学位論文要旨



No 212813
著者(漢字) 黎,暁紅
著者(英字)
著者(カナ) リ,ギョウコウ
標題(和) ペロブスカイト型酸化物を用いるメタンの酸化カップリング反応
標題(洋)
報告番号 212813
報告番号 乙12813
学位授与日 1996.03.18
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12813号
研究科 工学系研究科
専攻 応用化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤元,薫
 東京大学 教授 北澤,宏一
 東京大学 助教授 辰巳,敬
 東京大学 助教授 水野,哲孝
 東京大学 講師 中村,育世
内容要旨

 ペロブスカイト型酸化物(ABO3)は、A或いはBサイトを部分量換したペロブスカイト型酸化物は酸素を可逆的に吸着する能力を持ち、この吸着酸素種の特性は、結晶格子に存在する酸素イオンと大きく異なる。この性質を用いることにより、酸化物上の酸素イオンの反応性をコントロールし、優れた触媒を調製することが可能であると思われる。

 SrTiO3触媒のTi4+をMg2+で置換することにより調製したSrTi1-xMgxは、Ti4+とMg2+の電荷のインバランスにより酸素イオン欠陥を有するペロブスカイト型複合酸化物が生成し、この酸化物は573K以上で、分子状酸素より吸着酸素種を生成する。そこで、この酸化物を用いるメタンの酸化カップリング反応について検討した。

 第1章は「緒言」であり、本研究の行われた背景および本研究の目的について述べると共に研究の概要を説明した。

 第2章[SrTi1-XMgX及びSr2TiO4表面酸素種の特性」では、SrTiO3のTi4+をMg2+で置換することにより、酸素イオン欠陥を有するSrTi1-XMgXを合成した。このSrTi1-XMgX触媒上には573K以上で気相酸素より吸着酸素が生成する。この吸着酸素種の昇温脱離及び同位体O18を用いてバルク酸素と触媒表面酸素の挙動を明らかにするとともに、吸着酸素種を酸化剤とするメタンの酸化カップリングを検討した。その結果、この吸着酸素は、通常の触媒反応条件よりはるかに低い温度(〜700K)において、高い選択性(>80%)でメタンを酸化して、エタンを与えることを見い出した。

 第3章「SrTi1-xMgx触媒を用いるメタンの低温反応」では、メタンの酸化能はその吸着酸素が消費された同温度で空気を用いる数分間処理することによりその酸化能が復活するという事実に基づき、これを触媒反応に発展させることを試みた。しかし、SrTi1-xMgx触媒上の酸素吸着サイトは反応で生成したH2Oにより酸素の吸着阻害を受けるため、低温での酸化カップリング反応は触媒的に進行しなかった。この吸着した水をin situで追い出して、触媒反応化を試みるため、加圧条件下において触媒反応を実施し、その触媒と格子欠陥の関係を検討した。その結果、加圧条件下、853K程度の条件で触媒的酸化反応を進行させることに成功した。

 第4章「SrTi1-XMgXを用いた高温でのメタン酸化カップリング反応」では、この置換型チタン酸ストロンチウムを触媒として873K〜1123Kにおける接触的酸化カップリング反応を行い、メタンの酸化カップリング特性と触媒構造の関係を検討した。その結果、Mg2+によるTi4+置換を行ったSrTi1-XMgX上は、SrTiO3よりはるかに高いカップリング反応活性および選択性を示すことを見い出した。この原因に関し、SrTi1-XMgX上ではSrTiO3上には存在しない高温で容易に移動、反応する酸素種が新たに生成し、この格子酸素種がメタンの酸化カップリング触媒反応に積極的に関与することを同位体交換等より明らかにした。

