内容要旨 | | 本論文は「階層的画像重ね合わせ法とその応用に関する研究」と題し,マッチングの処理時間短縮方法に関する研究をまとめたものであり,7章より構成されている. 第1章は「序論」であり,本研究の目的と背景,従来の研究と本研究の位置づけ,本論文の構成と概要について述べている. 第2章「階層的画像重ね合わせ法のためのデータ構造」では,まず,従来の画像重ね合わせ法として残差逐次検定法(Sequential Similarity Detection Algorithm,以後SSDA法と略す),相互相関係数による方法を概説している.次に,従来法の処理時間を短縮するために有効な画像のデータ構造の一つとして,階層的画像重ね合わせ法で用いられるピラミッド構造について述べている.なお,ピラミッド構造は他に多くの画像処理の分野で用いられているので,これらについても述べている. 第3章「ピラミッド構造,拡張ピラミッド構造を用いた画像重ね合わせ法」では,従来の画像重ね合わせ法であるSSDA法,相互相関係数による方法よりも処理時間を短縮することができるマッチングを,3.2節,3.3節で提案している.3.2節では,階層間の対応を類似対応でなくて幾何学的対応と限定した場合,階層間の幾何学的対応に基づいて各層の探索範囲を理論的に導出している.さらに,各層の画像を定義して,本考察を類似問題に応用し,ピラミッド構造を用いた画像重ね合わせ法,すなわちピラミッド構造の階層間の幾何学的対応に基づいた画像の重ね合わせを提案している.ここでは,SSDA法を例にとって,動画を題材にし,従来の最下層での画像の重ね合わせと本考察に基づいた画像の重ね合わせとの比較実験結果を通して本手法の有効性を示している.ところで,3.2節の方法でピラミッド構造を構築すると,画像サイズの圧縮に関して柔軟性に乏しい.そこで3.3節では,m×n画素を一つ上の層の1画素に対応させて,拡張ピラミッド構造を構築する.そして,3.2節と同様に,階層間の幾何学的対応に基づいて各層の探索範囲を理論的に導出している.さらに,各層の画像を定義し,拡張ピラミッド構造を用いた画像重ね合わせ法,すなわち拡張ピラミッド構造の階層間の幾何学的対応に基づいた画像の重ね合わせを提案している.ここでは,本手法の用途についても概説している. ピラミッド構造,拡張ピラミッド構造を用いた画像重ね合わせ法は,使用目的に応じて使い分ければよい.なお,ピラミッド構造を用いた画像重ね合わせ法は,ポータブルな画像処理ソフトウェア・パッケージSPIDER-II(SPIDERの拡張版)にプログラム名SSCA1Pで登録されている. 第4章「ピラミッド構造を用いた画像検索法―入力画像とテンプレート画像とのサイズの比が大きい場合―」では,大規模画像の中から「この形に類似した部分画像を探せ」の形状類似形の検索に有効なマッチングとして,特徴量空間とピラミッド構造とを用いて画像の重ね合わせを行う手法を提案している.このような検索をする場合,一般には入力画像とテンプレート画像とのサイズの比が大きくなるので,最上層で行う概略重ね合わせにかなりの時間を必要とする.本手法は,最上層のすべての候補点で概略重ね合わせを行うのではなく,まず,特徴量がある条件を満たす候補点のクラスを抽出し,それについてのみ概略重ね合わせを行うものである.本手法はテンプレート画像に類似した複数のものも高速に探索できる手法である.また,本手法を道路網図,図面画像に適用して,その高速性,有効性を示している. 第5章「気象衛星NOAA画像への応用―幾何学的ひずみの補正―」では,マッチングを用いて気象衛星NOAA画像に含まれる幾何学的ひずみの補正を行う方法を,5.2節,5.3節で提案している.5.2節では気象衛星NOAA画像における幾何学的ひずみの自動補正法を提案している.本手法は軌道計算値による補正後,位置ずれを測定するために,地球表面での位置の既知な地上基準点(Ground Control Point,以後GCPと略す)を含む海岸線データを用いた位置合わせを,SSDA法で行うものである.その際,ピラミッド構造を採用して処理の高速化をはかり,その有効性を示している.次に,位置合わせの成否を自動的に相関係数を用いて決定し,その結果からアフィン変換の係数を算出し,幾何学的ひずみを自動補正するものである.また,利用目的に応じた地図座標,地表面座標,NOAA画像座標の間の変換は4点補間法を用いて処理の短縮をはかり,その有効性を示している.5.3節では,5.2節の一部分の処理を,さらに高速にする方法として,気象衛星NOAA画像と海岸線データとの位置合わせ処理の高速化を提案している.5.2節では,例えば梅雨時のように位置合わせを行う場所に多くの厚味のある雲が存在すると,海岸線が見えないので位置ずれが不明になり,通常GCPを含む海岸線データを用いた位置合わせは失敗する.したがって,処理上余分な時間を要している.ここでは,幾何学的ひずみ補正の処理時間を短縮するために.GCPを含む海岸線データを用いた位置合わせを行うか否かを自動的に判別する手法について述べ,いくつかの実験結果を通してその有効性を示している.また,GCPの数を減らすことは処理時間を短縮する一手段であるので,GCPの選定に関する実験結果についても示している. 第6章「農業気象の把握を目的とした気象衛星NOAA画像の利用」では,第5章の研究成果を踏まえたケーススタディを行っている.ここでは,気温の逆転層が発生する冬季の千葉県東総地域(銚子市,飯岡町,海上町)を対象地域とし,気象衛星NOAAデータから求めた観測輝度温度と同時刻の百葉箱内気温との関係,地表付近最低気温と同時刻の百葉箱内気温との関係を調べている(気象衛星NOAAデータは地表付近が最低気温になる時間帯,すなわち夜明け前後のデータである).これより,気象衛星NOAAデータから求めた観測輝度温度が,冬季における東総地域の地表付近最低気温の分布を推定するうえで有力な手段になることを示している.これは,リモートセンシングを用いた農業気象の把握であり,冬春キャベツの寒害や腐敗病の発生地域差の防止対策を講じるうえで有用である. 第7章は「結論」であり,本論文のまとめを行っている. 以上これを要するに,本論文はマッチングの処理時間短縮方法として,従来の画像重ね合わせ法よりも処理時間を短縮できるマッチングの提案,大規模画像の中から「この形に類似した部分画像を探せ」の形状類似形の検索に有効なマッチングの提案,そして気象衛星NOAA画像における幾何学的ひずみの補正に有効なマッチングの提案と併せてケーススタディから幾何学的ひずみが補正されたNOAA画像の利用分野を見いだすことを,行ったものである. |