「建築外皮と空調設備システムの計画手法に関する研究」と題する本論文は、空調設備におけるエネルギー消費量が、建築外周部位の躯体、内外装等の性状と深くかかわり合っていることに着眼し、建築外皮計画と空調設備計画の整合的な在り方を探求したものであって全4章よりなる。 第1章では、まず、建築外皮と外周部空間に関わるペリメータ・ゾーン空調システムのそれぞれについて、わが国の1960年代以降の変遷について概観している。次いで外皮の省エネルギー性評価指標であるPAL値に基づいて、既存の事務所建築物の遮熱性を検証した。これらの調査を通して、これまでの外皮設計が意匠のみならず、遮熱性能についても多様で性能が一定しないことを示し、設備技術者が外皮計画に関しても積極的に関与し、役割を担うべきことを主張している。 第2章では、第1章の主張を具体的なレベルで展開している。最初に建築計画、設備計画上の要求条件を計画の進行プロセスに対応させつつ整理している。とりわけ、窓まわりの扱いが、熱性能に重大に関係すると同時に、各種専門分野の協同が要求されるところであるとして、その計画手法を設備技術者の観点から整理し、計画上のあるべき姿について論じた。さらにこの論を具体化するべく、建築と設備の計画者が十分な協調のもとに計画が行われた過去の事例を調査して、「設備上の検討が込められた建築デイテール」を列挙している。またこの観点から、いわゆるペリメータ空調システムを分類整理すること、最新の動向である「ペリメータレス化」空調方式の位置づけを行っている。 第3章は、さらに一歩を進めて、著者自身が関わった計画の中での実践の経過を述べている。すなわち、ペリメータ空調システムの決定プロセスとそこで検討された多くの要因について、その詳細を示したものである。建築の計画は個々の事例毎に個別の事情があるために、往々にして一般性ある判断基準を提示することが困難となるのであるが、著者は手法の選択にあたって極力汎用性のある実験やシミュレーションを行い、選択根拠の客観性を担保するとともに、他事例への応用性を確保しようとしている。著者の行った開発と実証実験は以下のようなものである。 1)エアフローウインドウに関する実験では、その開発時点から研究に参加し、特に大型窓への適用、排煙システムとの兼用方式の開発、ロールブラインドを空気流ガイドとして使用する簡易方式の効果確認実験などを行った。 2)吸い込み方式の検討では、従来軽視されがちであった吸い込み口がペリメータ空間の環境性能を左右する要因であることを見いだし、窓下吸い込み、窓上吸い込みなどの新しい方式につき検討して、実施に導いた。 3)ファンコイルユニット方式の既設設備で、これをファンユニットに転用すると同時に天井部分に吸い込み口を設けることにより、ペリメータの温熱環境を維持する方法を開発した。 4)窓ブラインドの設計をペリメータ熱負荷への影響に基づいて検討し、ブラインド開閉制御の新しい手法を開発し、効果を検証した。 5)直暖方式の暖房において、上下温度差解消のため天井扇を使用することにつき、その性能評価と経済評価を行い、実施に結び付けた。 6)ガラスで囲まれた執務空間の環境保持を狙いとしたダブルスキンとエアフローウインドウの組み合わせ方式について環境実測を行って、この組み合わせ方と切り替え操作の方法を確立した。 第4章は今後の課題を展望した章であって、1つは、建築計画者と設備計画者の間の連携と意思疎通のために共通言語を持つべく努力することの重要性を強調している。もう1つの技術的課題としては、ペリメータレス化の推進、外皮と設備の融合、各種設備機能の兼用一体化、制御システムの高度化を挙げている。 以上を要するに、本論は空調システムという技術的対応に終始しがちな分野において、あえて計画の観点からアプローチし、効率的であると同時に他の建築諸要素と整合的に一体化した空調設備の姿を追い求めて、その計画プロセスの確立と新方式の開発・検証を精力的に実行した結果の報告であり、その先見性と実用的価値は高く評価することができる。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |