1,24(R)-ジヒドロキシビタミンD3(1)はビタミンD3の活性本体であろ1,25-ジヒドロキシビタミンD3の類縁体で、細胞増殖抑制能および分化誘導作用を活用した慢性皮膚病、角化症の治療薬として上市されているが、24(R)体と24(S)体の分離を必要とするため効率が悪く、24(R)体の立体選択的な構築法が望まれている。本論文は、キラルな配位子を用いたアルデヒド類に対するジアルキル亜鉛の不斉付加反応による1の立体選択的合成法の研究結果を記したものである。 まず、ステロイド骨格を有する飽和アルデヒド類(2)に対するキラルな-アミノアルコール配位子存在下でのジイソプロピル亜鉛の付加反応の検討を行った。種々検討の結果、キラルな配位子として(-)-DBNE(20mol%)を用いることにより、対応する24(R)体(3)を高収率(最高で80%)、高立体選択的(最高で24(R)体:24(S)体=99.4:0.6)に得ることに成功した。また、この反応において、不斉増殖反応も認められた。 次に、反応基質を対応する,-不飽和アルデヒドに代えて反応を行ったところ、上記の飽和アルデヒドの場合と異なり、5mol%の(-)-DBNEでもイソプロピル化反応は円滑に進行し、対応する24(R)体(例えば4)が高収率、高選択的に得られることを見出した。こうしてえられる24(R)-ヒドロキシコレステロール類は1,24(R)-ジヒドロキシビタミンD3に誘導できることは既に知られている。 さらに、上記のステロイド骨格を有するアルデヒド類に対する不斉イソプロピル化反応を、ステロイド骨格のCD環のみを持つアルデヒド類に適用した。その結果、ステロイド骨格を有するアルデヒド基質の場合と同様に、飽和のアルデヒド類では比較的良い収率、高選択的に、,-不飽和アルデヒド類では高収率、高選択的に対応するイソプロピル化体を得ることができた。これらの事実は、本不斉イソプロピル化反応においては、,-不飽和アルデヒド類のほうがより好適な基質であることを示唆している。ここで得られたCD環をもつイソプロピル化体は、A環とのカップリングによるコンバージェントなビタミンD骨格合成に用いることが可能であり、不斉イソプロピル化反応を活用する1,24(R)-ジヒドロキシビタミンD3合成の途が開拓されたことになる。事実、上記の反応を使って得られたCD環を有するイソプロピル化体(5)を用い、パラジウム触媒によるエンイン環化カップリング反応(Trost法)によって、1が立体選択的に合成できることを示した。 以上本研究は、不斉イソプロピル化反応を用いた24位の立体選択的構築法により、24(R)体と24(S)体の分離を必要としない1,24(R)-ジオヒドロキシビタミンD3の合成法を開拓したものであり、有機合成化学、医薬品化学の進歩に寄与するものとして、博士(薬学)の学位に値するものと認める。 |