本論文は、都市の土地利用の計画課題の変遷と課題への制度的対応を研究の目的としている。まず、1960年代高度経済成長期以降の都市計画の課題の変遷と代表的な計画制度については、下記の四期に分けて考えることができるとしている。 第1期:需要対応と都市開発の体系化-1960年代から70年代初期(68年都市計画法改正)、第2期:問題解決と都市生活環境の視点の導入-60年代中頃から80年代初期(80年地区計画制度創設)、第3期:構造再編の始まりと民間開発誘導-80年代初期から90年代初期(88年再開発地区計画創設)、第4期:課題見直しとビジョン共有化-90年代初期以後(92年都市計画法改正)、 このような四期の時期区分による都市計画の現代史への視点が、本論文を筆者が書き進めるときの基調として、各章に通底する仮設的な問題意識となっている。 「第1章 田園地域における都市開発の規制誘導-土地利用の総合化と計画制度」では、第1期の市街地の急速な拡張の時代に発し、土地利用に関する様々な法定計画(都市計画法、農振法、国土利用計画法)を生み、今日に至っている状況を明らかにしたうえで、田園地域(本論文では都市計画による市街化区域および用途地域以外の地域をいう)における都市開発の規制誘導は、都市の土地利用計画にとって古くて新しいテーマであることを論じている。 ここでは、都市の土地利用とその他の各種土地利用の競合と共存に対して、1960年代後半以後の計画制度と計画技術の展開過程から次の論点を摘出している。 (1)「土地に聴く土地利用計画」の理念の基に、土地分級技術の概要とその土地利用計画策定プロセスでの位置づけ方について考察した。 (2)各種土地利用間の調整・共存を課題とする国土利用計画法を中心に、その立法化前後の土地利用計画の先進事例を取り上げて、今あらためて迎えている田園土地利用の不安定化の時代に参考とすべき計画技術のストックとして再点検した。 (3)土地利用の実態と計画制度の間に生じている剥離について、いくつかの側面から観察したうえで、未線引き地域を含めた田園地域の土地利用計画制度の再編の方向について考察した。 「第2章 周辺市街地の整備-市街化区域内農地の計画制度と計画手法」では、第2期の都市問題の主要なテーマである市街化区域内の農地の問題を取り上げ、これは都市計画の区域区分(線引き)制度の創設以来の懸案であり、土地利用の実態からも計画制度の画でも多くの変遷を経てきたことを明らかにし、1991年新生産緑地法と農地の宅地並課税の強化以後は、宅地化する農地の「新たなスプロール」が生じつつあることを把握したうえで、対応策を論じている。 「第3章 既成市街地再開発の規制誘導と計画協議の仕組み―再開発地区計画の特性と課題」では、第3期のテーマである都市構造の再編時代の民間開発に対する規制誘導手法の典型的なものとして、再開発地区計画を取り上げている。 再開発地区計画は、事前確定的な公共による規制計画のもとでの民間の自由な開発というわが国近代都市計画の枠組みを転換して、公共と民間の協議を計画策定に不可欠なプロセスとする仕組みを切り開く性格を持っている。また、都道府県の都市計画と、その傘下にある市町村の都市計画という、これまでの計画権限と責任の関係を組み替える可能性があることを指摘している。 「結章 都市の土地利用計画の新しい展開に向けて」では、1〜3章の三つのテーマ・三つの地域を横断して、土地利用計画の今後の新しい展開のための計画制度のあり方を考える次のような有用な論点について観察している。(1)計画技術に対する計画制度の補完性と制約性、(2)土地利用の規制誘導の課題の変化と計画協議の充実、(3)地区的整備計画制度の統合強化、(4)市町村の土地利用マスタープランの役割の強化とマスタープラン間の連携、(5)都市の土地利用計画制度の再編の方向、等であるがいずれも深みのある論点の指摘である。 要するに本論は、30年以上の長きにわたって土地利用計画を主体に都市計画にかかわってきた筆者が、田園・郊外・既成市街地の3つの地域にわたる計画制度と計画技術の展開過程を振り返り、論理化することで、後に続く研究者に示唆を与え、また今後の都市計画制度の議論に寄与することを期待してまとめたもので、その目論見は十分に果たされるものと思われる。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |