共同溝は道路管理者が主体となって公益企業者がその事業費の一部を負担して整備を進めており、道路付属物としての道路構造の機能を向上させる目的で整備されている。近年、都市の高密度化は道路をアクセス機能のみならず、ストックや、防災といった様々な機能の複合体へと変えてきている。このため、共同溝を今後も有効な道路付属物として効果的に整備していくためには複合的な機能について適切な評価を与える必要がある。 本研究は、これまで論理的体系化がなされていない共同溝整備について歴史的経緯を整理するとともに、共同溝の計画的推進を図るに際しての基本条件を明らかにし、共同溝整備効果の計測及び評価手法を体系化することにより、計画的整備の方向付けを行った。 特に、都市景観や地震防災軸としての共同溝整備の在り方についても提案した。 以上を背景として、全7章で構成する本論文の要旨を各章毎にまとめて示せば以下のとおりである。 第1章序論 序論では研究の背景と目的を述べた。 第2章共同溝整備の歴史と役割 共同溝は大正時代に発生した関東大震災後の復興に関連して首都東京の基盤整備の一環として行なわれたものであるが、その範は19世紀にヨーロッパで整備され始めたパイプトンネルや下水道によるところは明らかである。しかし、日本では明治時代に電線類の占用制度が早くも道路法とは別に存在しており、共同溝の設置による占用物件の収容を義務づけることまではいかなかったため、それ以降は整備の進展が見られなかった。 その後の日本経済の復興に伴うモータリゼーションの発達による道路交通の増大は都市部における深刻な交通渋滞をおこすに至った。この交通渋滞の原因の1つとして道路における占用物件のための掘り返し工事があり、共同溝は交通渋滞対策の一環として整備が再開された。都市部の高密度化は、道路空間の利用度を高め、道路空間の輻輳へとつながってきている。 共同溝は、こうした道路地下空間での占用物件の集約化を図るとともに、道路ネットワークを活用したライフラインネットワークの形成のための収容装置としての役割の位置づけも高まっている。 第3章共同溝整備の現状と問題点 本研究では、東京都内の共同溝整備の在り方に注目して分析を進めたが、共同溝整備の現状としては、以下の点が特徴となっている。 (1)共同溝は都内の国道を軸に放射状に整備が進められ、75%の整備が終了し、その他の政令指定都市等を中心とした整備事業も進められ、平成6年には全国で349kmが完成している。 (2)共同溝の整備は、共同溝単独事業及び道路改築等の関連工事に伴うものなどがあるが、初期は都心の工事可能なところから進められ、連結されている。 (3)占用企業者としては電話、電力が最も多く、全ての共同溝に占用している。 これらの現状を踏まえて、共同溝整備に当たっての(1)共同溝整備の手続き、(2)共同溝整備延長、(3)共同溝への公益物件参加状況、(4)共同溝整備の費用負担にみる特徴、(5)計画上の要件、(6)ネットワーク形成上の要件等を明らかにした。 次に共同溝整備上の問題点として、(1)入溝率、(2)整備期間の長期化、(3)占用物件の集約化、(4)整備時期、(5)長期需要予測、(6)共同溝整備の分断部、(7)共同溝整備に伴う支障移設、(8)分岐の増設、(9)新規参入等に係わる問題点を整理した。 これに加え、近年都市防災上の視点からライフラインのネットワーク化が検討され、共同溝とライフラインの関係を明確化することも課題となっている。 第4章共同溝整備効果の計測手法 共同溝整備効果の把握のため、既存の事例を調査し、現状で共同溝の効果といわれている点を整理した。この整理した項目をもとに、共同溝整備により何らかの影響が生じる事象を列挙整理し、効果の全体像を把握するための定量的な効果の計測モデルを提案した。 共同溝の効果は、道路の整備の中に含まれるものや公益施設の幹線整備、また電線共同溝のように沿道への影響を与えるものなど、効果の直接、波及も含めると多岐にわたる。