本研究は、虚血性心疾患に対するり患率、死亡率が極めて高い家族性高コレステロール血症(FH)患者に対する冠動脈硬化早期診断の可能性ならびに、虚血性心疾患に対するより精度の高い診断の可能性について、ポジトロンCT(PET)を用いた非侵襲的な冠血流予備能定量評価により行ったものであり、以下の結果を得た. 1.無症状で、運動負荷陰性で未治療のFH患者および年齢をマッチさせた健常者に対して13N-ammoniaを用いたPETを安静時およびdipyridamole負荷時に施行することにより、冠血流予備能を得た.その結果、FH患者では、無症状で運動負荷陰性であっても、冠血流予備能は年齢をマッチさせた健常者に対して有意に低下していた. 2.このFH患者の冠血流予備能の低下は、女性よりも男性で有意に低下していた.しかしこの冠血流予備能の男女差は、健常者においては認められなかった.これは、FH患者における虚血性心疾患のり患率、死亡率が女性よりも男性で有意に高いという疫学的事実に合致しており、PETによる非侵襲的な冠血流予備能の定量評価が、本疾患の予後を推察するための手段となりうることを示唆するものと考えられた. 3.虚血性心疾患患者においては、冠血流予備能は冠動脈狭窄の程度と逆相関して低下していた.一方、心筋梗塞患者の非病変枝側(0%狭窄)の冠血流予備能も健常者と比較して有意に低下していた.しかし、症例ごとに冠血流予備能の値にばらつきも少なからず認められた.冠血流予備能を定量することにより冠動脈病変を診断することを試みたが、診断精度は従来的な半定量的診断法と大きな差を認めなかった. 以上、本論文は無症状で未治療で運動負荷検査正常のFH患者における冠血流予備能の低下を、ポジトロンCTを用いた非侵襲的な検討から明らかにした.本研究は、これまで未知に等しかったFH患者における、動脈硬化早期診断の方法を示したものであり、本疾患の診断治療において重要な貢献と考えられる.また非侵襲的な冠血流予備能定量評価による、虚血性心疾患のより精度の高い診断の可能性については、その有用性についての報告は数々の報告がなされているが、その限界についての検討は未知に等しく、これもまた虚血性心疾患診断の分野における重要な貢献と考えられる.以上のことから、本研究は学位の授与に値するものと考えられる. |