学位論文要旨



No 212761
著者(漢字) 三木,博史
著者(英字)
著者(カナ) ミキ,ヒロシ
標題(和) ジオテキスタイルによる盛土の補強メカニズムとその解析手法に関する研究
標題(洋)
報告番号 212761
報告番号 乙12761
学位授与日 1996.03.18
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12761号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 助教授 山崎,文雄
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 助教授 堀,宗朗
 東京大学 助教授 古関,潤一
内容要旨

 ジオテキスタイルを用いた盛土の補強工法のうち、(1)補強盛土工法、(2)高含水比粘性土を用いた盛土の排水補強工法及び(3)盛土支持地盤としての軟弱地盤の補強工法の3工法に関し、大型模型実験や現場試験施工にもとづく補強メカニズムの解明、極限つり合いモデルによる実用的設計法の提案と実証データにもとづくその適用性の検証、FEM解析等による実際の現象のシミュレーションなどを行い、各工法ごとに以下のような結論を得た。

(1)補強盛土工法

 安定した高盛土や急勾配盛土を築造したり、重要盛土構造物の安定性の向上を図る場合には、ジオテキスタイルの引張り補強効果を期待した補強土工法が大きな偉力を発揮する。その補強メカニズムを大型補強盛土の人工降雨実験や実物大補強盛土の崩壊実験により明らかにするとともに、これらの実験結果の解析をふまえ、極限つり合いモデルによる実用的設計法を提案した。すなわち、ジオテキスタイルの引張り力による抵抗モーメントの増分を考慮した円弧すべり計算において、ジオテキスタイルの設計引張り強さとしてクリープに対する安全率を見込んだクリープ限度強さを用いる場合には、設計安全率として1.2〜1.3程度を確保しておれば、ジオテキスタイルのひずみを十分に小さく抑えることができることを実験によって明らかにし、これを骨格とする設計法を確立した。

 さらに、のり面工に土のうを用い、それをジオテキスタイルで密に挟み込んだ実物大補強盛土において、盛土内部に敷設したジオテキスタイルを順次切断していく実験を行った結果、最後まで残った長さ70cm程度の短いジオテキスタイルを密に配置して土のうを挟み込んだのり面工の部分がもたれ擁壁的な押えの効果を発揮することを明らかにし、もたれ擁壁的な効果を考慮した実用的な安定検討の方法について一つの提案を行った。

 またのり面工が部分的に擬似的な剛体として機能するためには、ジオテキスタイルが十分密に配置されており、補強領域が一体化されてあたかも安定処理土のように見かけの粘着力が発現することが必要でないかと考えた。この点を明らかにするため、補強材の敷設密度を変えた補強土の大型三軸圧縮試験を行い、敷設材の引張り強さや敷設間隔に応じて見かけの異方的粘着力が発現することを明らかにするとともに、その予測式の妥当性を検証した。

 さらに、のり面工に土のうを用い、それをジオテキスタイルで密に挟み込んだ実物大補強盛土のジオテキスタイル切断実験における破壊直前の状態を対象とした円弧すべり計算において、土のう袋を積み上げた奥行方向の長さ45cmの仮想擁壁のゾーンにおける見かけの粘着力を土のうを用いた補強土の大型三軸試験結果をもとに考慮すると、土のう袋の効果による見かけの粘着力を考慮しない場合の安全率が0.62であるのに対し、見かけの粘着力を考慮した場合は安全率が1.0近くになり、実際の現象と比較的よく一致することがわかった。従って、今後、土のう袋やジオテキスタイルを密に配置した仮想擁壁のゾーンにおける見かけの粘着力が適切な方法で評価できるようになれば、円弧すべり計算によってものり面工の効果を簡便に設計に取り込むことができる可能性があるといえる。

(2)高含水比粘性土を用いた盛土の排水補強工法

 ジオテキスタイルを水平排水材として用い、高含水比粘性土による盛土の施工中の過剰間隙水圧の消散を図り、圧密による土の強度増加を促進しながら盛立てを行う工法の有効性を現場試験施工ならびに各種室内試験により明らかにするとともに、設計法の提案を行った。

