学位論文要旨



No 212790
著者(漢字) 河村,友槌
著者(英字)
著者(カナ) カワムラ,トモヅチ
標題(和) ボイラ用フィン付伝熱管群の伝熱流動特性に関する研究
標題(洋)
報告番号 212790
報告番号 乙12790
学位授与日 1996.03.18
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12790号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 齋藤,孝基
 東京大学 教授 棚澤,一郎
 東京大学 教授 葉山,眞治
 東京大学 教授 酒井,宏
 東京大学 教授 庄司,正弘
内容要旨

 近年発電プラントの高効率化、多様化の取組みが盛んで、超高圧発電プラント、複合サイクル発電プラントなどはその代表的事例といえよう。又、熱電併給、いわゆるコジェネレーションも盛んで、このような背景をふまえ、これらの各種プラントに用いるボイラの熱設計、特に各種伝熱面の伝熱設計技術に対する要求も厳しさを増しており、いわゆる経済設計が求められている。

 中でも本論文の対象であるフィン付伝熱管群は事業用、産業用ボイラの対流伝熱部、複合サイクル発電用、あるいはコジェネレーション用の排熱ボイラの大部分を占めており、ボイラの経済設計には、精度の高い設計技術の確立が必要である。

 このようなフィン付伝熱管群の設計に関する最も重要な要素技術としては、

 (1)伝熱特性予測技術

 (2)流動抵抗特性予測技術

 (3)気柱振動予測および低減技術

 の3つがあげられる。

 フィン付伝熱管群を用いた排熱ボイラをはじめとする熱交換器をよりコンパクトに設計することは、コストダウンをはじめプラントの経済性を高めるためには必須の技術である。このような経済設計には、許される圧力損失の範囲内で、より高い流速条件が選定でき、より熱伝達特性を高め得る伝熱管群を形状、および配列の条件を見い出す必要があり、このためには十分な精度、および信頼度を有するフィン付伝熱管群の伝熱流動特性評価式および伝熱流動特性予測技術が必要である。

 フィン付伝熱管群の伝熱流動特性予測技術は空気熱交換器に用いるフィン付伝熱管群を対象に発達したもので、各種ボイラの設計ではこれを応用し、かつ実機での経験を加味したものを用いている。従って、いずれもその対象が限定されており、ボイラをはじめとする伝熱機器の経済設計という観点からみれば不十分といわざるを得ない。

 一方、フィン付伝熱管群の設計において、もう一つ重要な因子として気柱振動特性の予測および低減技術があげられる。近年、発電プラントをはじめとして騒音に対する規制が厳しさを増しており、これに対処するには、フィン付伝熱管群の気柱振動の適確な予測技術が必要である。フィン付伝熱管の気柱振動に関しては従来、フィンが管群渦励振力の発生を妨げ、気柱共鳴が発生しにくいと考えられていた。しかし、最近では逆にフィンの整流効果で流れが2次元的になり、平滑管より強い気柱共鳴が発生しやすいことが知られているようになった。

 ところで、フィン付伝熱管群の熱的設計においては、経済設計の観点からできる限り高い流速条件を用いて熱伝達率を可能な限り高めることが求められる。反面、これは気柱振動を発生しやすくする方向であり、フィン付伝熱管群の設計者はこの相反する要求を満足させつつ所要の伝熱管群を決定しなければならない。また、実機ボイラにおいて気柱共鳴が発生した場合には多大な労力と時間を費して低減対策を実施する必要があり、設計段階での共鳴振幅の予測と低減対策を確立することが重要であるといえる。

 このようにフィン付伝熱管群の設計・応用においては伝熱流動特性と気柱振動は分離して考えられない課題となっている。本研究は以上の背景から、ボイラ用フィン付伝熱管群を対象として、フィン付伝熱管群の設計・応用に必要な技術全般の確立を目ざしたものである。

 まず、フィン付伝熱管群の伝熱流動特性については、従来用いられて来た伝熱流動特性の評価式を比較検討し、ボイラを対象とした場合、これらの適用範囲は極めて狭く、本研究の対象とする各種ボイラへの適用には問題のあることを示し、新たにボイラに用いる各種フィン付伝熱管群に対し、以下に述べる熱伝達実験を実施した。

(i)常温空気による熱伝達実験

 まず伝熱管内に温水を流し空気を加熱する方式による熱伝達実験を行った。これによりフィン付伝熱管の管径をはじめとして、フィン付伝熱管の寸法上の各パラメータの伝熱流動特性に与える影響を把握し、新たにフィン付伝熱管群の伝熱流動特性評価式を導いた。

