本研究は物体の硬さを共鳴周波数の変化( f)で定量できる触覚センサーを用いた新しい胸腔鏡下肺内腫瘤探査法の動物実験および臨床応用に関するものであり、下記の結果を得ている。 1.sensor tipを軽く肺にあて、肺表面をゆっくり滑るように動かすと、 f曲線は肺組織固有の硬さを示す値(約-800Hz)を推移しながら平坦に描かれ、周囲組織より硬い腫瘤上を通過すると、突然上方(硬い方)に偏位するのが観察された。この f曲線におけるSudden Upward Jump(SJ)の出現により腫瘤の位置を知ることができ、完全虚脱した豚切除肺にシリコンボールを埋めておこなった動物実験では直径3mmのボールを深さ8mmまで確認できた。 2.胸腔鏡下に8症例で測定した種々の胸腔内構造物の f値は、食道:-896±21Hz,下大静脈:-818±19Hz,虚説肺:-794±30Hz、下行大動脈:-432±72Hz,気管軟骨:-81±30Hzであった。 3.1994年8月から1995年1月まで13例、計15個(転移性:4、診断未確定:11)の腫瘤に応用し、術前胸部X-p、CTスキャンで認められなかった1個を含めすべての腫瘤の位置を確認して胸腔鏡下に摘除でき、未確定診断腫瘤はすべて術中迅速病理診断で確定し得た。 4.necdle sensorは、臨床上必要となる症例は経験していないが腫瘤と肺内気管支を鑑別するために開発したものであり、切除標本内の8個の腫瘤(腺癌:2、扁平上皮癌:1、転移性腫瘍:2、結核腫:2、過誤腫:1)および気管支(n=12)を胸膜を穿刺して直接触知して得た f値は腫瘤が-526±168Hz、気管支が-64±46Hzで有意に異なっていた。(p<0.001) 以上本論文は音響工学を利用して開発した触覚センサーを用い胸腔鏡下に肺内腫瘤を探査できることを明らかにしたものである。CTスキャンの進歩とともにより小さい腫瘤が発見されるようになり、診断あるいは治療を目的として胸腔鏡下に探査し切除する機会が今後増えることが予想される。本論文は臨床上重要な貢献を果たすと考えられる胸腔鏡下肺内腫瘤探査法の開発について述べたものであり、学位の授与に値するものと考えられる。 |