 第5章「Aサイトを量換したチタン酸ストロンチウム触媒を用いるメタンの酸化カップリング反応」では、SrTiO3触媒のSr2+の一部をMg2+で置換することにより調製したSr1-xMgx触媒を用いて場合、メタンの酸化カップリング反応を実施すると、その触媒活性、選択性がSrTiO3触媒より優れることが観察された。Sr2+を一部Mg2+で置換することにより結晶格子の歪みおよび結晶子径が減少し、表面積が増加することが示された。表面塩基性には変化が認められないことから、活性、選択性の向上は主にこの表面積の変化に由来するものと結論した。

 第6章「二酸化炭素を酸化剤とするメタンの酸化カップリング反応」では、SrTi0.4Mg0.6とSrTiO3を触媒としてCH4-CO2反応を行ったその結果、C2炭化水素およびCOの生成は認められたが、水素の生成はほとんど認められず、この反応が単なる脱水素カップリングではなく、CO2が酸化剤として機能していることが明らかとなった。CH4-O2反応系の場合と異なり、C2炭化水素生成の活性・選択性共に、SrTiO3の方が優れた触媒であることがわかった。SrTi0.4Mg0.6触媒に比べてSrTiO3触媒の方が塩基性が低いことがその高い触媒反応活性に反映されていると考えられた。

 第7章「水を酸化剤とするメタンの酸化カップリング反応」では水を酸化剤とするメタンの酸化カップリング反応について検討した。その結果SrTi0.4Mg0.6触媒上1123KでのCH4-H2O反応は、CH4とH2Oを同時供給した場合に、C2炭化水素生成が選択的に(C2選択率95%)進行し、副生成物としてCO2が少量生成したのに対し、H2Oの代わりにArを供給すると主生成物は、COとH2となった。この事実から、C2炭化水素生成には、H2Oの共存が必要不可欠であることがわかった。この現象は、多くの触媒において認められたが、特にMg2+またはCa2+でBサイトを一部置換したチタン酸ストロンチウムにおいて優れた結果が得られた。

 第8章「水及び酸素の共存下におけるメタンの酸化カップリング反応」では、生成物である水素の選択的除去を目的として、水を酸化剤としてメタンの酸化カップリング反応への酸素の添加効果を検討した。その結果、メタンの酸化カップリング反応において水の存在はメタンの選択的炭化水素への転換に対して活性、選択性を著しく向上させた。

 第9章「総括」は、本研究のまとめである。

審査要旨

 ペロブスカイト型酸化物(ABO3)は、A或いはBサイトを部分置換したペロブスカイト型酸化物は酸素を可逆的に吸着する能力を持ち、この吸着酸素種の特性は、結晶格子に存在する酸素イオンと大きく異なる。この性質を用いることにより、酸化物上の酸素イオンの反応性をコントロールし、優れた触媒を調製することが可能であると思われる。

 SrTiO3触媒のTi4+をMg2+で置換することにより調製したSrTi1-xMgxは、Ti4+とMg2+の電荷のインバランスにより酸素イオン欠陥を有するペロブスカイト型複合酸化物が生成し、この酸化物は573K以上で、分子状酸素より吸着酸素種を生成する。そこで、この酸化物を用いるメタンの酸化カップリング反応について検討した。

 第1章は「緒言」であり、本研究の行われた背景および本研究の目的について述べると共に研究の概要を説明した。

 第2章「SrTi1-XMgX及びSr2TiO4表面酸素種の特性」では、SrTiO3のTi4+をMg2+で置換することにより、酸素イオン欠陥を有するSrTi1-XMgXを合成した。このSrTi1-XMgX触媒上には573K以上で気相酸素より吸着酸素が生成する。この吸着酸素種の昇温脱離及び同位体O18を用いてバルク酸素と触媒表面酸素の挙動を明らかにするとともに、吸着酸素種を酸化剤とするメタンの酸化カップリングを検討した。その結果、この吸着酸素は、通常の触媒反応条件よりはるかに低い温度(〜700K)において、高い選択性(>80%)でメタンを酸化して、エタンを与えることを見い出した。