(ii)高温ガスによる熱伝達実験

 伝熱管内に冷却水を管外に高温の燃焼ガスを流す方式による熱伝達実験を行った。これにより、実機ボイラ作動時の条件に対するフィン付伝熱管群の熱伝達率および圧力損失を測定し、熱伝達および圧力損失に対するガス温度の影響を実験的に把握した。この実験からは管群入口ガス温度で最高500℃、管群内平均ガス温度で最高400℃までの範囲において、作動ガスの平均温度に相当するガスの物性値を用いることにより、上記の空気による熱伝達実験から誘導したフィン付伝熱管群に対する伝熱流動特性評価式が適用できることが確認された。

(iii)実機の性能解析

 上記のフィン付伝熱管群の伝熱流動特性評価式を用いて設計したボイラおよび熱交換器の実作動条件下での性能を逆解析、評価したもので、複合サイクル発電プラント用排熱ボイラおよびボイラ用ヒートパイプ式熱交換器を対象としている。解析により前述のフィン付伝熱管群の伝熱流動特性評価式はボイラ用フィン付伝熱管群等に対して、広い範囲で適用可能で、十分な精度を有するものであることが確かめられた。

 以上の実験および解析によりボイラ用フィン付伝熱管群の伝熱流動特性評価式およびこれを用いたフィン付伝熱管群の伝熱流動特性予測手法を確立した。(図1参照)

図1 従来の伝熱流動特性予測式の適用範囲と本研究の適用範囲

 次にフィン付伝熱管群の気柱共鳴については前述のように、気柱振動の適確な予測手法の確立とその防止対策が必要である。近年、ボイラでは特にフィン付伝熱管群の気柱振動に関し、これまで良く知られているストローハル数成分に対するガス流れと直角方向の振動の他に、ストローハル数の2倍成分に対するガス流れ方向の共鳴現象の発生が知られるようになった。このような振動の発生に対しては、その予測が現状では困難であるほか、防振板等のガス流と直角方向の気柱振動に対する防振方法では対処できないことから、新しい防振技術の開発が必要である。

 本研究ではこのような気柱振動の発生条件について実験的に検討し、ガス流方向の気柱共鳴振動の発生はフィン付伝熱管群の配列に大きく依存することを見い出し、ガス流方向の振動が発生する伝熱管群の配列条件を整理し、発生条件を明確化した。更に、伝熱管群まわりのダクトに吸音材を設置する。"壁面吸音処理法"および伝熱管群の前方にその管軸方向が伝熱管群と直交する円管を設置する"前方直交管法"がガス流方向の気柱振動防止あるいは低減に効果的であることを見い出した。

 さらに、本研究では、コンバインドサイクル発電プラント用排ガスボイラの限界設計に関する考察について述べ、限界設計による排ガスボイラの重量軽減をはじめとする原価低減の効果を示すとともに、このような限界設計に本研究にて導いたフィン付伝熱管群の伝熱流動特性予測式が有効であることを示した。

 以上のボイラ用フィン付伝熱管群に対する伝熱流動特性予測法および気柱振動特性予測法の確立により、ボイラをはじめ各種熱交換器の経済設計が可能となった。また、これらの成果自体は個々に、ボイラをはじめ各種熱交換器の設計に応用可能である。

審査要旨

 火力発電プラントあるいはコジェネレーションシステムにおいて伝熱面、なかでもフィン付伝熱管群の設計は重要である。最適経済設計を行うためにはその伝熱特性、流動抵抗特性を把握し、気柱振動を抑制する技術を確立する必要がある。

 本文は6章より成る。

 第1章の緒論では火力発電用ボイラにおいてフィンを用いる伝熱技術の重要性を概観し、最適設計に必要な要素技術について述べて、本論文の位置付けを示している。

 第2章はフィン付伝熱管群の熱伝達特性に関する実験的研究である。従来フィン付伝熱管の伝熱流動特性は主として室温レベル付近について検討され実験式が得られているが、高温ガスに対して適用するには充分とは言えない。本研究ではボイラ等の高温ガスからの熱回収を目的として、常温空気及び高温燃焼ガスについて実験が行われている。常温空気に関する実験装置は風洞と1m×1mの矩形断面流路より成り、流路内に供試伝熱管群(千鳥配列、伝熱面積50.2m2〜104.8m2)を置き、管内に温水(最高80℃)を通し、管外空気流との熱交換を測定する。円環状フィン厚さは0.8〜1.4mm、高さは9.7〜19mm、1インチ当たり2〜7.5枚である。伝熱管の外径は31.8〜45.0、肉厚は2.9〜5.5mm、流れの直角方向のピッチSTは64〜105mm、主方向ピッチSLは49〜115mmの範囲にある。上、下の壁側には分割ダミー管を配置するなどにより偏流が起こらぬよう配慮している。熱貫流率は温度効率(A)とNTUA(Number of Transfer Unit)の関係より求め、既知の管内熱伝達率を用いて管外熱伝達率を求める方法をとっている。

 フィン付伝熱管群の特性に関するBriggsの式では、フィン高さ(hf)とフィン間隔(S)の比(S/hf)を、Schmidtの式では外表面拡大率を重要なパラメータとしているが、本実験データを精度よく整理することはできない。本研究では伝熱管の配列ピッチも考慮して次式を導いている。

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 実験対象の範囲等より本式の適用範囲は、

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 本実験式は実験データを±10%以内で良く整理できる。

 次に高温の燃焼ガスへの適用性を確かめる実験を行い、ガス温度の影響を検討した。管外径31.8〜45.0(肉厚3.5〜5.5mm)、フィン高さ13.0〜19.0mm、フィン板厚1.0〜1.4mm、フィン枚数1インチ当たり2〜6.25枚、管ピッチST=64〜105、SL=49〜115mmに対し、ガス入口温度最高773Kまでの範囲でガス側の熱伝達率を求めた。常温空気に対して導いた式はガス物性値を管群内平均温度における空気の物性値とすると高温ガスに対しても良く適合する。さらにフィン温度分布を求める実験を別に行い、フィン付伝熱管群の局所熱伝達特性を調べて平均熱伝達を求め、フィン高さのフィン間隔に対する比が重要であることを示している。また、伝熱管の根元の温度分布を測定し、配列効果を求め、その影響はSD/(SD-de)等で評価できることなど、伝熱特性式の諸項の持つ意味を検討している。

 第3章はフィン付伝熱管群の流動抵抗特性の実験的研究である。対象伝熱管群は第2章と同じである。非加熱管群に対して圧力損失PAを表す式

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 における流動抵抗係数fは気流と直角方向のピッチが支配的因子とみるRobinsonや管配列ピッチとフィン付管の水力直径を重視するGunter等の実験式に検討を加えて、

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 を導いている。さらに、入口温度773Kまでの高温ガスについて実験を行い、物性値を伝熱特性の場合と同様に温度補正をすれば本式は高温ガスにも適用できることを確かめている。

 第4章はフィン付伝熱管群の気柱振動とその防止法に関する研究である。ガス流速を増すと気柱振動が発生しやすい傾向があるのに加えて、フィン付管では平滑管よりかえって強い気柱振動が発生する可能性がある。検討した伝熱流動特性を活かすには気柱振動を抑制できなければならない。振動共鳴モードはガスの流れと直角方向のみならず、流れと並行方向にも存在する。特に後者に対してその発生条件を調べた。ST>SLの配列で流れ方向の気柱共鳴(2S1の成分を持つ。St(ストローハル数)≒0.2)が発生しやすい傾向がある。一般に気柱振動抑制のためには仕切り板を置いて共鳴振動数を変える、あるいは管群励振力を低減させる等の方法がある。後者の一つの方法として伝熱管群の上流側に管群に直交する管列(1列)を置く方法について検討し、その有効性を確かめている。この振動防止策を実施した管群にも第3章で得た伝熱流動特性式が当てはまることを確認している。さらにダクト壁面に厚さ100mmのグラスウールを貼って吸音させることも気柱振動軽減に有効であることを示している。

 第5章はフィン付伝熱管群の実機性能解析及び限界設計に関する考察である。コンバインドサイクル発電プラント用排ガスボイラ、ボイラ用ヒートバイプ式熱交換器を対象として第3章で導いた伝熱流動予測式が適用可能であり、これらを適用して限界設計を行うことによりコストを低減できることを示している。またこのような限界設計には気柱振動防止対策が不可欠であると述べている。

 第6章は結論である。

 以上、燃焼ガスのような高温ガスに対して用いるフィン付伝熱管群に関する伝熱・流動を表す特性式を実験に基づいて求め、その適用性を確かめると共に管群に発生しうる気柱振動の抑制対策を提案している。この結果、コスト低減につながる限界設計が可能となるなど、工学上、新しい知見を得ている。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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