学位論文要旨



No 212691
著者(漢字) 中澤,保延
著者(英字)
著者(カナ) ナカザワ,ヤスノブ
標題(和) 地下石油備蓄岩盤タンク掘削で現れた岩盤の挙動と施工管理 : 地下石油備蓄串木野基地について
標題(洋)
報告番号 212691
報告番号 乙12691
学位授与日 1996.02.08
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12691号
研究科 工学系研究科
専攻 地球システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小島,圭二
 東京大学 教授 大久保,誠介
 東京大学 教授 山冨,二郎
 東京大学 助教授 登坂,博行
 東京大学 助教授 茂木,源人
内容要旨

 地下石油備蓄岩盤タンク建設の特徴は日本では初めと云える大断面の多連設空洞の開削工事である。串木野基地は串木野市北東の平均標高約200mの山地の下に位置し,岩盤タンクは高さ22m,幅18mの卵型断面を有し,長さ555mの空洞10基で構成され,空洞底盤部は海面下42mにある。掘削はNATMを採用し,水封方式の備蓄法を採用しているため支保工は吹付コンクリートとロックボルトのみで覆工は考慮していない。

 NATMは要約すれば地山の持つ強度を極力利用してトンネルを構築する工法と言える。そのため現場計測の結果に基づいて判定し,必要に応じて設計・施工法の変更を行うことが重要であり,この考え方は今でも不変である。しかし,一般的な現場計測結果の評価法,設計・施工へのフィードバック方法は,今でも確立されていないのが現状である。

 串木野基地では日本で初めての大断面の多連設空洞開削を行うに当たり,建設当初はトンネルと地下発電所の事例を参考にした計測管理基準を仮に設定し,建設に臨んだ。しかし,施工途中で地質状況の変化があり,これに迅速に対応することによって岩盤タンクを無事完成させた。

 このようなことから,串木野基地の施工及び施工管理の実績を詳細に分析・評価することにより,事前に設定した施工管理基準の妥当性を含め施工管理項目として新たに考慮すべき事項を明らかにすることを目的として本論分をまとめ,その中で大深度,大断面連設空洞開削時の施工管理方法を提案した。その要旨は次のと通りである。

1.岩盤タンクの力学的安定性に関する本工事の特徴

 ・NATMによる大深度,大断面連設空洞の建設である。

 ・岩盤分類は風化の影響が少ない新鮮岩盤での掘削工事であるため,「硬さ」と「割れ目間隔」を主とする岩盤等級を採用した。

 ・多数の計測断面を設置し,システマチックな計測体制をとった。

 天端沈下,内空変位計測断面は原則30m毎に設置し,地中内変位,ロックボルト軸力計測断面は原則1タンクに2断面とした。

 既施工区間の変状観察は定期的に全タンク実施した。

 地質観察は切羽先端の簡易地質観察のほか,地質専門家による詳細な地質観察を全タンクで実施した。

 計測システムはトータルステーションの導入等による迅速な計測を可能とし,地中内変位等の埋設計器は自動計測とした。また,計測で得られたデータはパソコンで処理し,迅速に施工に反映させた。特に断層等の地質不良部は計測断面を増設し,集中的に計測管理した。

 ・施工管理基準値はFEMによる線形弾性解析結果を採用した。

 ・計測結果に基ずく施工管理の主なものは次の2点である。

 ランダムボルト,増ロックボルトによる補強

 断面形状の変更,盤下げ中止等による空洞の長期安定性の確保

2.計測システムと現象分析から得られた新知見計測システムから得られた知見

 (1) F9断層群のように断層が交錯するところでは切羽先端の岩盤マトリックスによる岩盤等級は内空変位等の収束値との関係でみるとバラツキが大きく,弱層部として扱うことが必要である。一方F8,F12断層のように規模の小さい断層では岩盤マトリックスによる判定で対応できた。

 (2) 天端沈下,内空変位は断層位置と調和的であり,管理基準値を越えたのは断層沿いのみであった。また,TK-103CのようにF9断層群ではアーチ掘削時の天端沈下は小さいが,盤下げ時に急激に内空変位が動くことがあった。