 第3章「SrTi1-XMgX触媒を用いるメタンの低温反応」では、メタンの酸化能はその吸着酸素が消費された同温度で空気を用いる数分間処理することによりその酸化能が復活するという事実に基づき、これを触媒反応に発展させることを試みた。しかし、SrTi1-XMgX触媒上の酸素吸着サイトは反応で生成したH2Oにより酸素の吸着阻害を受けるため、低温での酸化カップリング反応は触媒的に進行しなかった。この吸着した水をin situで追い出して、触媒反応化を試みるため、加圧条件下において触媒反応を実施し、その触媒と格子欠陥の関係を検討した。その結果、加圧条件下、853K程度の条件で触媒的酸化反応を進行させることに成功した。

 第4章「SrTi1-XMgXを用いた高温でのメタン酸化カップリング反応」では、この置換型チタン酸ストロンチウムを触媒として873K〜1123Kにおける接触的酸化カップリング反応を行い、メタンの酸化カップリング特性と触媒構造の関係を検討した。その結果、Mg2+によるTi4+置換を行ったSrTi1-XMgX上は、SrTiO3よりはるかに高いカップリング反応活性および選択性を示すことを見い出した。この原因に関し、SrTi1-XMgX上ではSrTiO3上には存在しない高温で容易に移動、反応する酸素種が新たに生成し、この格子酸素種がメタンの酸化カップリング触媒反応に積極的に関与することを同位体交換等より明らかにした。

 第5章「Aサイトを置換したチタン酸ストロンチウム触媒を用いるメタンの酸化カップリング反応」では、SrTiO3触媒のSr2+の一部をMg2+で置換することにより調製したSr1-xMgxTi触媒を用いて場合、メタンの酸化カップリング反応を実施すると、その触媒活性、選択性がSrTiO3触媒より優れることが観察された。Sr2+を一部Mg2+で置換することにより結晶格子の歪みおよび結晶子径が減少し、表面積が増加することが示された。表面塩基性には変化が認められないことから、活性、選択性の向上は主にこの表面積の変化に由来するものと結論した。

 第6章「二酸化炭素を酸化剤とするメタンの酸化カップリング反応」では、SrTi0.4Mg0.6とSrTiO3を触媒としてCH4-CO2反応を行ったその結果、C2炭化水素およびCOの生成は認められたが、水素の生成はほとんど認められず、この反応が単なる脱水素カップリングではなく、CO2が酸化剤として機能していることが明らかとなった。CH4-O2反応系の場合と異なり、C2炭化水素生成の活性・選択性共に、SrTiO3の方が優れた触媒であることがわかった。SrTi0.4Mg0.6触媒に比べてSrTiO3触媒の方が塩基性が低いことがその高い触媒反応活性に反映されていると考えられた。

 第7章「水を酸化剤とするメタンの酸化カップリング反応」では水を酸化剤とするメタンの酸化カップリング反応について検討した。その結果SrTi0.4Mg0.6触媒上1123KでのCH4-H2O反応は、CH4とH2Oを同時供給した場合に、C2炭化水素生成が選択的に(C2選択率95%)進行し、副生成物としてCO2が少量生成したのに対し、H2Oの代わりにArを供給すると主生成物は、COとH2となった。この事実から、C2炭化水素生成には、H2Oの共存が必要不可欠であることがわかった。この現象は、多くの触媒において認められたが、特にMg2+またはCa2+でBサイトを一部置換したチタン酸ストロンチウムにおいて優れた結果が得られた。

 第8章「水及び酸素の共存下におけるメタンの酸化カップリング反応」では、生成物である水素の選択的除去を目的として、水を酸化剤としてメタンの酸化カップリング反応への酸素の添加効果を検討した。その結果、メタンの酸化カップリング反応において水の存在はメタンの選択的炭化水素への転換に対して活性、選択性を著しく向上させた。

 第9章「総括」は、本研究のまとめである。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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