対象として、長野県松本市、千葉県柏市、東京都多摩ニュータウン(多摩センター)の各都心商業地域を選択し、対象とする駐車需要を休日の買物目的に限定した。都心商業地域の場合、一般的に平日よりも休日の方が駐車需要が高いと考えられるからである。また、路上駐車需要は分析を過度に複雑化することを避けるため、本研究では対象外としている。

 本研究は、研究目的に対応した二部構成となっている。まず、第一部では、新しい駐車政策分析モデルの開発を行った。第2章では、駐車政策分析モデルの満たすべき必要条件として、ドライバーの行動メカニズム、動的な駐車場サービス水準、駐車場の需要-供給均衡の3つを取り上げ、これらの3条件に照らし合わせながら、駐車場に関連する既存のモデル分析手法、駐事場選択モデル(parking choice models)、駐車需要配分モデル(parking demand allocation models)、及び駐車場パフォーマンスモデル(parking performance models)に関するレビューを行った。そして、駐車政策分析モデルの必要条件は、各モデルの特徴を活かしながら統合して用いることにより満足されることを示した。

 第3章では、本研究で開発した駐車政策分析モデルのフレーム(地域モデルと地区モデル)を提示した。地域モデルは4段階交通需要予測法に準じた従来の駐車需要算定法に基づいており、都市全域を対象として、ドライバーの買物頻度、目的地、交通手段に関する選択行動、及び都心商業地域における駐車場選択行動をモデル化する。出力としては、目的地別手段別1日買物トリップ数が与えられる。また、本研究の中心的課題である地区モデルは、地域モデルで与えられる1日買物トリップ数を前提として、都心商業地域内の細かな車の動きを追跡することとなる。具体的には、都心商業地域内に発生する時間帯別駐車需要を、時間軸に沿った車1台ごとの動的マイクロシミュレーションにより配分する。各車がどの駐車場を選択するかは、ドライバーの駐車場選択モデルにより決定する。また、駐車需要配分と各駐車場容量のバランスにより発生する駐車場入庫待ち時間は、駐車場パフォーマンスモデルを通じて内生的に作り出される。この様に3種類のモデルを統合して適用することにより、駐車政策分析モデルの満たすべき3つの必要条件を満足し、需要サイドの駐車政策分析を行うことが可能となる。出力としては、平均駐車場入庫待ち時間など駐車場サービス水準が算出される。

 第4章では、駐車政策分析モデルの現状再現性、及び将来予測性が非常に高いことを確認した。また、駐車政策分析モデルを構築する際のデータ要求性はそれ程高くなく、必要となるデータは、通常の駐車施設整備マスタープラン策定に先だって実施される駐車施設調査項目でほぼカバーされることを示した。

 第二部では、実際に駐車政策分析モデルを適用して、駐車政策の効果分析を試みた。具体的な駐車政策として、駐車場案内・誘導システムの導入、駐車料金システムの改善、公共駐車場の建設を取り上げた。第5章では、都心商業地域における駐車場案内・誘導システムの導入効果に関する分析を行った。その結果、情報提供精度がドライバーの駐車場選択行動に影響を与える点、情報提供によりドライバーの駐車場選択肢集合が拡大する点を示した。また、駐車場情報提供が効率的な駐車場選択行動と駐車場選択の機会増大をもたらす結果、ドライバーの平均駐車場選択効用増大、及び平均入庫待ち時間減少に寄与する点を示した。

 都心商業地域では、通常単位時間当たりの駐車料金設定に加えて、駐車料金割引を受けられる買物金額、駐車料金を無料とする駐車時間の設定など駐車需要サイドに働きかける内容に幅を持っている。第6章では、この様な駐車料金システムの改善がドライバーの駐車場利用状況に与える効果を検討した。検討の結果、駐車料金システムがドライバーの駐車場選択行動、駐車時間分布に影響を与え、かつ両者に相関関係が存在する点を示した。また、駐車料金、駐車料金無料時間の設定変更などの駐車料金システムの改善が、ドライバーの平均駐車場選択効用増大、及び平均入庫待ち時間減少に寄与する点を明らかにした。

 第7章では、駐車容量と駐車需要のバランスを決定する具体的要因を整理し、これを基に駐車政策分析モデルを適用した駐車場パフォーマンス関数の導出を行った。また、駐車場パフォーマンス関数を利用し、都心商業地域における公共駐車場の建設に関する効果分析を行った。駐車容量と駐車需要のバランスを決定する要因としては、駐車容量に加え、駐車需要(駐車車両の到着、駐車時間分布)の時間変動、ドライバーによる複数駐車場の選択的利用、都心流入経路等が存在し、各々駐車場パフォーマンス関数に大きく影響する点を示した。さらに、駐車需要計画値と駐車場サービス水準計画値を与件とし、駐車場パフォーマンス関数がこれらを満足するように公共駐車場の整備水準を検討する必要がある点を示した。