また、項目を分類しても内容の点で重複するものも含まれる。こうした事柄を含めて、共同溝の体系化のため、共同溝の全体像を把握することを目的として整理した。このため、共同溝そのものには収容物件によって様々な分類がなされているが、最も歴史の長い、また、本質的要素を含んでいる幹線共同溝を共同溝効果把握の対象とした。 共同溝事業実施によって影響を受ける当事者や施設周辺住民、更には経済社会に様々な変化が生じ、これが社会資本整備効果として認識される。 共同溝整備は短区間を連続して整備するため、ストック効果の項目を効果あるいは影響として整理し、フロー効果に加えて直接、間接効果として以下の11項目について効果把握手法を含めて整理した。 直接効果を、(1)掘り返し防止による交通渋滞解消、(2)堀り返し防止による道路構造保全、(3)維持管理の効率化、(4)施設拡充・更新への対応が容易、(5)掘り返し事故防止、(6)工事公害の防止の6項目、間接効果を(7)都市防災性の向上、(8)道路空間の有効利用、(9)高度情報社会対応促進、(10)都市景観の向上、(11)沿道資産価値の向上の5項目として整理した。 第5章共同溝整備効果の実証分析 前章において立案し、計測したモデルに東京国道工事事務所資料を適用して、8ケースのケーススタディを行った。交通量,公益企業者収容数,沿道状況をパラメータとして変化させてシュミレーション解析を行ない、値の感度を分析評価した。 その結果、一日当たり交通量25000台、占用企業数2の場合で、整備効果が建設費を上まわる年次は46年となった。一日当たり交通量50000台の場合は、占用企業数2で17年、占用企業数5で24年となった。この結果を整理すると、効果の発現年は交通量に依存することが明らかとなった。しかし、交通量が多くない区間でも沿道資産価値の向上等共同溝の他の効果を考慮することにより、75年という共同溝の耐用年数内に効果を生み出すことができる。このことは、共同溝の都市施設としての存在や役割が大きいことを明らかにしている。 第6章共同溝整備効果の体系化と整備計画手法 共同溝の整備効果を定量的に把握するために11の項目に分類し、道路施設としての実証分析を行った。その結果、11の項目のうち都市防災性の向上と都市景観の向上については、整備路線や整備地域の都市機能との係わりが大きいことが判明した。 阪神大震災においては、共同溝は巨大化した都市におけるライフラインを安全に収納し、震災復旧計画を立てる場合の有効な手段となることが判明した。都市機能のリダンダンシーを強化するためのネットワークづくりにも、共同溝の整備の必要性が見直されることになった。 都市景観とアメニティーの向上効果においては、銀座通りの改修例を示し、共同溝の役割は、地域経済の活性化に多大なる影響を与えることを示した。 前章においては、共同溝の整備効果を定量的に把握する実証分析を行った。その結果、道路施設に着目した定量評価だけで共同溝の整備計画を進める手法は、ライフラインの防災面における収納効果という視点が欠けていると判断した。このことは共同溝の有する都市施設機能の役割に起因しており、それぞれ沿線の人口や通行者数等の大小によって、施設の重要度を定性的に評価する方法が現状に即していると判断した。その結果、前々章に述べた評価項目のうち、都市防災性と都市景観については沿線の人口と通行者数によって都市施設としての4段階の優先度をつけ、その他の9項目については定式化により共同溝の整備効果と建設費が等しくなる年数を算出して4段階の優先順位をつけ、それらの結果をふまえた総合評価方法を提案した。 第7章結論 各章の成果をまとめるとともに、今後の検討課題として、効果の計測手法の一層の改善と、共同溝と各種ライフラインネットワークのマスタープランを作成する手法の確立を挙げた。 本研究によって共同溝の整備効果を道路施設と都市施設の両面から総合的に評価することにより、都市における共同溝の計画をより合理的に推進する手法の見通しが立てられたと考えている。 |