本研究は動脈硬化巣で発現していることが確認されているアクチビンと、その結合蛋白であるフォリスタチンの、動脈硬化発症進展に及ぼす役割を明らかにする目的で、ヒト単球系細胞株であるTHP-1マクロファージを用いて、細胞の泡沫化に対する作用を検討したものであり、下記の結果を得ている。 1.THP-1マクロファージによる125I-Ac-LDLの細胞内取り込み、分解は、アクチビン-Aの前処置によって濃度依存的に減少した。この作用はフォリスタチンの同時添加により消失し、フォリスタチン単独では、Ac-LDLの細胞内取り込み、分解に促進的に作用した。 2.次に、125I-Ac-LDLのTHP-1マクロファージへの結合について検討したところ、アクチビン-AはAc-LDLの全受容体濃度(Bmax)を減少させ、フォリスタチンはこれを増加させた。一方、解離定数(Kd)に対してアクチビン-A、フォリスタチンは影響しなかった。 3.Ac-LDL受容体のうちで、最も重要と考えられるスカベンジャー受容体について、そのmRNA発現量をNorthern blot解析によって検討したところ、アクチビン-Aによって2型スカベンジャー受容体mRNA発現量は減少し、フォリスタチンによって1型、2型両スカベンジャー受容体mRNA発現量が増大した。 4.細胞の泡沫化と平行することが知られている、細胞内コレステロールエステル量を細胞から脂質を抽出し、酵素法によって定量したところ、アクチビン-Aによってコレステロールエステル蓄積量は減少し、フォリスタチンによって増加することが示された。 5.細胞の泡沫化をOil Red O染色によって定性的に評価したところ、アクチビン-Aの処理によって泡沫化は抑制され、フォリスタチンの処理により促進することが示された。 以上、本研究によりアクチビン-Aがヒト単球系細胞株であるTHP-1マクロファージのAc-LDL受容体、特にスカベンジャー受容体の発現を減少させ、Ac-LDLの細胞内取り込み、分解を抑制すること。その結果、細胞内コレステロールエステル蓄積量が減少し、細胞の泡沫化が抑制されること。一方、アクチビン-Aの結合蛋白であるフォリスタチンは、アクチビン-A拮抗作用を示し、THP-1マクロファージの泡沫化を促進することが明らかにされた。本論文は、動脈硬化発症進展の機序について新たな知見を加えるものであり、学位の授与に値するものと考えられる。 |