 すなわち、このような目的で用いるジオテキスタイルに要求される面内方向通水性の基準として提案されているGiroudの式の妥当性を三ツ谷バイパスと刈和野バイパスおよび八木バイパスにおける現場試験施工により検証するとともに、この式を基本とする実用的設計法の提案を行った。

 また、近年増大の一途にある建設発生土のうち含水比の高い低品質な土の再利用に本工法を適用する際には、載荷による土の強度増加率の値が設計上重要である。そこで、全国各地から各種の建設発生土を収集し、載荷による土の強度増加率の実態を調べた。その結果、締め固めたときのコーン指数がおおむね2kgf/cm2以下の泥土やコーン指数が2〜4kgf/cm2の第4種建設発生土においては、土の種類によらず、0.2〜0.3程度の強度増加率が期待できることがわかり、ジオテキスタイルを用いた排水補強工法が低品質な建設発生土全般にわたって十分に適用可能であることが明らかになった。

(3)盛土支持地盤としての軟弱地盤の補強工法

 軟弱地盤上の盛土の補強にジオテキスタイルを適用する方法のうち、基礎地盤の表面あるいは盛土下層部にジオテキスタイルを敷設して基礎地盤を通るすべり破壊に対する盛土の安定を確保する工法を対象に、実用的設計法の提案とそれを適用した現場試験施工例の検討を行い、次のような知見を得た。

 ジオテキスタイルによる引張り補強効果を考慮した極限つり合いモデルによる実用的設計法においては、ジオテキスタイルの伸びひずみが10%以内に抑えられるようなジオテキスタイルの引張強さを設計引張強さとすることにより、実際にジオテキスタイルに発生するひずみを十分に小さく抑えられることを行橋バイパスや新潟西バイパスにおける現場試験施工により検証し、提案した実用的設計法が十分に安全側の設計法になっていることを明らかにした。

 また、軟弱地盤上の盛土の補強にジオテキスタイルを適用してその効果が期待できるのは、行橋バイパスや新潟西バイパスのように地盤のせん断変形が卓越するケースであり、その場合はジオテキスタイルに大きな張力が発生し、引張り補強効果が発揮される。一方、柳井バイパスのように、地盤の圧密変形が卓越するケースではジオテキスタイルによる補強効果はあまり期待できない。

 次に、ジョイント要素を用いたFEM弾塑性-圧密連成解析の適用性に関しては、まず土中引抜き試験によるジョイント要素のパラメータの求め方を整理した。また、今回用いたFEM弾塑性-圧密連成解析の概要を示し、その具体的な入力パラメータの設定法や解析精度の検討を柳井バイパスにおける現場試験施工を対象に行った。その結果、今回使用したFEM弾塑性-圧密連成解析による地盤の変形挙動のシミュレーションの精度は十分に高いことが明らかになった。またこのことは、行橋バイパスと新潟西バイパスにおける現場試験施工のシミュレーション結果からも同様に確かめられた。

 さらに、行橋バイパスにおける現場試験施工のシミュレーションにおいて、ジョイント要素の有無による比較を行った結果、ジョイント要素を用いないとジオテキスタイルの張力を過大に評価しすぎるのに対し、ジョイント要素を用い、そのパラメータを土中引抜き試験により適切に求めた場合は、十分な精度でジオテキスタイルの張力が予測できることがわかった。この点は、バーチカルドレーンとジオテキスタイルを併用した新潟西バイパスにおける現場試験施工のシミュレーションにおいても同様であった。

 以上のように、軟弱地盤上の盛土の補強にジオテキスタイルを用いる場合の設計法ならびに数値シミュレーションについては、本論文で提案した方法を用いることにより実用的に十分な適用性が確保できることが明らかになった。

審査要旨

 通常土は引張り強度が無く、また拘束圧が低い状況の下ではそのせん断強度は小さい。このため、通常土は低品質の土木材料とみなされ、なるべく地盤に頼らず杭で構造物荷重を支え、なるべく盛土を建設せずに鉄筋コンクリート高架構造物を建設し、盛土を建設した場合はなるべく鉄筋コンクリート擁壁で盛土を支える傾向にある。

