【背景、目的】 レーザー発振は、1960年にMaimanにより固体のCr3+を含有するルビー結晶をレーザー媒質として、波長694.3nmの可視域において実現された。現在使われているCO2、Nd:YAG、色素、半導体などの多くのレーザーも既に1960年代に開発され、これに伴い利用できる発振波長域も広がった。 1968年にMulvaneyとBeckが、レーザーを用いたin vitroにおける尿路結石の破砕を行い、波長694.3nmのパルス発振ルビーレーザーについては結石を小片にするのに最も満足すべき方法の一つであり、有意な衝撃波の発生を認めたとし、波長1060nmの連続発振CO2レーザーにおいては10秒間の結石表面への照射により、熱作用による蒸散と炭化を認めている。 1987年には、熱作用が主な連続発振に対してパルス発振のCoumarin504をレーザー媒質とした波長504nm、パルス幅1 sec.の最初の実用的なレーザー砕石器がWatoson、Dretlerらにより完成され、広く臨床に用いられるようになった。波長504nmは主としてヘモグロビンへの低吸取性を考慮して決められている。 現在レーザー砕石には、すべてパルス発振のレーザー光が用いられている。破砕には、レーザー光が結石表面でよく吸収され、有効な衝撃波が形成されることが必要と考えられる。また、光の吸収には照射波長に対する被照射物体の表面反射率が関与し、衝撃波の形成には、照射光のパルス幅、パルスエネルギー、ファイバーコア径に依存したパワー密度(PPWD)だけではなく、光子のエネルギーレベルを決める波長が重要な因子と推察される。しかし、これまで安全で効率的な結石破砕を行う上での、レーザー波長と発生する衝撃波、結石を含む被照射物体の表面反射率との関係は十分検討されていない。 そこでまず、吸光特性により、結石への吸収がよく誤照射のとき組織への吸収が低いと考えられる波長を、発癌の可能性のある紫外域未満の短波長を除く可視光を中心とした波長帯域において選定した。またその安全性、砕石波長としての妥当性を、現在実用化されている波長504nmの色素レーザー光を対照として検討した。 次に、これら二つの波長を用いて、レーザー波長および被照射物体の表面反射率が衝撃波の形成にどのように関与するかを検討するとともに、効率的な尿路結石の破砕を行うために、結石の表面反射率を変化させることによる衝撃波の増幅効果、破砕力の増強作用について、そのメカニズムも含め検討した。 【方法】(1)積分球を付設した分光光度計でシュウ酸カルシウム結石(CaOX)、リン酸カルシウム結石(CaP)、尿酸結石(UA)、シスチン結石(Cys)、ヒト摘出尿管の表面反射率および血液、純水、生埋食塩水の透過スペクトルを測定した。血液は全血を薄層標本として溶血させずにプレパラートにカバーグラスで挟んだものの透過スペクトルと溶血させたものの吸収スペクトルを測定した。 (2)選定波長の臨床応用における妥当性を(1)結石破砕と衝撃波:CaOX、CaPに照射し、破砕に要するパルス数および発生する衝繋波をピエゾ素子からの出力電圧として定量化して比較、(2)照射点の温度分布:結石、豚摘出尿管に、コア径159 mのファイバーで40mJ/pulse(PPWD2.01×1018W/cm2)、10pps、50秒間、接触照射し、水面下では照射点直上の水面上の温度として赤外放射をサーモグラフィーで検知、(3)組織障害作用:雑種成犬を静脈麻酔し生理食塩水で灌流しながら膀胱、尿管壁の粘膜上皮にコア径200 mファイバーで出力30mJ/pulse(PPWD9.55×1017W/cm2)、1ppsで30パルス、50パルスに分けて垂直に接触照射し、光顕的に比較観察、(4)豚におけるヒト尿路結石の内視鏡的破砕実験:豚を静脈麻酔して腎盂尿管移行部にCaPを埋め込み、経尿道的に9.6Fr軟性尿管鏡を用いて、ファイバーコア径300 m、40mJ/pulse(PPWD5.66×1017W/cm2)、10ppsにて砕石、などにより検討した。 (3)表面反射率の異なる被照射物体として4色の色別チョークと4色の色別プラスチック板を用い、30mJ/pulse(1.51×1018W/cm2)、1ppsで生理食塩水中で照射した。衝撃波はピエゾ素子により出力電圧として定量化した。赤、青、白のチョークについては破砕を行い、反射率、衝撃波と損失重量との関係を求めた。また、歪みゲージをプラスチック板に固定し、衝撃波を歪み量として溶液を媒介とせずに直接定量化することにより、反射率と衝撃波との関係を求めた。 (4)灌流用生埋食塩水に生体に無害な色素のインジゴカルミン(インジゴ)、PSP注射用溶液(PSP)を添加して着色し、添加10倍希釈から400倍希釈の溶液の吸収スペクトルと、溶液中の赤、白プラスチック板の色素添加による反射率の変化を求めた。次に、溶液中で結石、プラスチック板にコア径159 mのファイバーでレーザー光をパルス幅] sec.、出力40mJ/pulse(PPWD2.01×1018W/cm2)で照射し、着色前後の衝撃波の増幅効果をピエゾ素子により計測した。また生理食塩水中とPSP添加100倍希釈溶液中でCaOX4個、CaP6個の砕石を試みた。また色素添加による溶液の音響インピーダンスの変化を考慮し、反射率の高い白色プラスチック板に歪みゲージを直接固定し衝撃波の増幅効果を計測した。 【結果及び考察】 (1)結石は何れも波長が短いほど反射率は低下し、波長の短いレーザー光の方が吸取が高いと考えられた。血液はヘモグロビンの吸収スペクトルの特徴が現れ、420nmに大きな吸収ピークが認められ透過光は減少した。