工学修士、佐藤恵一の提出した論文は、「Basic Characteristics of Railgun Performance(レールガン性能の基本的特性)」と題して英文で書かれ、本文9章と付録とからなっている。 第1章は序論である。先ず、レールガンの構成と作動原理について、2本の電導体レール間を電気的に接続した電導体の電機子(armature)を通じて流れる電流が生じるローレンツ力で電機子とその前面においた非電導体の発射体(projectile)をレールに沿って加速すること、および電機子は通電によって加熱されて電導性のプラズマとなってレール間に放電が生じることなどが説明されている。さらにその宇宙推進や宇宙破片の模擬装置としての応用について展望し、これまでに開発されたレールガンシステムの特性を、電気エネルギー、電流、放電持続時間、加速部の長さとボア(bore:レールと側壁で囲まれた発射体の通過する通路の断面)の形状と寸法、発射体の材質と質量等についてまとめるとともに、それぞれのシステム設計の特徴、電機子およびレールに関して行なわれた研究の概要を説明し、本研究の目的と位置付けが述べられている。 第2章は本研究の方法についての説明である。レールガンの基本的性能特性(発射体速度とエネルギー変換効率)を把握するためには、システムパラメータを変更してそれらが性能に及ぼす影響を調べることが重要であるという観点から、過去のレールガンのシステムは大型でこのような研究をするには不適当だったことを指摘し、実験研究に適したレールガンとより正確な測定装置の必要性が論じられている。その上で、本研究では性能に影響を与えるシステムパラメータとして、電流波形、発射体質量、レール厚さを選んだ理由が述べられている。 第3章では、実験に用いられたレールガンシステムと計測装置について述べられている。レールガンの加速距離およびボアの形状と寸法は一定であるが、その他の主要パラメータは変更して実験できるシステムが考案された。発射体はポリカーボネート製で、形状については最適化が行なわれた。計測装置についても電磁的ノイズの少ない電圧測定法と計測センサの配置などに新しい工夫が加えられた。 第4章では、実験操作の手順とデータ解析の方法が述べられている。また、性能の評価をするための熱損失の算出法とエネルギー変換効率の定義が示されている。 第5章から第7章までの各章では、各システムパラメータの変化が発射体速度とエネルギー変換効率に及ぼす影響を示す実験データの解析結果がまとめられている。 すなわち、第5章は、3種類の電流波形に対して実験を行ない、発射体速度とエネルギーの分配を求めた結果が述べられている。高電流-短時間放電の場合、低電流-長時間放電の場合に比べて、電機子損失はあまり変化しないが、発射体の運動エネルギーが大きくなる結果、性能が向上することが明らかにされた。 第6章は、大きさと外形が同じで、質量の異なる3種類の発射体を使ったときの加速特性についてのまとめである。発射体の質量が小さい方が発射体速度は大きくなることは予想された通りであったが、エネルギー変換効率も増加することが明らかにされた。さらに、発射体質量の減少に対して発射体運動エネルギーはほとんど変化していないので、エネルギー分配の点から、このエネルギー変換効率の向上はレールガンに供給されるエネルギーの損失が質量が小さいほど減少しているためであると考えられる。 第7章では、レール厚さの性能への影響について実験と数値解析を行なった結果が述べられている。4種類の厚さのレールを用いて実験が行われたが、レール厚さの影響は認められなかった。これに関して、レールを流れる電流の数値解析を行った結果、電機子付近のレール表面に電流が集中する表皮効果現象のためレール厚さの影響が出ないことが判明した。 第8章は、実験で得られた発射体速度とエネルギー変換効率およびエネルギー分配の特性を理論的モデルと比較するために数値解析を行った結果が述べられている。すなわち、プラズマ化した電機子とボア壁との粘性抵抗、発射体とボア壁との摩擦抵抗、アブレーションによる電機子質量の増加を考慮した運動方程式をルンゲクッタ法で解くことにより発射体速度、エネルギー変換効率、エネルギーの分配を求めた。その結果、高電流-短時間放電の方が、また、発射体質量は小さい方が、それぞれ発射体速度、エネルギー変換効率ともに増加しており、実験結果と一致する傾向が得られた。 第9章では結論がまとめられている。 以上要するに、本論文は、宇宙推進やスペースデブリ模擬装置などに用いられるレールガンについて、電流波形、発射体質量、レール厚さが性能の基本的特性に及ぼす影響を明らかにしたもので、宇宙工学上貢献するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |