わが国の林業上きわめて重要な造林樹種あるヒノキおよびスギの花芽形成特性を、環境要因との関連において解明することは、その応用的価値からしてきわめて重要である。したがって、本研究は生物環境調節施設を使用し、幼齢期におけるヒノキおよびスギの花芽形成の制御の特性を、花芽形成における光・温度要因の関与の解析によって解明し、それを応用した花芽形成の人為的制御技術の開発を行うことを目的として、実験的研究を試みた。 ヒノキ・スギの両樹種の苗木における花芽形成の誘導を実験的に行う方法を確立するために、まず日長処理およびGA処理の効果を予備的に検討し、両樹種の幼齢期における花芽形成の一般的な特性を明らかにした。ヒノキの花芽形成は自然日長が長い時期に17時間の補光処理によって、雌雄花のいずれも分化が促進される。その効果は強光高温下で大きく、低温弱光下で小さかった。スギの花芽形成に対し、あらゆる日長処理は、幼齢期のスギの花芽形成には無効であった。しかし、GA処理をすると花芽形成が促進され、雄花は18時間日長で分化しやすく、8時間日長では分化しにくい。雌花は8時間日長で分化しやすく、18時間日長では分化しにくいことが明らかになった。 幼齢期のヒノキは長日条件によって花芽形成を生じ、日長条件の変化によって人為的に制御できる可能性がある。そこで、幼齢期のヒノキの花芽形成における光・温度要因の関与を解析し明らかにするために以下の実験を試みた。ヒノキの雌雄花の分化には日長依存性が認められ、雄花の限界日長は14時間、雌花は13時間であった。また限界暗期は雄花で4.5時間、雌花では7時間であると推定された。ヒノキの花芽形成は光強度に依存し、雄花の分化には12kLUXを、雌花は21kluxを必要とした。このように花性によって光の要求度が異なることはきわめて特異な特性である。ヒノキの花芽形成に対する光中断の効果は、雄花は14時間主明期後の暗期の中央で500Luxの白色光で光中断をすると分化するが、雌花は10時間主明期でも分化した。12時間主明期後の光中断を光質を変えて与えると、赤色光では雌雄花のいずれも分化する。しかし、遠赤色光では雌雄花のいずれも分化しないことから、ヒノキの花芽形成にはフィトクロムの関与が示唆された。16時間強光日長下で異なる温度条件を与えると、30〜25℃の高温で雌雄花の分化量が多く、20〜15℃の低温で少ないことがわかった。また光合成に関係のない夜温を変えると、夜温が高いほど分化量が多くなり、温度は日長と同様に花芽形成を誘導するシグナル的な役目を持つものと考えられる。 ガラス室および自然光下において、ヒノキの花芽形成反応に対する日長、補光および光中断の効果を2年生苗木および8年生幼齢木を用い明らかにし、実用化技術に向けて応用可能性を調べた。 自然日長後に続く暗期の中央で3段階に光の強さを変えて与えると、花芽形成が促進された。その効果は光強度が強い方が効果的であることがわかった。また光中断の最適処理時期は、自然日長が長く、気温の高い8月処理が最も効果的であった。さらに自然日長が長く、気温の高い時期に、同じ時間でも処理回数を多く与えると、効果もさらに大きくなることがわかった。8年生の幼齢木に対し、自然日長後の暗期の光中断処理によって、雌雄花の分化が著しく促進された。さらに処理回数を多くすると、より効果的であった。 これらの結果を応用したヒノキの種子生産管理のための花芽形成制御を行う場合、補光や光中断処理は弱光によって効果が期待できる。特に花芽形成の困難なクローンや系統に対し、補光および光中断処理とGA処理を併用することにより確実に花芽形成をさせることが可能であると考えられる。 GA処理によって誘導されるスギの花芽形成反応が、環境条件によっていかに制御されているかを明確にし、花芽形成における量と質の両面から人為的に制御を行い、着花促進技術の基礎的な知見を得るために実験を試みた。スギの雄花の分化には最低10klux、雌花の分化には5kluxの光強度を必要とした。スギの雌雄花をバランス良く着生させるための、温度と日長は、25℃で14時間強光日長であった。また雄花は長日長で、雌花は短日長で分化しやすくなることがわかった。花芽形成に対する温度の影響は、高温条件(28〜30℃)では雄花が、低温(20〜15℃)では雌花の分化が促進されることも明らかになった。さらに光質によっても影響を受け、赤色光下では雌花が分化しやすく、雄花は分化しにくい。青および遠赤色光下ではその逆の反応が確認されフィトクロムの関与が考えられた。これまでの実験によって、スギの花芽形成は温度と日長が相乗的に関与しているが、温度と日長の相互作用は温度が主要因で、日長が副次的に作用するものと考えられる。以上のことから、GA処理によって誘導される幼齢期のスギ花芽形成量、花性分化は与えるGAの濃度、時期、補光による日長制御を組み合わせることによって、任意に制御できることるが明らかになった。これらの実験結果をもとに、ヒノキおよびスギの花芽形成制御における光・温度要因の解析とその応用技術を論じた。 |