 しかしながら、杭で支持された高架構造物を建設すること、掘削工事で土が大量に発生する場合でも発生土を処理し活用しないこと、あるいは盛土からの土圧を杭で支持された鉄筋コンクリート擁壁で抵抗することは、あまりに不経済である場合が多い。その場合、盛土内に曲げとせん断剛性は低いが引張り剛性が高い土以外の人工材料(引張り補強材)を多層に配置して、盛土内に引張りひずみが発生するのを防いで土圧に抵抗する「補強盛土工法」、さらに高含水比軟弱粘性土盛土の内部からの排水を促進するために排水性の高い面状の人工材料を盛土内部に多層に配置する工法、あるいは軟弱地盤と盛土の境界に引張り補強材を配置して軟弱地盤の支持力を向上する工法が近年発達してきた。これらの工法は、できるだけ土を内部から強化して、柔軟であるという土本来の特質を生かしつつ、なるべく土を生かそうという基本的考え方に基づいており、国の内外で急速に広まりつつある。

 わが国においては、最も多くの土木工事を発注している建設省でも、上記の補強土工法が活用され始めてきている。論文提出者は、過去10年間以上建設省土木研究所にあって、建設省での補強土工法の開発・設計施工法の基準化の一連の作業を中心となって押し進めてきた研究技術者であり、本論文はそれに関連した研究の成果をとりまとめたものである。

 第1章は序論であり、研究の位置づけ・背景・目的をとりまとめたものであり、設計方法の合理化と簡便であるが補強メカニズムを正確に捉えた実用的な設計方法を確立することの重要性を述べている。

 第2章では、次の三つの主要な研究分野での現状と課題をとりまとめて示している。すなわち、1)ジオテキスタイルの引張り補強効果を利用した盛土本体の補強(盛土引張り補強工法)、2)ジオテキスタイルの排水効果を利用した高含水比粘性土を用いた盛土の補強(盛土排水補強工法)、3)ジオテキスタイルの引張り補強効果を利用した盛土支持地盤としての軟弱地盤の補強(軟弱地盤の補強工法)、である。

 第3章は、急勾配ののり面を持つ盛土の引張り補強工法についての、大型補強盛土の人工降雨実験や実物大補強盛土の崩壊実験とその数値解析による研究をとりまとめたものである。補強材の引張り抵抗を取り込んだ合理的で実用的な安定解析法を提案している。一方、補強盛土ののり面には土のうを設置することが多いが、その効果を設計で考慮していないのが普通である。土のうによる隠れた安全性を定量的に評価することは、実際の補強盛土の安定性と設計での安全率の関係を知る上で必須であり、この研究では実物大模型破壊実験とその結果の定量的評価を行い、設計に取り入れられる簡易な安定解析法を提案している。

 第4章は、ジオテキスタイルを排水材として用いて、高含水比の粘性土盛土の盛り立て中の過剰間隙水圧を消散して安定的に盛土する工法の三つの現場での実物大現場実験の計画・施工・現場測定・解析の結果をまとめ、実用的設計法を提業している。すなわち、圧密排水の解析にはGiroudの簡易式は妥当であることを示し、それに基づいた簡易設計式を提案している。また、この工法により低品質の建設発生土も盛り立てられることを示している。

 第5章は、盛土を支持する軟弱地盤のすべり破壊を防止するために、盛土の底面にジオテキスタイルを配置する工法の二つの現場で行った試験施工の結果をまとめている。さらにその計測結果を、ジオテキスタイルと土の間のすべり変形をジョイント要素でモデル化し圧密とせん断変形の相互作用を考慮した有限要素法を開発して、解析している。有限要素法による解析結果は、実際の挙動を良く説明している。また、ジオテキスタイルの伸びひずみ10%の時の引張り力を設計引張り強度とすることにより、提案した極限釣り合い安定計算法による実用設計法が十分安全側になることを実証している。さらに、この工法が有効なのは地盤内でせん断変形が卓越してジオテキスタイル配置位置で地盤が水平に伸びる場合であり、地盤内で圧密変形が卓越してジオテキスタイルが伸ばされない場合は、本工法は有効ではないことも実証している。

 第6章は、結論である。

 以上要するに、本研究はジオテキスタイルを用いた補強土工法全般における補強メカニズムを実物大室内模型試験・原位置試験施工・室内要素試験と数値解析に基づいて明らかし、既に広く実務で利用されている実用的設計式を提案している。したがって、土質工学の分野の研究と技術の進展に貢献する所が大であり、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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