VAHS(Virus-associated hemophagocytic syndrome)は、臨床的にはウイルスによる先行感染に引続いて発熱・発疹・出血傾向・肝脾腫などを示し、骨髄において血球貪食細胞の増加を認める原因不明の疾患である。今回われわれは主としてEBVにより起こされたと考えられるVAHSについて臨床サンプルの検討を進めた結果以下の知見を得たのでこれを報告する。 1.EBVによるVAHSにおけるEBV感染細胞のクロナリティについて EBVは全長約170kbのDNAウイルスであり、基本的にはウイルス粒子内ではlinear form、感染した細胞内ではepisomal formの形をとっている。Linear formのEBV genomeの両端にはTR(Terminal repeat)と呼ばれる約500bpの反復配列があり、episomal formに変化するときは両端のTRが結合する。このTRの反復回数はEBVの感染した細胞のクローナル・マーカーとなることが知られており、適当な制限酵素で検体DNAを消化し、TRの全体を含むDNA断片をGenomic Southern hybridizationで検出することによってそのパターンからEBV感染細胞のクロナリティを評価することができる。12例のVAHSの患児の臨床検体を上記の原理によって検討したところ、EBVによるVAHSのサンプルではEBV感染細胞はモノクロナールに増殖している所見が得られた。このことはこの疾患が従来考えられていた様に良性かつ反応性の疾患ではなく、腫瘍としての性格を帯びていることを示すものであると考えられた。 2.EBVによるVAHSにおけるEBV感染細胞の標的細胞について EBVは通常はB細胞に感染して伝染性単核球症の原因となるが、T細胞性のリンパ系腫瘍のうちでEBVによるものがあることが知られている。VAHSにおいてEBV感染細胞の帰属を決定することは、単純なEBV感染症と比較した場合のVAHSの病態を理解する上で有用なことである。われわれはEBER(EBV-encoded small RNA)IおよびIIのアンチセンスRNAをプローブとしてIn situ hybridizationを行なうことにより、VAHSにおけるEBV感染細胞を同定しようと試みた。この結果、EBVの分布は、B細胞(CD20陽性細胞)や血球貪食細胞(CD68陽性細胞)ではなくTCR ・CD45Ro陽性の細胞の分布と相関している傾向が見出された。このことから、EBVによるVAHSの場合にはEBVは比較的成熟したT細胞に感染している可能性があると考えられた。但し、感染細胞には光顕的に見た場合巨大なものがあり、これが巨核球系細胞でないかどうかは、今後検討の必要がある。 以上の所見は従来未知であったこの疾患が一種の腫瘍性疾患であり、かつT細胞がVAHSの病態生理において特別な役割を担っている可能性を示唆するものであると考えられる。 |