600nm付近以降の長波長域では純水、生理食塩水と吸光特性はほぼ一致し、1100nm付近までは高い透過率を示した。ヒト摘出尿管の反射スペクトルは420nm付近を中心として、390nmから445nm付近の波長域の反射が軽度低下し、ヘモグロビンの吸収スペクトルの一部を反映していると考えられた。 よって吸光特性からは、結石への反射が低く組織への吸収が比較的高い波長としては、420nm付近を避けた比較的短い波長域が適当と考えられた。 一方、可視光域の広い波長域に渡ってパルス発振が得られるレーザー媒質にCoumarin色素があるが、Coumarin色素レーザーはCoumarin504による504nmでは十分な出力を得ることができたが、波長が短くなるほど安定した出力を得るのが技術的に困難となった。上記波長域のCoumarin480による波長480nmを実用に供する最短波長として選定した。480nmの波長特性、結石破砕における妥当注を、504nmを対照として検討した。パルス幅は励起光のXeフラッシュランプに依存した1 sec.を用いた。 (2)(1)波長480nmと504nmをCaOX、CaPに同一出力で照射すると、反射率が低く波長の短い480nm光の方が大きな衝撃波を発生し、少ない照射回数で破砕がみられる傾向があった。(2)サーモグラフィーで検知された結石表面の温度分布は、照射点の44.4℃を最高点として同心円状に外側に向かって低下した。摘出尿管では23.2℃から30.8℃までの7.6℃上昇した。温度上昇は局所的であり、臨床的には許容限度内と考えられた。(3)膀胱、尿管への照射点は、ともに肉眼的には直径1mm以下の極小さな暗赤色の斑点状となった。光学顕微鏡的には両波長とも膀胱では30パルスで粘膜下出血、浮腫を認め、50パルスでは加えて筋層上部の断裂を認めた。光学顕微鏡により形態計測した組織障害の深さ(%は壁全層に対する深達度)は、尿管では両波長ともに30パルス、50パルスで100%、膀胱壁では480nmでそれぞれ2.96±0.25mm(32.12±2.37%)、2.81±0.22mm(40.18±2.04%)、504nmでは2.17±0.37mm(38.58±4.80%)、2.95±0.11mm(39.32±2.16%)であった。障害の深さは30パルスで480nmが有意に大きかったが深達度では差がなく、50パルスでは両波長間に統計学的有意差を認めなかった。(4)レーザー照射そのものに起因する組織障害は肉眼的には認めず、主に内視鏡操作によるものと考えられた。以上の実験結果からは、480nmレーザー光は504nm光と同等以上の砕石効果、安全性が期待された。 (3)4色のチョーク、プラスチック板における照射レーザー波長と対応する表面反射率および発生する衝撃波との関係は、同一出力、同一パワー密度においても、波長が短く反射率が低下するに従い衝撃波は有意に増大した。反射率Rと衝撃波Sはチョーク、プラスチック板ともに累乗相関することから両者の間には logS∝logR-1より、S=aRb a、b>0の関係が想定できた。a、bは照射条件と物性に依存した定数と考えられた。 また、衝撃波をプラスチック板における歪量として定量化した場合も同様であった(図1)。 図1 色別チョーク、ブラスチック板における反射率とピエゾ素子により定量化した衝撃波の関係衝撃波を歪ゲージで定量化した場合にも同様に累乗相関した. 損失重量は、反射率の小さい赤が最大で、大きい白で最も少なかった。同一レーザー光の照射エネルギーと衝撃波の大きさは、累乗相関して発生した。 (4)インジゴ、PSPを生理食塩水に添加した溶液の透過スペクトルでは、レーザー波長480nm、504nm付近における透過率は生理食塩水に比べそれぞれ低下した。CaOXをインジゴ400倍希釈溶液、PSP100倍希釈溶液中に置き照射すると、生理食塩水中と比べ衝撃波はそれぞれ平均1.73倍、1.62倍に増幅された(図2)。 図2 生理食塩水へのIndlge carmlne,PSP添加による衝撃波の増幅効果 パルス数は生理食塩水中で33.7±8.3、PSP溶液中で15.3±4.2(平均±標準誤差)であり、PSP溶液中の方が有意に少ない照射回数で破砕された。白と赤のプラスチック板をインジゴ400倍希釈溶液中に入れ、着色前後の反射率の差と発生する衝撃波の大きさとの関係をみたが、差の大きい白色プラスチック板の方が有意に大きく増幅された。また、インジゴの濃度を上げ200倍希釈とすると更に増幅されたが、増幅の程度は必ずしも反射率の低下した程度にはよらず、添加色素の濃度に依存していた。歪みゲージを固定した白色プラスチック板では、PSP400倍希釈溶液中で照射することにより、衝撃波は照射出力が20mJ/pulse以上では、生理食塩水中と比べて有意に増幅された。これらの作用は、色素が照射面に付着することにより、レーザー光の吸収が増大したためと考えられた。 【まとめ】 パルス発振レーザー波長480nmは尿路結石の砕石波長として妥当であった。照射出力、パワー密度、ピークパワー密度が同一であっても、波長が異なれば発生する衝撃波の大きさは異なることが示された。照射により発生する衝撃波Sと被照射物体の表面反射率Rには、S=aRb、a,b>0定数が想定できた。また、溶液を着色して結石の表面反射率を低下させ、照射レーザー光の吸収を高めることにより、衝撃波を増幅させ砕石効率を高めることが可能であった。これは、結石表面に色素が付着しレーザー光の吸収が高まるためと考えられた。 |