本論文は、6章からなる。第1章はこの研究に関連する従来の研究の紹介と本研究の意義、第2章は測定装置開発の概要、第3章は誤差要因の解析、第4章は重力変化を引き起こす地球物理学的現象についての分析、第5章は測定結果の解析と考察、第6章は本研究のまとめと将来の展望について述べている。 第1章では、地球上任意の場所・時刻の重力加速度を測定できる絶対重力計は、全地球規模の長周期、あるいは、永年的な重力変化をとらえ得る唯一の装置であり、それによって、地球全体の平均的な運動・物性・構造に対するつよい拘束条件をあたえることができる点、また、測定精度と連続観測性の両面で国内の絶対重力観測がきわめてとぼしい状況の中で、自動観測可能な高精度絶対重力計を開発した点を本研究の意義として強調している。 一般に、重力絶対測定は、落下物体の落下加速度を測定することで行われるが、第2章では、本研究で開発した、真空筒回転式絶対重力計の装置としての特徴が解説されている。落下した光学素子の落下開始点への再セット機構を真空槽内から排除し、代わりに、回転による遠心力を利用したセット機構を開発した点は、本装置の大きな特徴である。これによって、従来、手動で行っていた重力絶対測定の自動観測を実現し、重力時間変化をとらえることを可能にした意義は大きい。また、系統誤差をなくすために開発した、落体の重心と光学中心を合致させる手法、脈動等の長周期地盤振動に対する位相無遅延補正方式、落下中に生じる光干渉縞信号の位相データを利用した落下距離計測など、諸種の独創的着想とそれらの実現過程についても述べられている。 第3章では、重力絶対測定において問題となる誤差要因を詳細に検討し、それらの影響量を定量的に推定している。地震計の固有周期と減衰定数に誤差のある場合、えられた振動記録から地盤振動の加速度成分を推定する際の誤差は、本研究によって初めて明確に定量的に評価できるようになったものである。それにより、重力絶対測定の精度向上に対する一つの指針が得られた。また、落体の光学中心が重心からずれている場合、落体の回転によって100gal以上の大きな系統誤差を生じる可能性がある点も、実験・理論の両面で、本研究によりはじめて明らかにされた。これらは、今後、絶対重力計間の器差の原因を究明するうえで重要な観点をあたえたものである。 第4章では、長周期あるいは永年的な重力変化を引き起こす地球物理現象を、局所的なものから全地球規模のものまで系統的にしらべ、それぞれについて定量的な重力変化モデルを構築している。最後に、それらの結果を変動の時間幅に対して期待される重力変化の大きさとして、あるいは、その変化率として一つの図にまとめている。この重力変化モデルにより絶対重力計による観測で検出できる現象が明白になった。 第5章は、本研究で開発した真空筒回転式絶対重力計をもちい、地盤の安定した岩手県江刺において、約1年間連続観測した結果とその解釈にあてられている。 この中で、変動が約5Gal(5×10-8ms-2)の海洋潮汐による重力変化、および、長周期の領域でさらに小さな振幅である気圧変動による重力変化、極運動による重力変化を検出した点から、この重力計が、半日・1日周期の潮汐変化から1年以上の長周期変動まで、ひろい帯域にわたってGal(相対精度10-9)の水準の精度と安定性とをもっていることが結論できる。さらに、1年間の観測結果の中にあらわれている1年あたり約4Galの重力増加は、絶対重力計によってはじめて観測された太平洋プレートの沈み込みにともなう重力変化である可能性が高い。また、偶然、観測期間中に起きた三陸はるか沖地震の影響も明瞭にとらえ、最近注目されている「ゆっくり地震」や、東北日本周辺のプレート境界地震の実態を明らかにする上で貴重なデータを提供した。 これらの長周期重力変化の観測結果から、この絶対重力計が地球内部の構造や状態の研究のための有力な装置であることが明らかになった。 第6章で、今回の開発研究がGalの精度実現の目標を達成したと結論し、さらに将来の発展と、そのための方策について述べている。 以上のように、本研究では、独自の方式の絶対重力計を開発し、それまで困難であった自動重力絶対観測を可能にし、それをもちいて、海洋潮汐や極運動による重力変化を検出した。また、いままで検出困難であった長期微小な重力変化をとらえる可能性を高めた。本研究の地球科学に対する寄与はきわめて大きいものがある。よって、本審査委員会委員一同は、全員一致で本論文が本学の博士(理学)の学位を授与するに値するものと認定した。 |