本論文は、材料の様々な挙動を表すために提案されてきた従来の材料非弾性構成則の問題点に着目し、生物の自然現象に基づく非線形計算手法を応用したものであり、10章で構成されている。 第1章では、構造解析における非弾性構成則の重要性を述べ、その現状と諸問題を明らかにしている。そして、それら諸問題に対し、いかなる経緯で生物学的計算が必要となるのかを述べ、本論文の研究目的としている。また、本論文で扱う数学記述法について略記している。 第2章では、本論文を読む上での基礎事項として、非弾性理論に触れ、それに基づき提案された数々の非弾性構成則を紹介している。 第3章では、従来の材料非弾性構成則の最初の問題点として、構成則が複雑になればなるほどその内部パラメータを決定するのが難しいことを挙げ、この問題を克服するための布石として、パラメータ同定について概観している。さらに、これまでに提案されたパラメータ同定法を紹介している。その中で、パラメータ同定問題がパラメータ最適化問題に変換できることを述べている。 そこで第4章では、パラメータ最適化手法の定義から、これまでどのような最適化手法が提案され、各々がどのような問題点を持っているのかについて触れている。その中で、最もロバストな最適化手法として生物学的計算手法の一つである進化的アルゴリズムを挙げ、量も頻繁に用いられてきた遺伝的アルゴリズムを紹介している。 第5章では、遺伝的アルゴリズムが材料の内部パラメータのような連続ベクトルを決めるのに用いられる場合、あまり効率的な計算手法でないことに言及し、このような連続探索空間問題に適した進化的アルゴリズムを提案している。また、遺伝的アルゴリズムとの比較を行い、提案した手法の方があらゆる面から有効であることを、数値例を用いて検証している。 第6章では、有効性が確認された本進化的アルゴリズムを実際のパラメータ同定問題に応用している。また、提案した手法を先に提案されてきた材料パラメータ同定法と比較することにより、有効性を再確認し、本論文の前半部の結論としている。 第7章では、従来の材料非弾性構成則のもう一つの問題点として、構成則が現象学的に構築されているため、モデル誤差を常に伴うことに着目し、この問題を克服する手法として、生物学的手法の一つである階層型ニューラルネットワークの基礎について最初に触れている。さらに本章では、ニューラルネットワークが内部に近似関数を構築する際の数学的背景について言及している。 第8章では、モデル誤差のない非弾性構成則として、ニューラルネットワーク自体を用いることを提案している。そのために、まず状態空間法について紹介し、非弾性構成則を状態空間法で記述している。さらに、状態空間方程式をどのようにニューラルネットワークに構築するかについて述べている。そして、提案したニューラルネットワークが従来の構成則の一つであるChabocheモデルを模倣できるかについて実験を行い、従来の構成則として用いることができること検証している。 第9章では、ニューラルネットワークに基づく非弾性構成則を材料実験データから構築し、その性能を評価している。結論として、6章で用いられた実験結果と同じものであることから、ニューラルネットワーク構成則が、最適なパラメータを持つ従来の構成則よりもモデル誤差が少ないことを示している。 第10章では、3章から6章まで説明した最適パラメータとともに従来の構成則を用いることと、7章から9章まで説明したニューラルネットワーク構成則を用いることのどちらが適しているかについて考察している。そして、実験データが多く得られる場合にはニューラルネットワーク構成則を、あまり得られない場合には最適な内部パラメータを持つ従来の構成則がいいのではないかという結論を示し、エンジニアにそれぞれの問題を考慮した上での選択を委ねている。 以上を要約すると、本研究はこれまで非弾性構成則の研究において深刻とされてきた問題を、生物学的計算を用いることにより克服したものである。 以上、本論文はシステム量子工学、特に新しい非弾性構成則の方向を提案、検証した研究として、材料力学、構造力学、機械力学、計算力学等に与えた貢献は大きい。よって、本論文は博士(工学)の学位論文請求論文として合格と認められる。 |