 (3) 水位低下ゾーンでは約50mの地下水位の変動があったが,内空変位に及ぼす影響は管理基準値からみれば十分小さく,岩盤タンクの安定性を損なうものでなかった。

 (4) 変質帯等不連続面が多いところではロックボルトのアーチ形成効果,縫付け効果等を発揮した。

 (5) VI断面のステップ部にあける簡易弾性波探査では緩み層厚が比較的小さい値で計測され,岩盤を掘らずに残すことは空洞の安定性確保上効果があった。

現象分析から得られた知見

 (1) 内空変位や天端沈下は主に切羽通過時に起き,弾性的な動きとなるが,粘土を含んだ変質帯が連続する断層部では一部クリープ変形と見られる箇所が現れた。

 (2) 一方,断層部では切羽の影響が計測断面を通過後,切羽断面長の数倍まで及ぶことがあったが,切羽を一時停止した時に近くの内空変位が止まりクリープ的な動きとは考えられなく,断層部での動きは不連続面での滑りのほか,発破振動等による外力が微妙に影響を及ぼしているものと考えられ,注意を要する現象である。

 (3) 盤下げ中止した付近の隣り合う岩盤タンクの地中内変位を比較した結果,バンドピラー中央部まで動きが達した箇所が現れ,断層部ではクリープ的な動きと不連続面での滑りが複雑に影響しているものと考えられる。

 (4) 内空変位が拡大したと考えちれる箇所は岩盤タンクと並行する縦亀裂の発達した箇所や断層周辺の亀裂の発達した箇所で現れており,不連続面でのブロックの回転が起こり発生したものと考えられる。

 (5) 切羽通過が天端沈下に及ぼす影響をアーチ部と第1段ベンチとで比較するとほとんどはアーチ部が大きく,動きの主となるものはセン断応力が集中するタンク周辺部のみで発生する不連続面での滑りによると考えられる。

 (6) 各現象のうち,設定したモデルとの対応性のあるものをまとめると不連続ブロックモデルの対応性が比較的よかった。

 これらを要約すると断層部では切羽先端の地質状況に加え,スケールを拡げた地質状況の分析が必要で,且つ集中管理が必要である。また,良好な岩盤部や規模の小さい断層部では当初の施工管理基準で岩盤タンクの安定性は確保されるが,断層・貫入岩が交錯するところは弱層部として扱い,計測結果に基づいて長尺の増ロックボルト等による丁寧な補強や断面形状の変更・盤下げ中止等の対策が必要である。

3.大深度,大断面連設空洞開削時の施工管理方法の提案

 上記の新知見から大深度,大断面連設空洞開削時の施工管理方法を次のように提案できる。

大深度,大断面連設空洞開削時の施工管理方法の提案

 (1)計測管理につてはシステマチックな計測体制

 (2)岩盤等級については切羽先端の地質状況に加え,スケールを拡げた全体の地質状況の分析

 (3)支保について次の2点

 ・システマチックな計測体制と現象分析に対応した増ロックボルト施工管理の提案

 ・管理基準を大きく越える計測箇所では盤下げ中止・断面形状の変更等の施工管理の提案

 なお,具体的には当初の施工管理基準値を使用し,次のような施工管理方法となる。

具体的な施工管理方法Step 1 集中管理箇所の設定と計測管理

 事前調査,頂設導坑およびアーチ切り拡げ時の計測・観察状況から広域的に地質状況を分析・解析し,断層・貫入岩等の地質不良部を集中管理箇所に設定し,システマチックに計測管理する。

Step 2 アーチ掘削時における計測結果の判断基準

 (1) 断層部以外で変質帯等による吹付コンクリートの変状発生等が現れた場合は増ロックボルトによる補強を実施する。

 (2) 断層部で注意レベルを越える箇所は増ロックボルトで補強するとともに,計測断面を増設して,盤下げ時の計測状況を観察強化する。

 (3) 粘土を含んだ変質帯が連続し,水が廻っている等の断層部において土平部の押し出し現象があり,警戒レベルを越える天端沈下が計測される場合は盤下げ中止の対策をとる。

Step 3 盤下げ時における計測結果の判断基準

 (1) 変質帯や岩盤タンクと平行な縦亀裂による吹付コンクリートの変状発生等がある場合は増ロックボルトによる補強を実施する。

 (2) 断層部で盤下げ毎に注意レベルあるいは警戒レベルを越える箇所は,順次ロックボルトをランクアップし,増あるいは増々ロツクボルト等による補強を実施する。

 (3) 断層・貫入岩が交錯するところで増ロックボルトによる補強後も内空変位が収束しない場合は断面形状を変更する。

 なお,これは今後の類似の建設工事の参考となるものと考える。

審査要旨

 地下石油備蓄岩盤タンク建設の特徴は日本では初めてのNATMによる大断面の多連設空洞の開削工事である。串木野基地は串木野市北東の平均標高約200mの山地の下に位置し,岩盤タンクは高さ22m,幅18mの卵型断面を有し,長さ555mの空洞10基で構成され,空洞底盤部は海面下42mにある。

 本論文は串木野基地の施工及び施工管理の実績を詳細に分析・評価することにより,事前に設定した施工管理基準の妥当性を含め施工管理項目として新たに考慮すべき事項を明らかにすることを目的としてまとめており,その骨子は次の3点としている。

1.岩盤タンクの力学的安定性に関する本工事の特徴

 ・NATMによる大深度,大断面連設空洞の建設てある。

 ・岩盤分類は風化の影響が少ない新鮮岩盤での掘削工事であるため,「硬さ」と「割れ目間隔」を主とする岩盤等級を採用した。

 ・多数の計測断面を設置し,システマチックな計測体制をとった。

 天端沈下,内空変位計測断面は原則30m毎に設置し,地中内変位,ロックボルト軸力計測断面は原則1タンクに2断面とした。

 既施工区間の変状観察は定期的に全タンク実施した。

 地質観察は切羽先端の簡易地質観察のほか,地質専門家による詳細な地質観察を全タンクで実施した。

 計測システムはトータルステーションの導入等による迅速な計測を可能とし,地中内変位等の埋設計器は自動計測とした。また,計測で得られたデータはパソコンで処理し,迅速に施工に反映させた。特に断層等の地質不良部は計測断面を増設し,集中的に計測管理した。

 ・施工管理基準値はFEMによる線形弾性解析結果を採用した。

 ・計測結果に基ずく施工管理の主なものは次の2点である。

 ランダムボルト,増ロックボルトによる補強

 断面形状の変更,盤下げ中止等による空洞の長期安定性の確保

2.計測システムおよび現象分析から得られた新知見

 (1) 断層部では内空変位と切羽先端の岩盤等級との関係はバラツキが大きい。

 (2) 良好な岩盤部や規模の小さい断層部では当初の施工管理基準で岩盤タンクの安定性は確保できるが,断層が交錯するF9断層群のようなところは弱層部として扱い,計測結果に基づいて長尺の増ロックボルト等による丁寧な補強や断面形状の変更・盤下げ中止等の対策が必要である。

 (3) 岩盤の動きの多・くは割れ目沿いの変位や回転によるとするモデルで説明される。

 (4) 大きな変位を起こす箇所は断層・貫入岩の周辺に限られ,不連続面での滑りとクリープ的な動きが複雑に影響し,バンドビラー中央部まで動きが達した箇所が存在した。

3.大深度,大断面連設空洞開削時の施工管理方法の提案

 施工実績の分析と現象分析を関連づけ,次のように提案している。

 (1)計測管理につてはシステマチックな計測体制

 (2)岩盤等級については切羽先端の地質状況に加え,スケールを拡げた全体の地質状況の分析

 (3)支保について次の2点

 ・システマチックな計測体制と現象分析に対応した増ロックボルト施工管理の提案

 ・管理基準を大きく越える計測箇所では盤下げ中止・断面形状の変更等の施工管埋の提案

 上記で提案している施工管理め具体的内容は次の3点にまとめている。

1.集中管理箇所の設定と計測管理

 事前調査,頂設導坑およびアーチ切り拡げ時の計測・観察状況から広域的に地質状況を分析・解析し,断層・貫入岩等の地質不良部を集中管理箇所に設定し,システマチックに計測管理する。

2.アーチ掘削時における計測結果の判断基準

 (1) 断層部以外で変質帯等による吹付コンクリートの変状発生等が現れた場合は増ロックボルトによる補強を実施する。

 (2) 断層部で注意レベルを越える箇所は増ロックボルトで補強するとともに,計測断面を増設して,盤下げ時の計測状況を観察強化する。

 (3) 粘土を含んだ変質帯が連続し,水が廻っている等の断層部において土平部の押し出し現象があり,警戒レベルを越える天端沈下が計測される場合は盤下げ中止の対策をとる。

3.盤下げ時における計測結果の判断基準

 (1) 変質帯や岩盤タンクと平行な縦亀裂による吹付コンクリートの変状発生等がある場合は増ロックボルトによる補強を実施する。

 (2) 断層部で盤下げ毎に注意レベルあるいは警戒レベルを越える箇所は,順次ロックボルトをランクアップし,増あるいは増々ロックボルト等による補強を実施する。

 (3) 断層・貫入岩が交錯するところで増ロックボルトによる補強後も内空変位が収束しない場合は断面形状を変更する。

 なお,施工管理基準値は当初設定したものを使用する。

 以上が本論文の要旨であるが,提案された大深度,大断面連設空洞の施工管理方法はシステマチックな計測管理とその分析及び現象面からの分析に基づくものであり,今後の地下開発技術に寄与するところが少なくない。

 よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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