内容要旨 | | 次世代のエネルギーを担う発電設備の一つとして高速増殖炉(Fast Breeder Reactor,FBR)の開発が行われている。地震国であるわが国においては耐震信頼性の確保は重要であり,実証炉建設のための研究開発課題の一つとなっている。FBRを構成する重要機器の一つに炉心構造がある。その構造は六角形断面の炉心構成要素(燃料集合体,ブランケット集合体,中性子遮蔽体など)が炉心支持板に差し込まれて蜂の巣状に約1000本配列されているものであり,全体が数千トンの重量を持つ。隣接する要素間には小さなすき間があり,炉心構成要素にあるロードパッドと呼ばれる突起部で接触力や衝突力などの荷重を伝達する。また,全体が冷却材である液体ナトリウムに浸されている。この構造が地震によって加振されると,多数の棒群が流体力の影響の下に衝突しながら振動する。FBR炉心構造の耐震設計には地震時に発生する衝突力や構造の変形に対して十分な強度を持つことや,制御棒が規定時間内に挿入できることなどを確認する安全評価が必要である。しかし,前述のように炉心構造は全体が数千トンの重量を持つので,実機または実規模モデルを使用した耐震試験を実施することは困難であり,精度の高い地震応答予測手法を開発することは重要である。本研究は,このような設計手順に必要となる精度の高い耐震解析手法を確立するためになされたものである。その課題は,多数の要素からなる棒群について1.流体連成力,2.ロードパッドにおける衝突力,という2つの連成力を同時に取扱うことのできる解析手法を確立することである。 FBR炉心の地震応答解析手法に関してはこれまでに種々の研究開発が行われている。これらの従来の研究では,流体力を付加質量としてモデル化しているが,付加質量が軸方向に一定であるという仮定の下に平面近似したモデルによって付加質量を算出しており,この仮定が成り立たない三次元的な形状の影響が無視できない場合には,計算結果の誤差の要因となる。また,衝突力という非線形力を,従来の研究では,初期値を決め収束するまで繰り返し計算を行って求める手法がとられている。しかし,大きな自由度をもつ振動系において,同時に衝突が発生する点が多く,また,これらの衝突現象が互いに干渉し合うことから収束計算には多くの計算時間が必要で,収束しない場合もある。本研究ではこれらの状況を踏まえ,従来の研究は簡易的な取り扱いしかなされていない付加質量について,精度が高く,かつ,合理的な評価方法を提案し,また,衝突を含み,また,自由度の大きい振動応答の数値解析を実施するにあたっての合理的な数値解析手法を提案するものである。 本論文は7章から成る。 第1章では,本研究の背景・目的と関連する従来の研究について述べた。 第2章では,FBR炉心の地震応答解析手法を検討する端緒として,一列に配列された棒群の衝突振動に関する実験を行い,衝突振動などのハードニングスプリング系非線形振動の特徴である跳躍現象の発生する振動数(跳躍振動数)に注目した検討を行った。この跳躍振動数は,振動応答の急変する振動数であり,耐震上重要なパラメータと考えられる。また,六角棒群(127本,すなわち,中心,および,6周の六角配置)についても同様な実験を,液体(水)の有無をパラメータに加え実施し,棒群の地震応答を評価する上で,注目すべきパラメータの摘出を行った。それは,線形系における(すなわち,衝突を考慮しないときの)固有振動数,刺激係数,などである。 第3章では,FBR炉心の地震応答に関わる連成力のうち流体速成力の検討を行った。特に,第2章の結果を踏まえ,液体中において基礎加振に対して主要な,棒群が同相に振動するモード(全体同相モード)についての流体力(付加質量)評価方法について検討した。まず,六角棒7本(中心,および,1周の六角配置)の流体連成振動実験を実施し,付加質量評価における三次元形状の考慮の重要性について示した。さらに,127本(中心,および,6周の六角配置)までの流体連成振動実験を実施し,全体同相モードに関する付加質量への,棒群の三次元的な形状の影響を明らかにした。さらに,この実験結果を基礎に三次元的な形状を考慮した付加質量算出方法を提案した。すなわち,付加質量の無次元表現である付加質量係数を,従来用いられている平面近似付加質量係数を付加質量補正係数mで補正することで求めるもので次式で表される。 ただし,mは次式で表される。 ここで,∫p(Z)は付加質量分布関数,(Z)は棒の振動モード,lは軸方向の長さである。本式で得られた付加質量補正係数の結果と、実験結果、および、有限要素解析の結果を様々なアスペクト比(棒群の等価半径に対する軸方向長さの比)を持つ棒群について比較したものが図1であるが、両者がよく一致しており本手法が妥当であることがわかる。 図表図1:付加質量補正係数 / 図2:一次元配列の棒群と衝突部のモデル 第4章では,FBR炉心の地震応答に関わるもうひとつの連成力,衝突力の取り扱いについて検討した。特に,棒群という多数自由度の振動系において衝突振動応答を数値計算するための合理的な手法について提案した。まず,図2のように一列に配置された棒群について次の衝突力算出法を示した。はじめに,時刻liの衝突部のばねの交差量xi+1を次式で求める。ここで、x’i+1は衝突力が働かない場合のばねの交差量で時刻liで既知の値から算出できる。 なお、N0は時刻liで0,時刻li+1で1である一次関数であり,N1は時刻liで1,時刻li+1で0である一次関数である。また、マトリックスP0,P1,Pは衝突に関する影響係数マトリックスで棒のモードパラメータによって算出されるマトリックスである。右辺は時刻liで既知の数値であるので,このようにして、時刻li+1のばねの交差量が繰り返し計算をすることなしに算出することができる。次に,こうして求めた交差量から衝突力qは として求めることができ,棒群の衝突振動解析が可能となる。ここに示した手法を六角棒群の衝突振動にも拡張している。さらに,これらの手法による計算結果を変位・衝突力などについて実験結果と比較し,よく一致していることかを示し手法の妥当性を確認した。 第5章では,これまでの結果を踏まえて,二つの連成力,流体力と衝突力をあわせて数値解析を実施する手法について検討した。流体力を有限要素法で求めた三次元付加質量マトリックスとして取り扱う手法を述べた後,簡易解析手法として前述のように提案した全体同相モードについての付加質量算出式を利用しての数値解析の適用範囲についても検討した。 第6章では,以上の研究結果を反映してFBR炉心地震応答解析プログラム開発したが,これを利用した解析例として,過去に実施された実炉心を対象とした実験のうち「もんじゅ」に関する実験に対する解析を実施した結果を示し,本解析手法の有用性を示した。 第7章では,本研究で得られた結果をまとめて述べた。 以上の研究により,流体力と衝突力の両方を考慮した六角棒群の地震応答解析手法が確立し,高精度かつ合理的なFBR炉心の地震応答解析が可能となった。特に,付加質量については,詳細・簡易の評価方法を目的に応じて選択することができる。これらの成果は,FBR開発において活用されつつある。今後は,ここで示した付加質量マトリックスの算出,および,衝突振動に関する解析手法を約1000本からなる実際規模の炉構造の解析に適用するため,計算可能自由度を大きくしていく必要がある。そのためには,今後の計算機環境の向上等をふまえ,計算機資源の有効な利用法などを確立していく必要があろう。また,炉心構造の実設計に向けて,設計許容値を明確にするとともにこれらの評価に必要な出力が可能な形の数値計算手法としていく必要がある。 |