本研究は卵胞発育過程において重要な役割を演じていると考えられる上皮成長因子(EGF)の作用を明らかにするために、ラット顆粒膜細胞の初代培養系を用いてEGF受容体調節機序を検討し、さらにEGFと各種性ステロイドおよび性腺刺激ホルモンとの相互作用を中心にEGFが顆粒膜細胞に及ぼす増殖調節機序の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.ラット顆粒膜細胞を6日間にわたり前培養したのちに、125I標識EGPを用いて行ったEGF receptor assayの結果、顆粒膜細胞にはKd値7.4×10-10M、結合量1.45×103molecules/cellの単一の受容体が存在し、さらにestradiol(E2)を添加することによりその結合量が約2.5倍に増加することが判明した。またE2のEGF結合量増加作用に関してはスキャッチャード分析の結果から、結合親和性を変化させることなく、細胞あたりの結合数を増量させることにより発現することが示された。 2.実験に用いた培養顆粒膜細胞は卵胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone:FSH)の添加により基質(testosterone)存在下で用量依存的にE2産生作用を有することが、培養液中のE2濃度をEIA法によって測定することにより確認されたが、この顆粒膜細胞が産生した内因性のE2によっても前項と同様に顆粒膜細胞へのEGF結合量が増加することが示された。このことより、顆粒膜細胞のEGF受容体発現に対してE2がautocrine/paracrine的に作用する可能性が示唆された。 3.顆粒膜細胞にFSH・testosterone・EGFを同時添加して得られた培養液中のE2濃度を測定することにより、顆粒膜細胞によるE2産生作用をEGFは用量依存的に抑制することが確認された。 4.顆粒膜細胞を3日間前培養した後に3H標識thymidineを添加して行ったincooporation growth assayより、EGFおよびFSHはそれぞれ単独で用量依存的に顆粒膜細胞のDNA合成量を促進した。しかし、EGFとFSHを同時添加して検討したところ、EGFはそれ自身のDNA合成量促進作用を発現する一方で、FSHによるDNA合成量促進効果をcAMP産生を阻害することにより抑制することが示された。 以上、本論文はE2、EGFおよびFSHの三者が相互作用を及ぼしあって顆粒膜細胞の増殖・分化を制御すること、即ち、FSHによって分化を誘導された顆粒膜細胞はE2分泌を介してEGFの作用発現を増強し、その結果FSHによって獲得した増殖能・分化能の制御を受けることを明らかにした。本研究はこれまで未解明であった卵胞発育における各種ホルモンの影響を明らかにする重要な新知見と考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |