学位論文要旨



No 212598
著者(漢字) 中川,恵一
著者(英字)
著者(カナ) ナカガワ,ケイイチ
標題(和) 放射線治療装置を用いた超高圧X線CT装置による治療計画および照合法に関する研究
標題(洋)
報告番号 212598
報告番号 乙12598
学位授与日 1995.12.20
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第12598号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 青木,芳朗
 東京大学 教授 鈴木,紀夫
 東京大学 教授 桐野,高明
 東京大学 教授 木谷,健一
 東京大学 講師 酒井,一夫
内容要旨

 放射線治療における物理学的原則は,癌病巣に放射線を集中させて周囲の正常組織の被曝線量を可及的に減らすことである.原体照射法はガントリーの回転中に多分割絞りコリメータの開度が角度に応じて,ダイナミックに変化するもので,我が国で世界に先駆けて開発され,広く普及した高精度放射線照射技術である原体照射ではわずかな誤差も問題とされるので,その照合が重要視されてきているが,照射野が連続的に変化するため,ポータルイメージによる照合が不可能であるという制限があった.

 筆者らは,原体照射の有効性を高める目的で,照射装置から発生する治療ビームを用いたCT画像取得システム(超高圧X線CT装置)を開発した超高圧X線CTスキャンは,タングステン酸カドミウムシンチレー夕とフォトダイオードを組み合わせた素子120個からなる検出器を線源から160cmの位置に装着して,回転照射の要領で行う.画像再構成にはビームハードニング補正とパルス線量補正を考慮した.

 撮像時間は35秒,画像再構成時間は約1分であった.空間分解能は約4mmでコントラスト分解能は4%程度であった.幾何学的再現性は保たれていた.被曝線量は2.8 cGyで放射線治療患者には容認できるものであった.画質については診断用CT装置より劣るものの,放射線治療の照合用としては十分臨床応用可能であった.

 原体照射における本装置の臨床応用として,1)位置決めの照合法,2)超高圧X線CTを用いた治療計画,3)リアルタイムモニタリング,4)1回大線量体外照射法を開発した.

1)位置決めの照合法

 治療寝台上で患者設定を行った直後の超高圧X線CTを治療計画用CTと比較することで,治療計画によるアイソセンタの設定の再現性を評価するものである.実際には,治療計画用CT画像を,計画上のアイソセンタを超高圧X線CTの画像中心に一致させるように超高圧X線CT画像に重ね合わせて,両CT画像の一致度を評価する.表1に実際の原体照射例での誤差の検出結果をまとめる.誤差評価に要した時間は10-15分であった.

 16例中4例で回転を伴う誤差を認めており,これらを除く12例の左右方向,背腹方向,頭尾方向の誤差はそれぞれ0-4mm(平均0.83mm),0-10mm(平均2.5mm),0-4mm(平均0.67mm)で,背腹方向の誤差が目立った.

 胸部,骨盤では骨や肺により臓器の輪郭が明瞭となるが,上腹部では臓器輪郭が不明瞭となる場合が多かった.頭尾方向の誤差については,骨や肺が頭尾方向に変化する頭頚部,胸部,骨盤部では評価が容易であったが,上腹部や頭頂部では評価に困難を認めた.

 本法によって,従来のライナックグラフィ・によるよりも定量的な誤差評価が可能となった他,体位の回転も容易に検出可能となった.

2)超高圧X線CTを用いた治療計画

 本法では治療体位で撮影された超高圧X線CT画像を治療計画装置に転送して,これを用いて治療計画を作成し,決定された治療条件を治療装置へ転送する.この間患者は撮影時の体位を保持したまま臥床したままであり,短時間にすべての過程を完了する必要がある.これによりCT寝台から治療寝台への移動が省けるため,寝台移動に伴う誤差が解消できる.小さなターゲットに対して,1回の照射で大線量を投与する定位放射線治療において本法は有効であり,4治療で本法が応用された.超高圧X線CTの撮影開始から照射開始までの時間は19分,26分,20分,20分であった.CT,MRIで判定した一次効果はCRが1部位,PRが3部位で得られた.

 本法によって,寝台移動による誤差の低減が可能となった.撮像時間の短縮,分解能の向上が課題である.

3)リアルタイムモニタリング

 とくに原体照射で有効な方法で,1)の手段で位置決めを照合した後,実際の照射中に患者体内から射出されるビームのプロファイルを検出装置から求めて,照射野幅を超高圧X線CT画像上にリアルタイムに表示するものである.120個の検出素子の最大線量の50%を照射野幅として求めた.原体照射を含む回転照射では,回転角度1度毎につまり0.41秒毎にビーム線束を表示する.固定照射では100パルス毎に表示するため,線量率に従って,0.7-7秒毎に表示が変化する.ファントムによる測定では,実際の照射野開度と本法を用いた結果との誤差は最大でも2mmであった.図1に胸壁転移に対する原体照射での本法による照合法を示す.癌病巣とビームとの関係が明らかである.本法を適応した54例中,2例で誤差が検出され,治療を中断した.2例とも治療計画時のCT画像の拡大率の誤りによるものであった.

表1:超高圧X線CTを用いた位置決めの誤差の検出結果

 原体照射で問題とされた照射野開度の視覚的照合が可能となった.一方,照合が中心リーフの開度に限られる点,ターゲットの描出が不十分な点に問題がある.

4)1回大線量体外照射法

 超高圧X線CT用いた照合法により,これまで頭蓋内疾患において定位放射線治療として行われてきた1回大線量投与法が体幹部でも安全に施行できるようになった臨床応用は転移例もしくは良性疾患に限定した.また,1回大線量投与の定義は15Gy以上の線量を1回で照射することとし,通常の分割照射との併用症例も含んだ,対象は31症例(男性17例,女性14例),35治療で,平均年齢54.1歳であった.観察期間は6.9カ月から33.0カ月で中央値は22.2カ月であった.35治療のうち,頭部21治療,非頭部14治療であり,頭部例のうち,脳膠芽腫3例,髄膜腫2例,下垂体腺腫1例,脳動静脈奇形1例,神経鞘腫1例以外は脳転移例であった.1回大線量照射での線量は15Gyから25Gy,平均で19.4Gyであった.照射野は全体で縦平均59mm,横幅平均62mmで,体部ではそれぞれ89mmと93mm,頭部では40mmと41mmであった.一次効果はCRが5治療,PRが16治療で得られ,残る14治療ではNCであった.治療終了からの生存期間は0.9カ月から32.13カ月で平均12.03カ月,中央値7.63カ月であった.

 急性障害は放射腺宿酔が3治療,急性十二指腸潰瘍が2治療,脳浮腫が2治療,口腔粘膜炎が1治療,急性胃炎が1治療にみられた.晩発障害については,6カ月以上生存した24治療中,1治療で脳壊死がみられたが,保存的治療により改善している.

 ターゲットの呼吸性移動やターゲット自体の描出能の問題があるが,対象を選ぶことで臨床的意義があると考えられる.

まとめ

 超高圧X線CTを放射線治療計画および照合に応用することで,その精度が向上し,成績の向上に資すると期待される.

審査要旨

 本研究は原体照射の有効性を高める目的で、照射装置から発生する治療ビームを用いたCT画像取得システム(超高圧X線CT装置)を開発し、その臨床応用を試みたものである。装置の開発は既存の直線加速器に新たな検出装置を付加して、そのためのソフトウェアを作成したもので、空間分解能は約4mmでコントラスト分解能は4%程度であった。幾何学的再現性は保たれており、被曝線量は2.8cGyで放射線治療患者には容認できるものであった。画質については診断用CT装置より劣るものの、放射線治療の照合用としては十分臨床応用可能であった。超高圧X線CT装置を用いた臨床研究は他に報告がなく、以下に新しい知見が得られている。

1.位置決めの照合法

 治療寝台上で患者設定を行った直後の超高圧X線CTを治療計画用CTと比較することにより、治療計画によるアイソセンタの設定の再現性を評価するもので、従来の平面写真間で比較する方法とは全く異なる新しい方法である。臨床例16例中4例で回転を伴う誤差を認めており、これらを除く12例の左右方向,背腹方向,頭尾方向の誤差はそれぞれ0-4mm(平均0.83mm)、0-10mm(平均2.5mm)、0-4mm(平均0.67mm)で、背腹方向の誤差が目立った。本法によって、従来のライナックグラフィ-によるよりも定量的な誤差評価が可能となる他、体位の回転も容易に検出可能となることが示された。

2.超高圧X線CTを用いた治療計画

 超高圧X線CT画像を治療計画に利用する点で従来の診断用CT装置を用いない新しい方法である。短時間の画像転送環境と即時治療計画を可能とする治療計画装置を併せて開発したことで、超高圧X線CT撮像から照射開始まで約20分で完了することが示された。定位放射線治療での応用の可能性が示唆されている。

3.リアルタイムモニタリング

 とくに原体照射で有効な方法で、1.の手段で位置決めを照合した後、実際の照射中に患者体内から射出されるビームのプロファイルを検出装置から求めて、照射野幅を超高圧X線CT画像上にリアルタイムに表示するものである。原体照射で問題とされた照射中の照射野開度の確認が始めて実現された。ファントムによる測定では、実際の照射野開度と本法を用いた結果との誤差は最大でも2mmであることが示された。本法を適応した54例中、2例で誤差が検出された。

4.1回大線量体外照射法

 超高圧X線CT用いた照合法により,これまで頭蓋内疾患において定位放射線治療として行われてきた1回大線量投与法が体幹部でも安全に施行できるようになり、31症例で臨床応用された。頭部21治療、非頭部14治療で、1回大線量照射での線量は15Gyから25Gy、平均で19.4Gyであった。照射野は全体で縦平均59mm、横幅平均62mmで、体部ではそれぞれ89mmと93mm、頭部では40mmと41mmであった。一次効果はCRが5治療、PRが16治療で得られ、残る14治療ではNCであった。治療終了からの生存期間は0.9カ月から32.13カ月で平均12.03カ月、中央値7.63カ月であった。急性障害は放射線宿酔が3治療、急性十二指腸潰瘍が2治療、脳浮腫が2治療、口腔粘膜炎が1治療、急性胃炎が1治療にみられた。晩発障害については、6カ月以上生存した24治療中、1治療で脳壊死がみられたが、保存的治療により改善している。放射線治療の新しい方法として適応を選ぶことで意義があると考えられる。

 以上、本論文は超高圧X線CTを用いて、従来報告のなかった新たな治療計画法、照合法を開発して、その臨床的意義を明らかにしている。原体照射に代表される高精度放射線治療の研究に大きな貢献をなすと考えれ、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/50970