学位論文要旨



No 212596
著者(漢字) 三井,弘
著者(英字)
著者(カナ) ミツイ,ヒロシ
標題(和) リウマチ性疾患とHLA : 特に小児のリウマチ(JRA)について
標題(洋)
報告番号 212596
報告番号 乙12596
学位授与日 1995.12.20
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第12596号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 伊藤,幸治
 東京大学 教授 桐野,高明
 東京大学 教授 大塚,柳太郎
 東京大学 助教授 早川,浩
 東京大学 講師 竹内,二士夫
内容要旨

 近年、多くの自己免疫疾患がHLA抗原とその発症において深いかかわりをもつ事がわかってきている。自己免疫疾患の中でも、特にリウマチ性疾患で多くのこの分野の研究が世界中で行われているが、もっとも盛んに研究されている疾患はRA(慢性関節リウマチ)である。さて今回、リウマチ性疾患の1つであるJRA(若年性関節リウマチ)について、同様の見地よりHLAとの関連を探り、その発症の病因を研究する目的で、日本人JRA患者についてHLAの検査を施行した。

 JRAの診断はACRの診断基準を完全に満たすものとし、66名の患者を対象とした。JRAは発症のタイプより、3つのサブタイプに分けて、HLAとの相関を調べた。HLAの検査はP.テラサキによって確立した方法に基づいてクラスI、IIの抗原を決定した。さらにDNAタイピングによりHLA-B39、DR4、DR8のサブタイプを決定した。この方法はPCR-SSCP法によった。これらの結果はx2検定(Yate’s correctionを加えて)により評価した。

 結果として興味あるものは、クラスIの中のB39とB59であったが、特にB39はJRAのPauclarticular onset(PA型)のもので有意に高い頻度にみられた。さらに共通のアミノ酸をB PocketにもつB38、B27もこの臨床系でみられた。この結果から、JRAのこの臨床タイプであるPA型は強直性脊椎炎等のいわゆるSeronegative spondylarthropathyと近い関係をもつものではないかと考えられた。クラスII抗原の結果からはDR4とDR8がはっきりとした傾向を示した。すなわちDR4は、発症年齢の高い患者やpolyarticular onset(PO型)では非常に高い頻度となり、逆に若年発症例(early onset)ではむしろ低い頻度であった。これと反対にDR8はlate onsetのJRAでは非常に低い頻度を示した。これらのクラスII抗原の結果から考えられた事は以下のごとくであった。すなわち、DR4はJRAにおいては成人のRAへの移行あるいはそのマーカーであり、反対にDR8は、成人のRAへの進行を阻止するものであるという可能性が高いという事であった。このDR4はJRAではクラス1のB59と共同に行動をしていると考えられた。

 DNAタイピングによるサブタイプの結果は、B39、DR4、DR8ともそのサブタイプそのものの役割を特に示す結果は得られず、民族的な差を示しているのみであった。しかしHLA-B39については欧米での報告がほとんどないためまだ結論を出し得ない状況であろう。

 結論的にまとめると、今回の日本人JRAの研究は多くの興味あるものを示したが、これをさらに深く究明するためには、我が国においてもさらにもっと多くの報告、研究がなされる必要があろう。日本人においてのこの研究はそれらの研究の第一歩となった事を確信する。

審査要旨

 本研究は自己免疫疾患の発症に重要な役割を演じていると考えられるHLAと、自己免疫疾患の1つである若年性関節リウマチ(JRA)との関連を明らかにしようとして、下記の結果を得ている。

 1.日本人JRA患者66名においてHLA抗原の頻度を調べた。また臨床的にこれらの患者を発症の様式により3つに分類(Systemic,Pauciarticular,Polyarticular)し、これらの臨床タイプとHLAの頻度を調べ、比較が示された。

 2.これらの結果では、全体のJRAの中でみると、クラスI抗原ではHLA-B39とB59の頻度が高かったが(P<0.1,p<0.01)、クラスII抗原では有意の相関を示すものは示されなかった。

 3.発症の臨床タイプ別では、クラスIは、PauciarticularタイプでHLA-B39が33.3%(P<0.01)と高い頻度にみられた。このB39抗原とHLAのBポケットにおいて共通のアミノ酸構造を持つB38、B27もこのタイプで認められている。これらのB39、B38、B27の合計の頻度はこの臨床タイプで46.7%(P<0.001)となる。この結果から、この臨床タイプのJRA(Pauciarticular onset)は、B27と非常に強い関連をもつとされる強直性脊椎炎を中心とする、いわゆるseronegative spondylarthropathyに非常に近い疾患であろうという考えが示された。

 4.クラスII抗原はJRA全体としてみた場合、はっきりとした傾向は認めなかったが、これも発症の臨床タイプでは、DR4がPolyarticularタイプで60.0%(P<0.05)に認められた。これは成人のRAのDR4の頻度に近い数字と考えられたので、このタイプのJRAは成人のRAに非常に近いものという考えが示された。他の臨床タイプではPauciarticularタイプで40.0%とやや低い傾向がみられた事は3.の結果の内容と合致していた。DR8についてはこれとまったく逆の結果となりPolyarticularタイプでは11.5%、Pauciarticularタイプでは40.0%で、両者の差は有意のものであった(P<0.05)。これらのDR4とDR8の2つの抗原の対立する傾向は、発症年齢や予後を考慮した分析ではより著明であった。これらの結果は、欧米において広く認められている内容とよく合致していた。すなわち、発症年齢の若い患者や予後の良い患者ではDR8の頻度が高く、DR4は反対に低いというものである。

 5.今回の研究において中心となったHLA抗原について、さらに詳しく分析が行われた。DNAタイピングによりサブタイプが検討されたが、DR4ではほとんどがDRB1*0405であり、これは日本人の成人のRAの結果と一致するものであった。DR8はDRB1*0803とDRB1* 0802の2種類であったが、特別な傾向は見出だせなかった。B39についてはB* 3901が9症例とB* 3902が2症例にみられた。強直性脊椎炎で同じサブタイプをみてみたが、同じような傾向が示された。このサブタイプは他の研究グループの結果がまだ示されていないため、分析の意味付けは今後の課題と考えられた。

 以上の結果については、研究方法や手法に特に問題となる点はなく、その結論に至った考え方も妥当と考えられる。本論文は小児のリウマチ疾患の発症のメカニズムの解明に重要な貢献をなすと考えられ、本学位の授与に十分に値するものと考えます。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/53931