本論文は、高レベル放射性廃棄物(HLW)を深地下に処分する場合に際し、処分場の安全性と経済性にとってとくに重要な基本的パラメータについて、総合工学的観点からの解析を行ったものであり、第1章序論、第2章論文の構成、第3章人工バリアの基本仕様及びレイアウトに関する考察、第4章処分場のニアフィールドにおける力学的相互作用の考察、第5章オーバーパックの腐食に関連する問題点、第6章堆積岩及びベントナイトの粘弾塑性体としての力学的挙動とニアフィールドにおける力学的相互作用の解析手法の検討、第7章日本におけるHLW処分とくに地下研究施設の進め方に関する検討、の7章から構成されている。 第1章及び第2章においては、研究の目的と論文の構成とが、それぞれ、述べられている。 第3章では、処分場の仕様とレイアウトがHLW処分の安全性及び経済性に重要な影響を及ぼすことから、その基本となるパラメータをシステム設計工学的に設定している。日本の地質的多様性を考慮して、対象とすべき岩種を結晶質岩系と堆積岩系の2種類に分け、力学的安定性などの見地から、処分場の深度として、結晶質岩系については800m、堆積岩系については500mを、それぞれ、設定している。廃棄物の埋設方法としては、ベントナイトの施工技術などの視点から、横置き法が妥当としている。オーバーパックの厚さに関しては、腐食代、耐圧強度、放射線遮蔽の3つの観点から解析し、いずれの岩種に対しても200mm程度が適当であるとしている。次に、ベントナイトの厚さについては、廃棄物の埋設ピッチを4m、坑道間隔を20mに設定して、周辺岩壁の温度上昇による影響及び放射性物質の保持機能を解析し、700mm程度が適切であるとしている。さらに、坑道の内径について、力学的安定性と施工性の観点から検討し、円形断面を対象とした理論解を基に、2.3mが最適値であるとしている。 第4章では、岩盤の地圧による変位、及びベントナイトの膨潤とオーバーパックの腐食膨張による力学的相互作用について考察している。岩盤の地圧による変位に関しては、結晶質岩と堆積岩のそれぞれについて理論的解析を行うことにより、坑道壁面の径方向変位を、それぞれ、1.4mm、5.0mmと評価し、力学的安定性は維持できるとしている。さらに、ベントナイトとオーバーパックの相互作用に関しては、処分場閉鎖後の長期的挙動に着目して、結晶質岩系を対象に2次元解析を行っている。具体的には、(1)オーバーパックの腐食膨張に伴う変位量を求める、(2)ベントナイトの変位量に対する密度及び変形係数を求める、(3)ベントナイトの変位量より圧縮応力を算出する、(4)オーバーパックの反力による膨張変位を求める、(5)ベントナイトの平衡応力を求める、(6)同平衡応力から岩盤への応力及び変位を求める、(7)坑道壁面応力を求め、それに坑道掘削直後の壁面応力を加える、(8)さらにオーバーパック健全部の応力を求め、オーバーパックが破損するまでの時間を算出する、という方法に従っている。解析結果によれば、ベントナイトの体積膨張率が2〜3、弾性係数が2x103〜2x104kgf/cm2の範囲では、破損圧力は930〜940kgf/cm2となり、腐食速度を仮に0.1mm/yrと仮定してオーバーパック健全部の厚さを閉鎖後は100mm程度とすると、早い場合には4,000〜5,000年後に破損に到る。処分の安全性の評価では、1,000年後程度からの放射性物質の漏れを想定することが多いが、この解析結果は、そのような想定が安全評価の上からは妥当であることを示唆している。 第5章では、オーバーパックの候補材料である炭素鋼の腐食速度及び腐食生成物の性状について言及している。地下水圧下での圧縮ベントナイトを用いた既報の実験結果を解析し、水素ガス雰囲気下での腐食速度が時間とともに減少し、平均的に0.005mm/yr以下と評価し得ることを提案している。このことは、オーバーパックの寿命が、力学的特性も含めて10,000年以上になる可能性のあることを示唆している。また、微生物による大速度腐食の可能性についても検討されており、実際の環境条件如何によってその可能性を安全評価の上から排除できない場合には、炭素鋼にかわってチタン系材料を採用することを提案している。 第6章では、堆積岩系の場合の岩盤とベントナイトとの粘弾塑性体としての力学的相互作用を検討している。まず、堆積岩系については、粘弾塑性体としてのクリープ破壊を検討しておく必要のあることを指摘し、応力・変形・浸透連成解析による解法の手順を提示するとともに、その解析に必要な実験データを整備する際の留意点を整理している。さらに、この相互作用によってベントナイトの流動性が顕著になる可能性のある場合に対する対策についても具体案を例示的に示している。 第7章では、HLW処分技術開発に必要な地下研究施設について論及している。岩盤の力学特性、地下水の水質、地下の環境中での物質移動、人工バリアの特性変化などを把握するためには地下研究施設の役割が重要であることを指摘するとともに、新規施設の立地を図るばかりでなく、既存施設を有効に活用すべきであることを提案している。 以上を要するに、本論文は、HLW処分の処分場の設計にとって重要な多くの知見を得ており、システム量子工学の分野、とくにシステム設計工学の分野に寄与するところが少くないと判断される。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |