学位論文要旨



No 212699
著者(漢字) 石坂,信和
著者(英字)
著者(カナ) イシザカ,ノブカズ
標題(和) 冠動脈形成術の問題点に関する検討
標題(洋)
報告番号 212699
報告番号 乙12699
学位授与日 1996.02.28
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第12699号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 矢崎,義雄
 東京大学 教授 古瀬,彰
 東京大学 教授 藤田,敏郎
 東京大学 教授 豊岡,照彦
 東京大学 助教授 内田,康美
内容要旨

 狭心症や心筋梗塞の原因となる病態である冠動脈狭窄に対する治療として経皮的冠動脈形成術は急速に普及してきた。経験の積み重ねと機器の改良によりその適応を徐々に拡張してきたが、慢性完全閉塞枝に対する冠動脈形成術は、比較的成功率が低く、再狭窄率が高いことなどから、治療法の選択については議論のあるところである。

 今回、慢性完全閉塞病変に対し、初回冠動脈形成術を施行した、110症例(11%、111病変)を対象とし、成功率、再狭窄率、それらに影響を与える因子について検討した。

結果

 111病変中、69病変(62%)で冠動脈形成術が成功した。不成功の42病変については、5症例が待期的バイバス術を施行し、37症例については、薬物治療のみとした。不成功の要因としては、閉塞部が冠動脈造影所見上断裂像を呈し、閉塞部近傍に側枝が存在する場合、閉塞期間が1カ月以上の病変である場合であった。合併症として死亡・緊急冠動脈バイパス術の症例は認めず、一例でQ波心筋梗塞を認めたのみであり、ハイリスクとは考えられなかった。

 冠動脈形成術成功6病変中62病変に対し再造影を施行し、34病変(55%)で再狭窄を認めた。3病変(88%)に対し、再度冠動脈形成術を施行し、24病変(80%)で成功した。再冠動脈形成術を施行しなかった4病変は、再閉塞病変であり薬物治療のみで症状をコントロールした。再冠動脈形成術の成功した24病変全例に対しフォローアップ造影を施行し、7病変で再狭窄を認めた。

考案

 今回の検討で、慢性完全閉塞枝に対する冠動脈形成術は、比較的安全に施行できることが示された。初回冠動脈形成術で成功し、再狭窄を認めなかった28病変、初回冠動脈形成術成功後、再狭窄を認めたが、再冠動脈形成術が成功し、再々造影にて再々狭窄を認めなかった17病変の合計45病変が、長期の血行再建に成功したと考えられ、この割合は、43%と算定される。再狭窄の予測因子が存在しないことから、血行再建の可否に重要な因子は、初回形成術の成功率であると考えられる。

 初回冠動脈形成術の成功率を下げる要因として、閉塞部位形態(断裂像+側枝)、閉塞期間1カ月以上が挙げられる。

 慢性完全閉塞枝を含む冠動脈病変の治療に冠動脈形成術を選択するか否かは、病変形態、臨床像、長期の血行再建率(43%)を考慮して決定するべきであると考えられる。

審査要旨

 本研究は、狭心症、心筋梗塞の発生機序として、病態の中心をなす冠動脈狭窄にたいして近年急速に普及してきている経度的冠動脈形成術について、その適応、限界を明らかにするため、経皮的冠動脈形成術、冠動脈バイパス術、経過観察(薬物療法のみ)の選択が比較的難しいと考えられる慢性完全閉塞病変について、成功率、再狭窄率、および、それらに影響を与える因子について検討、解析を加えたものであり、以下の結果を得ている。

 1.連続110症例、110病変の慢性完全閉塞病変に対する、冠動脈形成術の初期成功率は、62%であり、従来より報告されている他国の成功率と有意な差を認めなかった。また、成功率を低下させる因子としては、(i)閉塞病変部が断裂像を呈し、かつ側枝を有する病変、(ii)閉塞期間が1ヵ月以上の病変が存在することが明らかになった。

 2.初回冠動脈形成術の合併症としては、死亡・緊急冠動脈バイパス術は認めなかった。Q波心筋梗塞を1例、非Q波心筋梗塞は、3症例で認めた。全体としては、合併症の率は低く、対象病変を選択すれば、慢性完全閉塞病変に対する冠動脈形成術は、比較的安全に施行できると考えられた

 3.今回、初回PTCA後の再造影率を、初回冠動脈形成術の成功症例の90%に施行した結果、再狭窄率55%を得た。欧米からの以前の報告では、再造影率が、本検討に比較しかなり低く、本研究の従来の報告に対する大きな特徴となっている。

 4.初回冠動脈形成術後の後の再狭窄の要因について冠動脈造影所見、臨床像を検討したが、有意な因子はなく再狭窄を予測することは難しいと考えられた。

 5.再狭窄を呈した病変に対し、再冠動脈形成術を施行しは、80%で成功した。成功症例前例に再造影(再再造影)を施行し、29%に再狭窄(再再狭窄)を認めた。以上より、一回、ないしは二回の冠動脈形成術で再狭窄をともなわず、血行再建に成功した慢性完全閉塞病変の割合は、43%と算出された。

 6.完全閉塞病変の存在は、しばしば冠動脈形成術よりバイパス術を選択する理由となっているが、以上より合併症が少なく、4割以上の閉塞血管に血行再建が得られることから、冠動脈形成術は十分選択肢であるといえると考えられる。

 以上、本論文は慢性完全閉塞病変に対して、経皮的冠動脈形成術を施行した連続110症例の検討から、成功率、再狭窄率、成功・再狭窄に関与する因子について検討した。また、合併症率の低さ、2回以内の形成術にて4割以上の病変で再狭窄をともなわない血行再建が得られることを示し、本術式が慢性完全閉塞病変に対しての重要な選択肢になりうることに根拠を与えたことは、冠動脈狭窄病変に対する治療法の選択に重要な貢献をなすものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/50979