通常土は引張り強度が無く、また拘束圧が低い状況の下ではそのせん断強度は小さい。このため、通常土は低品質の土木材料とみなされ、なるべく地盤に頼らず杭で構造物荷重を支え、なるべく盛土を建設せずに鉄筋コンクリート高架構造物を建設し、盛土を建設した場合はなるべく鉄筋コンクリート擁壁で盛土を支える傾向にある。 しかしながら、杭で支持された高架構造物を建設すること、掘削工事で土が大量に発生する場合でも発生土を処理し活用しないこと、あるいは盛土からの土圧を杭で支持された鉄筋コンクリート擁壁で抵抗することは、あまりに不経済である場合が多い。その場合、盛土内に曲げとせん断剛性は低いが引張り剛性が高い土以外の人工材料(引張り補強材)を多層に配置して、盛土内に引張りひずみが発生するのを防いで土圧に抵抗する「補強盛土工法」、さらに高含水比軟弱粘性土盛土の内部からの排水を促進するために排水性の高い面状の人工材料を盛土内部に多層に配置する工法、あるいは軟弱地盤と盛土の境界に引張り補強材を配置して軟弱地盤の支持力を向上する工法が近年発達してきた。これらの工法は、できるだけ土を内部から強化して、柔軟であるという土本来の特質を生かしつつ、なるべく土を生かそうという基本的考え方に基づいており、国の内外で急速に広まりつつある。 わが国においては、最も多くの土木工事を発注している建設省でも、上記の補強土工法が活用され始めてきている。論文提出者は、過去10年間以上建設省土木研究所にあって、建設省での補強土工法の開発・設計施工法の基準化の一連の作業を中心となって押し進めてきた研究技術者であり、本論文はそれに関連した研究の成果をとりまとめたものである。 第1章は序論であり、研究の位置づけ・背景・目的をとりまとめたものであり、設計方法の合理化と簡便であるが補強メカニズムを正確に捉えた実用的な設計方法を確立することの重要性を述べている。 第2章では、次の三つの主要な研究分野での現状と課題をとりまとめて示している。すなわち、1)ジオテキスタイルの引張り補強効果を利用した盛土本体の補強(盛土引張り補強工法)、2)ジオテキスタイルの排水効果を利用した高含水比粘性土を用いた盛土の補強(盛土排水補強工法)、3)ジオテキスタイルの引張り補強効果を利用した盛土支持地盤としての軟弱地盤の補強(軟弱地盤の補強工法)、である。 第3章は、急勾配ののり面を持つ盛土の引張り補強工法についての、大型補強盛土の人工降雨実験や実物大補強盛土の崩壊実験とその数値解析による研究をとりまとめたものである。補強材の引張り抵抗を取り込んだ合理的で実用的な安定解析法を提案している。一方、補強盛土ののり面には土のうを設置することが多いが、その効果を設計で考慮していないのが普通である。土のうによる隠れた安全性を定量的に評価することは、実際の補強盛土の安定性と設計での安全率の関係を知る上で必須であり、この研究では実物大模型破壊実験とその結果の定量的評価を行い、設計に取り入れられる簡易な安定解析法を提案している。 第4章は、ジオテキスタイルを排水材として用いて、高含水比の粘性土盛土の盛り立て中の過剰間隙水圧を消散して安定的に盛土する工法の三つの現場での実物大現場実験の計画・施工・現場測定・解析の結果をまとめ、実用的設計法を提業している。すなわち、圧密排水の解析にはGiroudの簡易式は妥当であることを示し、それに基づいた簡易設計式を提案している。また、この工法により低品質の建設発生土も盛り立てられることを示している。 第5章は、盛土を支持する軟弱地盤のすべり破壊を防止するために、盛土の底面にジオテキスタイルを配置する工法の二つの現場で行った試験施工の結果をまとめている。さらにその計測結果を、ジオテキスタイルと土の間のすべり変形をジョイント要素でモデル化し圧密とせん断変形の相互作用を考慮した有限要素法を開発して、解析している。有限要素法による解析結果は、実際の挙動を良く説明している。また、ジオテキスタイルの伸びひずみ10%の時の引張り力を設計引張り強度とすることにより、提案した極限釣り合い安定計算法による実用設計法が十分安全側になることを実証している。さらに、この工法が有効なのは地盤内でせん断変形が卓越してジオテキスタイル配置位置で地盤が水平に伸びる場合であり、地盤内で圧密変形が卓越してジオテキスタイルが伸ばされない場合は、本工法は有効ではないことも実証している。 第6章は、結論である。 以上要するに、本研究はジオテキスタイルを用いた補強土工法全般における補強メカニズムを実物大室内模型試験・原位置試験施工・室内要素試験と数値解析に基づいて明らかし、既に広く実務で利用されている実用的設計式を提案している。したがって、土質工学の分野の研究と技術の進展に貢献する所が大であり、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |