学位論文要旨



No 212794
著者(漢字) 佐藤,恵一
著者(英字)
著者(カナ) サトウ,ケイイチ
標題(和) レールガン性能の基本的特性
標題(洋) Basic Characteristics of Railgun Performance
報告番号 212794
報告番号 乙12794
学位授与日 1996.03.18
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12794号
研究科 工学系研究科
専攻 航空宇宙工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 長友,信人
 東京大学 教授 安部,隆士
 東京大学 教授 荒川,義博
 東京大学 教授 久保田,弘敏
 東京大学 教授 栗木,恭一
内容要旨 1.序論

 レールガンは2本の電導体のレールの間に発射体と電機子をおき、レール間の電流が生じるローレンツカによって発射体と電機子を加速する装置である。過去のレールガンシステムは大容量の電源を用い、高速度を達成しようとした結果、システムが大型化し、操作性は悪くなり、実験条件を変更して実験することが困難になる傾向があった。本研究はこの点を改善したレールガンを開発し、システムパラメタと性能の基本的特性の関係を明らかにしようとした。

2.本研究のアプローチ

 まず、主要パラメタであると予想される電流波形、発射体の質量、レール厚さのレールガン性能(発射体速度、効率)への影響を実験的に調べるために新たにシステム設計を行った。電源にインダクタ可変のパルス形成回路(PFN)を用い電流波形を可変とし、レール厚さが可変の比較的小型のバレルを設計製作し、実験作業を容易にし頻度を高めた。また、実験のエネルギー規模を抑えて、安定性の高いレールガンの作動を得るとともに、新しい電圧測定法を開発し、電磁ノイズに影響されない計測を可能とした。また、数値解析により電流波形、発射体質量の影響をレールガン性能とエネルギー分配について明らかにした。

3.実験設備

 実験に使用したレールガンは長さ95cmで、ボアの断面は1cmの正方形で、2本の銅製のレールと2本のポリカーボネートの絶縁材により囲まれている。発射体は1辺1cmのポリカーボネートの立方体で、質量は1.1〜3.2gであった。レールガンは作動前に真空チャンバに接続され、発射体は真空のボア内部で加速されチャンバ内に射出される。電源には、容量6mF、最大充電電圧10kVで、最大充電エネルギー30kJのコンデンサと誘導コイルによる6段のパルス形成回路(PFN)を使用した。実験においては発射体速度、電流、マズル電圧(=電機子電圧降下)、ブリーチ電圧を計測した。

4.実験操作とデータ解析

 ブリーチ電圧と電流の積を加速時間で積分した値をレールガンに供給されたエネルギーと定義し、マズル電圧と電流の積の時間積分を電機子での熱損失と定義した。また、発射体の運動エネルギーをレールガンに供給されたエネルギーで除した値をエネルギー変換効率と定義した。

5.電流波形のレールガン性能への影響

 PFNによって3種類の電流波形を作り、電流波形の影響について実験的に調べた。実験で得られたデータから性能とエネルギー分配を求め、それらへの電流波形の影響を示した(図1)。実験では放電終了前に発射体がレールを離れるので加速距離が一定となるが、その条件下では高電流-短時間放電が低電流-長時間放電の場合に比べて発射体速度が大きくなる。またこの時、電機子損失はほぼ一定であることからエネルギー変換効率は高くなることがわかった。

図1 電流波形とエネルギー分配との関係
6.発射体質量のレールガン性能への影響

 大きさ、外形が同じで、質量の異なる3種類の発射体を使い、発射体質量の影響について調べた。電流波形の時と同様、加速距離一定の条件では、質量の小さい発射体の方が発射体速度が増加するだけでなく効率も増加することを示した。エネルギー分配の点からは発射体質量の減少に対して発射体運動エネルギーはほとんど変化せず、レールガンに供給されるエネルギーは減少していく。よって効率は増加していくことが示された(図2)。

図2 発射体質量とエネルギー分配との関係
7.レール厚さのレールガン性能への影響

 ローレンツ力を生むボア内部の磁場がレール厚さを薄くすることで強められるのではないかという観点から、7.5mm,10.0mm,12.5mm,15.0mmの4種類の厚さのレールを用いて実験を行ったが、レール厚さの影響は認められなかった。

 レールを流れる電流が表皮効果によってレールの表面全体を流れるかボアに沿って流れるかでレール厚さの影響は決定されるであろう。この点を調べるために数値解析を行った。その結果、電機子付近のレール内でボアに沿った1面のみに電流が集中するためにレール厚さの影響がでない事を裏付ける結果を得た。

8.電流波形、発射体質量の影響についての数値解析

 実験で求められたレールガン性能(速度、効率)およびエネルギー分配の特性を理論的に裏付けるために数値解析を行った。電機子とボア壁との粘性抵抗、発射体とボア壁との摩擦抵抗、アブレーションによる電機子質量の増加を考慮した計算モデルの運動方程式をルンゲクッタ法で解くことにより、発射体速度、エネルギー変換効率、エネルギーの分配を求めた。この際、加速距離は一定であるとした。

 電流波形の影響については、波形が高く短い方が発射体の運動エネルギーは大きくなり、レールガンに供給されるエネルギーが増加するが、電機子での熱損失は一定なので、結果として効率は増加することが示された。

 発射体質量の変化については、発射体質量の減少とともに発射体が加速される時間が短くなるため、レールと電機子での熱損失が減少する。一方、発射体運動エネルギーは発射体質量の変化に対し一定であるので、結果としてレールガンに供給されるエネルギーは減少し、エネルギー変換効率は発射体質量の減少とともに増加する。

 これらの結果は実験結果と一致しており数値計算モデルとして妥当であると考えられる。

9.結論

 本研究ではレールガンの性能として発射体速度、エネルギー変換効率の2つを取り上げ、電流波形、発射体質量、レール厚さの3つのシステムパラメタの影響を加速距離一定という条件下で研究した。

 この研究を実験的に行うために電流波形の変更とレール厚さの変更が可能なレールガンを開発し、取り扱いの容易性と実験頻度の高さを実現した。また、電磁ノイズを受けない電圧測定法を開発した。また、これに関連してレールガンの加速モデルにより数値解析を行った。

 電流波形については高電流-短時間放電が発射体速度、効率ともに増加させることがわかった。電機子での損失は電流波形によらずほぼ一定で、発射体の運動エネルギーが高電流-短時間放電により増加するためであることがわかった。

 発射体質量の減少によっても速度、効率は、増加することがわかった。これは発射体の運動エネルギーは発射体の質量変化によらずほぼ一定で、電機子損失が質量減少によって減少するということによることが明らかにされた。

 また、レール厚さは、表皮効果の表皮厚さより大きければ、レールガン性能を向上させるのに寄与しないことが明らかにされた。

審査要旨

 工学修士、佐藤恵一の提出した論文は、「Basic Characteristics of Railgun Performance(レールガン性能の基本的特性)」と題して英文で書かれ、本文9章と付録とからなっている。

 第1章は序論である。先ず、レールガンの構成と作動原理について、2本の電導体レール間を電気的に接続した電導体の電機子(armature)を通じて流れる電流が生じるローレンツ力で電機子とその前面においた非電導体の発射体(projectile)をレールに沿って加速すること、および電機子は通電によって加熱されて電導性のプラズマとなってレール間に放電が生じることなどが説明されている。さらにその宇宙推進や宇宙破片の模擬装置としての応用について展望し、これまでに開発されたレールガンシステムの特性を、電気エネルギー、電流、放電持続時間、加速部の長さとボア(bore:レールと側壁で囲まれた発射体の通過する通路の断面)の形状と寸法、発射体の材質と質量等についてまとめるとともに、それぞれのシステム設計の特徴、電機子およびレールに関して行なわれた研究の概要を説明し、本研究の目的と位置付けが述べられている。

 第2章は本研究の方法についての説明である。レールガンの基本的性能特性(発射体速度とエネルギー変換効率)を把握するためには、システムパラメータを変更してそれらが性能に及ぼす影響を調べることが重要であるという観点から、過去のレールガンのシステムは大型でこのような研究をするには不適当だったことを指摘し、実験研究に適したレールガンとより正確な測定装置の必要性が論じられている。その上で、本研究では性能に影響を与えるシステムパラメータとして、電流波形、発射体質量、レール厚さを選んだ理由が述べられている。

 第3章では、実験に用いられたレールガンシステムと計測装置について述べられている。レールガンの加速距離およびボアの形状と寸法は一定であるが、その他の主要パラメータは変更して実験できるシステムが考案された。発射体はポリカーボネート製で、形状については最適化が行なわれた。計測装置についても電磁的ノイズの少ない電圧測定法と計測センサの配置などに新しい工夫が加えられた。

 第4章では、実験操作の手順とデータ解析の方法が述べられている。また、性能の評価をするための熱損失の算出法とエネルギー変換効率の定義が示されている。

 第5章から第7章までの各章では、各システムパラメータの変化が発射体速度とエネルギー変換効率に及ぼす影響を示す実験データの解析結果がまとめられている。

 すなわち、第5章は、3種類の電流波形に対して実験を行ない、発射体速度とエネルギーの分配を求めた結果が述べられている。高電流-短時間放電の場合、低電流-長時間放電の場合に比べて、電機子損失はあまり変化しないが、発射体の運動エネルギーが大きくなる結果、性能が向上することが明らかにされた。

 第6章は、大きさと外形が同じで、質量の異なる3種類の発射体を使ったときの加速特性についてのまとめである。発射体の質量が小さい方が発射体速度は大きくなることは予想された通りであったが、エネルギー変換効率も増加することが明らかにされた。さらに、発射体質量の減少に対して発射体運動エネルギーはほとんど変化していないので、エネルギー分配の点から、このエネルギー変換効率の向上はレールガンに供給されるエネルギーの損失が質量が小さいほど減少しているためであると考えられる。

 第7章では、レール厚さの性能への影響について実験と数値解析を行なった結果が述べられている。4種類の厚さのレールを用いて実験が行われたが、レール厚さの影響は認められなかった。これに関して、レールを流れる電流の数値解析を行った結果、電機子付近のレール表面に電流が集中する表皮効果現象のためレール厚さの影響が出ないことが判明した。

 第8章は、実験で得られた発射体速度とエネルギー変換効率およびエネルギー分配の特性を理論的モデルと比較するために数値解析を行った結果が述べられている。すなわち、プラズマ化した電機子とボア壁との粘性抵抗、発射体とボア壁との摩擦抵抗、アブレーションによる電機子質量の増加を考慮した運動方程式をルンゲクッタ法で解くことにより発射体速度、エネルギー変換効率、エネルギーの分配を求めた。その結果、高電流-短時間放電の方が、また、発射体質量は小さい方が、それぞれ発射体速度、エネルギー変換効率ともに増加しており、実験結果と一致する傾向が得られた。

 第9章では結論がまとめられている。

 以上要するに、本論文は、宇宙推進やスペースデブリ模擬装置などに用いられるレールガンについて、電流波形、発射体質量、レール厚さが性能の基本的特性に及ぼす影響を明らかにしたもので、宇宙工学上貢献するところが大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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