 本研究において開発した駐車政策分析モデルは、地方都市、大都市郊外部中心都市の都心商業地域を対象としたものであり、適用範囲が限定されたものである。しかし、従来の駐車需要算定法では取り扱いにくい需要サイドの駐車政策効果をより的確に分析することが可能である。今後、地方自治体が駐車施設整備マスタープランを策定し、これを達成するための適切な駐車政策を選択する際には、本研究における駐車政策分析モデルが重要な計画情報を提供し得る局面が少なからず存在するものと考えられる。

審査要旨

 市街地における違法路上駐車をはじめとする駐車問題は、道路交通渋滞、交通事故等の原因として大きな社会問題となっている。本論文は、駐車問題への工学的アプローチとして駐車施設整備を取り上げ、そのベースとなる駐車政策に関わる体系的な分析手法を構築しようとしたものである。具体的には、駐車施設に対する需要サイド、供給サイドとその均衡プロセスを明示的に分析に組み入れた新しい駐車政策分析モデルを開発し、実際に適用して、駐車政策の効果分析を行い、その適用性が高いことを示している。

 研究対象としては、現在駐車問題が深刻な都心商業地域をとりあげ、長野県松本市、千葉県柏市、東京都多摩ニュータウンを調査対象地域として、駐車需要が大きい休日の買い物交通について調査、分析を行っている。

 論文は、駐車政策分析モデルの開発に関わる第一部と、その適用による政策効果分析を行った第二部の2部構成となっている。第一部の第2章では、まず既存研究のレビューを行い、駐車政策分析モデルの満たすべき必要な3条件としての、ドライバーの行動メカニズム、動的な駐車場サービス水準、駐車場の需要-供給均衡については、既存の駐車場選択モデル(parking choice model)、駐車需要配分モデル(parking demand allocation model)、及び駐車場パフォーマンスモデル(parking performance model)の各モデルの特徴を活かしながら統合して用いることにより満足されうることを示している。

 第3章では、駐車政策分析モデルのフレームとして地域モデルと地区モデルの2レベルを提案している。地域モデルは4段階交通需要予測法に準じた従来の駐車需要算定法に基づいており、都市全域を対象とした、目的地別手段別1日買い物トリップ数を推定するものである。次に、地区モデルは、地域モデルで与えられる1日買い物トリップ数を前提として、都心商業地域内の1台ごとの車の動きを動的に追跡するもので本論文の中心的内容となっている。具体的には、都心商業地域内に発生する時間帯別駐車需要を、車1台毎の動的マイクロシミュレーションにより配分する。各車がどの駐車場を選択するかは、ドライバーの駐車場選択モデルにより決定する。また、駐車需要配分と各駐車場容量のバランスにより発生する駐車場入庫待ち時間は、駐車場パフォーマンスモデルを通じて内生的に算出する。この様に3種類のモデルを統合して適用することにより、駐車政策分析モデルの満たすべき3つの必要条件を満足し、需要サイドの駐車政策分析を行うことができることを示している。

 第4章では、駐車政策分析モデルの現状再現性、及び将来予測性が非常に高いことを確認し、また、駐車政策分析モデルを構築する際のデータ要求性はそれ程高くなく、必要となるデータは、通常の駐車施設整備マスタープラン策定における調査項目でほぼカバーされることを示している。

 第二部では、実際に駐車政策分析モデルを適用して、具体的な駐車政策の効果分析を行っている。第5章では、都心商業地域における駐車場案内・誘導システムの導入効果に関する分析を行い、情報提供精度がドライバーの駐車場選択行動に影響を与えること、情報提供によりドライバーの駐車場選択肢集合が拡大することを示している。また、駐車場情報提供が効率的な駐車場選択行動と駐車場選択の機会増大をもたらす結果、ドライバーの平均駐車場選択効用の増大、及び平均入庫待ち時間の減少に寄与することを示している。

 第6章では、駐車料金システムの改善がドライバーの駐車場利用状況に与える効果を検討し、駐車料金システムがドライバーの駐車場選択行動、駐車時間分布に影響を与え、かつ両者に相関関係が存在することを示している。また、駐車料金、無料時間などの駐車料金システムの改善が、ドライバーの平均駐車場選択効用の増大、及び平均入庫待ち時間の減少に寄与することを明らかにしている。

 第7章では、駐車容量と駐車需要のバランスを決定する具体的要因を整理し、これを基に駐車政策分析モデルを適用した駐車場パフォーマンス関数を導出し、それを用いて、都心商業地域における公共駐車場の建設に関する効果分析を行っている。駐車容量と駐車需要のバランスを決定する要因としては、駐車容量に加え、駐車需要の時間変動、ドライバーによる複数駐車場の選択的利用、都心流入経路などがあり、駐車場パフォーマンス関数に大きく影響することを明らかにしている。さらに、駐車需要計画値と駐車場サービス水準計画値を与件とし、駐車場パフォーマンス関数がこれらを満足するように公共駐車場の整備水準を検討する必要があることを示している。

 本研究において開発された駐車政策分析モデルは、地方都市、大都市郊外部中心都市の都心商業地域を対象としたものであるが、従来の駐車需要算定法では取り扱いにくい需要サイドの駐車政策効果をより的確に分析することが可能であることから、今後、地方自治体が駐車施設整備を進める場合、基本となる駐車政策を選択する際に有用な分析手法となると考えられる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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