電源立地の円滑化を目的に1974年電源三法交付金制度が制定されて以来、様々な電源地域振興策が講じられてきたが、それらによって発電所立地が進捗したとは言いがたい。こうした状況を踏まえ、1992年電気事業審議会にて、発電所の資源を地域振興に活用するという「地域共生型発電所」構想が打ち出された。本論文は、この「電気事業者と地域社会との共生」に「地域の自立的発展」という視点を加え、従来の電源地域振興の社会経済面の課題を明らかにし、これを踏まえて電源地域振興への具体的な方策を提案している。 本論文は、全6章より構成される。 第1章は、上述した本研究の背景及び目的を述べている。 第2章は、原子力発電所立地市町村を対象に、次の3つの側面から電源地域振興策の効果と課題を実証的分析により明らかにしている。第1は人口の側面であり、発電所立地により一時的に若者の定着率が高まり、出生率の下げ止まりが見られ、人口が増加するが、それは建設期間に偏る一過性の問題があることを指摘している。第2は、地域経済に与える影響であり、建設業を軸に量的に拡大するが、個々の産業の労働生産性はほとんど向上しておらず、地域産業の地方財政依存、地方財政の発電所依存という構図がみられることを明らかにしている。第3はコミュニティの変化であり、発電所立地による特徴として、生活圏の拡大、兼業化、サラリーマン化、地区の名家を中心とする権力構造の崩壊等が生じることを示している。これらは地域振興にとって連帯性の欠如というマイナス面をもたらす一方、新しい担い手の台頭、広域的連携の可能性などのプラスの面も有することを述べている。さらに電気事業者は以上のような地域の変化に十分対応できていないことを指摘している。 第3章は、電源地域振興の参考となる他の地域での地域づくり事例及び企業城下町と言われる地域での企業の地域社会活動についての分析結果を整理している。地域づくり先進事例では、人材育成、行政組織の活性化などの地域の体力づくりに力を注いでいること、準備運動→一点突破→アフターケア→全面展開という地域づくりに発展段階があること等を明らかにしている。一方、原子力発電所立地市町村では、ものづくりが先行し、組織づくりや人材育成等の行動が少ない。また企業城下町での企業は地域社会との対話と共同作業、社員の地域社会活動の支援、誇りづくり、技術・モラルなどの面での寄与を重視することにより、企業と地域との良好な関係づくりを進めていることを明らかにしている。 第4章は、以上の課題を踏まえ、「地域の自立的発展のために地域と共に考え、行動すること」を地域共生の基本理念とし、地域づくりへの参画、開かれた発電所、地域社会との調和を3本柱と広域と多様な層の巻き込み、情報公開とコミュニケーション、自然環境との調和などをはじめとする15の方針からなる地域共生型発電所のコンセプトを提案している。 第5章は、4章で整理したコンセプトを具体化するための、地域社会と電気事業者による地域づくり行動計画を提案している。これは地域づくりの発展段階と立地計画の段階を同調させる基本シナリオに沿って、「リーダーとコアグループによる先行的活動」「種さがし、プランづくり」など13の展開方法とそれらの手順を整理している。たとえば、「リーダーとコアグループによる先行的活動」では、職業や経歴、核となるキーパーソンのさがし方等を、事例を付記して述べている。さらに、地域社会活動で成果を上げている日米欧の先進企業のマネジメント手法を整理し、電気事業の地域共生マネジメント案を作成している。重点方策を絞り込み効果を高めるとともに社内外の理解を得るための「戦略とガイドライン」など7つの項目にわけて記述している。 第6章は、結論であり、本研究の成果についてまとめている。今後の課題として、提案した方法を実践で活かし、内容を拡充していくことを挙げており、自立的に発展する産業集積の育成法など、より具体的なテーマに展開していく必要性を述べている。 以上、本論文は電源地域振興について、工学上、はじめて実証的かつ体系的な検討を加えた研究である。そこでは「地域の自立的発展」や「共生」について具体的な内容を明らかにするとともに、詳細な事例分析によって課題と改善方策を明らかにしている。このように本研究は独創的かつ挑戦的であり、他の社会資本整備、とくに社会的に必要であるが地域からはその立地を拒まれることの多い廃棄物処理場など嫌悪施設の立地と地域発展という課題の解決に向けて有意義なものと考える。 よって本論文は土木計画学の発展に寄与するものであり、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |