本論文は、「放送用テレビカメラの画質改善の研究」と題し、テレビカメラの画質改善のために行った研究・開発についてまとめたものであり、3編よりなる。本論文では、カメラの画質をハードウェアの改善のほか、撮像素子の特性を精度良く評価する手法を確立すること、レンズを交換してもレンズの性能を100%発揮できるように「互換性の規格を定める」こと、CCDカメラへ移行を推進することなども広い意味で画質改善と捉えている。 第I編は、「放送用撮像管カメラのコメットテイルの改善」と題し、撮像管カメラで、ハイライトの後部に発生する「コメットテイル現象」の防止のための研究で、特殊な電子銃を有する「ACT管」撮像管の特性を十分に発揮させる駆動方式の開発や、ACTニーシェーシングと呼ぶ特異な問題点を解決する方法などを明確にした。さらに、ビーム制御回路によってコメットテイル現象を防止する「ABO」と呼ぶ新しい撮像管のビーム電流制御回路を研究・開発し、その制御特性、過渡応答などの動作を詳しく解析している。このほか、ビーム制御回路で問題であった発振現象の解析についてその原因や対策を行った研究について述べている。 第II編は、「放送用撮像管カメラのヘアドアンプの改善」と題し、放送用撮像管カメラのヘッドアンプ回路の改善に関する研究をまとめている。撮像管の出力を増幅するヘッドアンプのノイズを低減させることができれば、カメラの画質・感度を改善することができる。初段増幅用FETの選択手法の確立やヘッドアンプ前段部の不要な浮遊容量の削減を行うためにコイルアセンブリにヘッドアンプ初段部を収容する研究について述べている。また、ヘッドアンプ回路をモノリシックIC化する研究や高SN比で高ダイナミックレンジのヘッドアンプの開発について述べている。 第III編は、「CCD化の推進と画質改善」と題し、放送用カメラの撮像素子が撮像管から固体撮像素子に代わる移行期に行われた研究・開発について述べたものである。 第1章では、固体撮像素子の受光素子の感度分布形状を測定するために開発した新たな測定手法の開発について述べている。細いスリット状のパターンをCCD受光面に投影してCCD出力を信号処理することによって簡単にオシロスコープ上に表示し、そのデータを基に解像度特性を求め素子評価を行う手法について述べている。 第2、3章では、ディジタル式電子スチルカメラと全ディジタル式3板CCDカメラの基礎実験について述べている。CCDを使用し、回路部分をディジタル化したカメラを試作し、問題点や特長を明らかにした。CCD化、ディジタル信号処理のメリット、デメリット、画質改善手法について述べている。 第4章では、2/3インチ固体カメラ用光学系の規格化について述べている。CCDカメラでは、3色分解プリズムにCCD素子を固着するため、撮像素子の取り付け面の位置などを規格化しないとレンズは充分な解像特性を発揮できず、また、互換性が保てなくなる。2/3インチ光学系の規格化を、カメラメーカー、光学メーカーに働きかけ、各社と協議して規格を最終決定した。この規格は、実質的に全世界の放送用カメラの規格として採用されており、放送用カメラのレンズの互換性確保、レンズ交換時における画質確保に大きな役割を果たしている。 第5章には、CCDカメラの構成法について述べている。CCDの本格実用期に、多くの用途のカメラの再設計・製作が行われた。このときに開発した「固体マルチユースカメラ HM-87」や、そのコンセプトを普遍させて開発した高感度カメラなどについて述べている。さらに、CCDカメラの特長を生かすべく再設計した水中カメラ、CCD化により初めて実現できた小型リモコンカメラの開発などについても述べている。 以上これを要するに、撮像管カメラで生じるコメットテイルと呼ばれる画質劣化を撮像管のビーム電流を制御することにより改善できることを明らかにし、撮像管カメラのヘッドアンプの雑音を低減するための初段増幅用FETの選択手法、不要な浮遊容量の削減法を明らかにし、また、CCDカメラの初期の研究・開発から、ディジタル式電子スチールカメラ、ディジタル式3板CCDカメラ、固体カメラ用光学系の規格化によるレンズの互換性確保、高感度カメラ、水中カメラ、リモコンカメラ等の研究・開発を行ったものであり、これらの多くの成果は、放送用カメラに実装され、画質の改善に寄与するとともに、電子情報工学上貢献するところが少なくない。 よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |