No | 212831 | |
著者(漢字) | 榊山,勉 | |
著者(英字) | Sakakiyama,Tsutomu | |
著者(カナ) | サカキヤマ,ツトム | |
標題(和) | 波と透過性防波堤との相互干渉における実験スケール効果に関する研究 | |
標題(洋) | Scale Effects in Experiments on Interaction of Waves with Permeable Breakwaters | |
報告番号 | 212831 | |
報告番号 | 乙12831 | |
学位授与日 | 1996.04.17 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第12831号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 防波堤や護岸などの海岸構造物に関わる研究は,古くから数多くの研究者により行われ,海岸工学の歴史を築いてきた.防波堤に作用する波力,消波ブロックの安定性,ならびに反射率,透過率の評価は特に重要な課題であり,これらの評価のほとんどは水理実験に依存して行われている. 防波堤に作用する設計波力は,混成防波堤を対象とする波力算定式(合田,1990)が実用に共されているが,重要な構造物に対しては水理実験により確認しているのが現状である.消波ブロックの安定性に関しては,消波ブロックの所要重量算定式として,その簡便さのために広く用いられているHudson式(Hudson,1959)の実験係数KD値と被害率との関係や新しい算定式に関する多くの実験的研究が行われてきた.防波堤の反射率,透過率に関しては防波堤・波浪条件に応じて水理実験を実施し,現地へ適用されている. 水理実験は,通常Froudeの相似則にしたがって行われる.これは,力学的な相似則において重力と慣性力の比を原型と模型値で一致させるものであるが,粘性力の影響は無視されている.混成防波堤に作用する波力の問題とは異なり,透過性構造物と波との相互干渉における現象は,粘性力に起因するエネルギー減衰,抗力の作用が支配的である場合が多く,実験模型縮尺の影響が懸念されている. 大縮尺模型を用いた実験は容易にできないために,小スケールから大スケールに及ぶ広範な条件のもとで系統立って行われた実験スケール効果に関する研究は少ない.Thomsen et al.(1972)や島田ら(1986)は,小スケールの実験では消波ブロックの安定性を過小評価することを示した.小スケールの実験が透過率を過小評価することも報告されている(例えば,Shuto and Hashimoto(1970),Wilson and Cross(1972)).しかし,このような実験スケール効果にする結果のみを示した研究はあるものの,その理論的な解明は充分行われていない. 海岸構造物に関する研究は主に水理実験に依存してはいるものの,水理実験では測定器の質的,量的な制約から測定可能な物理量の種類が限られたり空間的な現象の把握が困難な場合が多い.特に,透過性構造物による波浪変形に関しては,透過性構造物内の波動運動の測定が困難である. このため,透過性構造物と波との干渉を考慮し,時空間にわたる現象を把握できる数値計算モデルが開発されてきた.Sollitt & Cross(1972)は,単純な長方形透過性防波堤による微小振幅波の波高変化に関する解析解を導いた.また,透過性潜堤による波浪変形を予測するための数値計算手法が提案されている.泉宮・遠藤(1989),Somchaiら(1989)は微小振幅波のポテンシャル理論に基づいて緩勾配方程式を透過性構造物を含む場に拡張し,透過潜堤による波高変化を検討した.さらに,磯部ら(1991,1992)は長波近似の仮定の下での非線形波動方程式を誘導した.しかし,これらの研究は計算モデルの構築に主眼が置かれ,基礎方程式に含まれる波と構造物との相互干渉を表す抗力係数,慣性力係数に関しては,充分な議論がなされていない.したがって,波と透過性構造物との相互干渉とその実験スケール効果を考慮できる数値計算モデルの開発が必要である. 本論文では,波と透過性防波堤の相互干渉における実験スケール効果を把握し,この影響を反映できる透過性構造物による波の変形計算数値モデルを開発する.大型,小型模型を用いて広範な条件の下で実施した水理実験により現象の解明と数値計算モデルの妥当性の検証を行うとともに,数値計算モデルを用いて実験スケール効果のメカニズムを明らかにする. 本論文では,先ず透過性防波堤の水理実験におけるスケール効果を解明するために,消波ブロックに作用する波力ならびに傾斜堤の反射率について検討した. 消波ブロックに作用する波力に関しては,実験スケール効果のメカニズムについて理論的な考察を加え,水理実験によりその検証を行った.理論的な考察より,これまで消波ブロックの被害率が一定の下で定数とされていたHudson式の実験係数KD値は,慣性力が作用しない条件下では抗力係数の3乗に反比例することを導いた.このことは,抗力が卓越する場では相対的に等しい波力を与えるKD値は実験スケールにより変化することを意味する.水理実験より,消波ブロックには小スケールの実験ほど相対的に大きな波力が作用することを示した.レイノルズ数が大きくなると,消波ブロックの抗力係数は減少し,一方,慣性力係数は大きくなるが,波高が大きくなると流速の2乗に比例する抗力が卓越するを示し,消波ブロックの安定限界における波力の実験スケール効果は主として相対的な抗力の変化に起因することを明らかにした. 続いて,消波ブロック被覆傾斜堤を対象にして,大型造波水路(長さ205m,深さ6.0m,幅3.4m)を用いた大型模型を含む広範なレイノルズ数にわたって実験を行い,反射率に及ぼす実験スケール効果について考察を加えた.その結果,小スケールの実験は反射率を過小評価することが認められた.そこで,入射波,反射波のエネルギー収支から消波ブロック被覆層における波のエネルギー消滅をモデル化し,消波ブロック被覆層の抵抗係数を定義した.抵抗係数とレイノルズ数ならびにKC数との関係より,反射率に及ぼす実験スケール効果が流れの抵抗則の概念と等価であることを示した. 次に,透過性構造物による波浪変形を評価する数値計算モデルを構築した.ここでは,Navier-Stokes方程式に透過性構造物の空隙率を含めた支配方程式(Porous Body Model,Sha et al.,1978)に波浪場における流体抵抗を導入して拡張し,非砕波を対象に透過性防波堤による断面2次元波浪変形数値計算モデルを開発した.水理実験結果との検証により透過性防波堤による断面2次元波浪変形が本モデルで精度良く評価できることを示した.また,慣性力,抗力で表される流体抵抗の反射率,透過率への影響を数値計算により明らかにすることができた.さらに,非線形モデルに基づく慣性力係数や抗力係数とレイノルズ数との関係を得るとともに,線形理論に基づく慣性力係数や等価線形抵抗係数について実験結果を示し,非線形モデルとの相違を示した. 本計算モデルの実構造物への適用性を検討するために,2種類の透過性防波堤を対象に本計算モデルを適用し,水理実験により検証した.1つは消波ブロック傾斜堤であり,反射率,透過率に関する再現性を示した.また,水理実験では測定困難な傾斜堤斜面上の遡上波を数値計算により評価した.この結果を用いて,斜面上の消波ブロックに作用する波力を評価し,前述の消波ブロックに作用する波力の実験結果を再現した. 傾斜堤の他の1つは,実構造物と同じ構造でもつ消波ブロック被覆式ケーソン堤である.反射率,透過率,さらに,消波ブロックで覆われたケーソンに作用する波圧について数値計算結果を水理実験により検証した.また,大型と小型模型を用いて縮尺の異なる2種類の水理実験により,波圧,反射率と透過率に及ぼす実験スケール効果について水理実験結果を示すとともに,数値計算結果をもとにこれらに及ぼす抗力,慣性力の影響を明らかにした. さらに,本数値計算モデルが"数値波動水路"として水理実験と同程度の機能をもつことを示すために,潜堤による波の分裂現象に本数値計算モデルを適用した.ここでは,透過潜堤ならびに不透過潜堤の両者を対象に数値計算結果を示し,分裂現象に及ぼす透過性,不透過性の影響を解明した.さらに,水理実験により計算モデルの検証を行うとともに,大型,小型模型実験を実施し,潜堤の透過波の実験スケール効果について考察を加えた.種々の周期について計算を行い,水位変動ならびに流速の実験結果との比較より,精度良く計算できることが検証された.透過および不透過潜堤による波の分裂に関しては,両者に著しい差がみられなかった.これは,透過潜堤内の波動運動が小さいためであることが数値計算結果より明らかになった. 透過潜堤による透過波に及ぼす実験スケール効果は,傾斜堤ほど顕著に現れない.しかし,周期が長くなると透過性潜堤の背後への透過波高に実験スケールの影響が現れるようになる.これは,周期が長くなるにしたがって波動運動が底面に及ぶようになり,透過潜堤と波動運動との干渉が強くなるためである. 透過性防波堤と波との相互干渉における実験スケール効果に関して,抗力,慣性力の波浪変形に及ぼす影響を明らかにした.また,非砕波を対象に数値計算モデルを開発し種々の透過性構造物による波浪変形に対して水理実験結果を良好に再現できることを示した.傾斜堤や潜堤を対象に水理実験ならびに数値計算を行い検討を加えた結果,透過性防波堤の形態により波と構造物との干渉の程度が変化するために,実験スケールの影響の度合いが異なることが明らかになった.また,実験スケール効果は大型,小型模型実験により明らかにされた実験結果に基づいて抗力係数,慣性力係数によって本数値計算モデルで反映できることを示した. | |
審査要旨 | 本論文は、透過性防波堤と波の相互作用、すなわち防波堤による波の変形ならびに防波堤に及ぼす波力や消波ブロックの安定性を主体に、水理実験および数値モデルによる計算を行い、その結果に基づいて、これらの現象に対する水理模型実験におけるスケール効果を論じたものであり、6章より構成されている。 第1章「序論」では、本研究の背景として、消波ブロックの安定性や透過性防波堤に作用する波力および防波堤による波の反射率や透過率に関しては、現在でもFroudeの相似則に基づく模型実験がなされることが多いこと、ならびにそのような実験の問題点を指摘し、粘性の影響を考慮することよってその問題点すなわち模型実験のスケール効果を定量的に解明することが本研究の主目的であると述べている。 第2章は「水理実験におけるスケール効果」と題する。ここでは、小スケール・大スケールの水理実験と理論的考察により、上述のスケール効果に関して詳細に論じている。先ず消波ブロックに作用する波力に関する理論的な考察により、従来、ブロックの一定の被害率に対応して各種ブロックごとに定数とされてきたHudson公式中の実験係数KD値が、慣性力が無視できる条件では抗力係数の3乗に反比例することを導き、抗力が卓越する条件下ではKD値が実験スケールにより有意に変化することを明らかにした。その検証のために小スケール・大スケールの水理実験を行い、消波ブロックに作用する波力は小スケールの実験ほど相対的に大きくなること、レイノルズ数が大きくなると抗力係数は減少し慣性力係数が増大するが大波高の場合にはやはり抗力が卓越することを示し、理論的考察結果と同様に、消波ブロックの安定性およびそのKD値に対する実験スケール効果は主として相対的な抗力の大きさに起因することを、定量的に確認することに成功している。 次いで消波ブロック被覆傾斜堤の反射率に対する実験スケール効果について、主に実験的に検討を加えている。すなわち、小スケールの実験に加え大型造波水路を用いて広範なレイノルズ数を力ヴァーする条件下で模型実験を行って、実験結果を詳細に解析することにより、小スケールの実験では反射率が過小評価されることを見いだした。更にそれを受け、波のエネルギー収支から消波ブロック被覆層内のエネルギー減衰を算定してモデル化し、層内の抵抗係数を定義した。そしてこの抵抗係数とレイノルズ数およびKC数との関係を調べることによって、消波ブロック被覆傾斜堤の反射率に及ぼす実験スケール効果が一般の流れの抵抗則の概念によって解釈できると結論づけている。これは従来も定性的には論じられてきたことではあるが、それを定量的に明らかにしたことの意義は大きいと判定される。 第3章「数値計算モデルの開発」においては、透過性構造物による波の変形を評価するための数値モデルを新たに提案している。すなわち本研究では、Navirer-Stokesの方程式に透過性構造物の空隙率を含めた支配方程式に更に波浪場における流体抵抗を導入することにより、透過性構造物による断面2次元波浪変形数値計算モデルを開発することに成功した。そして水理実験結果との比較により、本モデルが高い精度を持つことを検証している。更に、非線形モデルに基づいて抗力係数や慣性力係数とレイノルズ数の関係を調べ、線形理論におけるそれとの相違を示している。 第4章「透過性台形防波堤への適用」では、上述の数値計算モデルの適用性を更に検討するために、2種類の透過性防波堤を対象に計算と実験との比較を行っている。先ず、消波ブロック傾斜堤について、各種波浪条件の下での反射率と透過率が計算で精度良く実験結果を再現できることを示した。また傾斜堤斜面上の遡上波を数値計算により評価し、それを用いて算定される斜面上の消波ブロックに作用する波力も、実験結果をよく再現できることを示している。次いで、実構造物と同じ構造の消波ブロック被覆式ケーソン堤を対象に、反射率と透過率ならびにケーソン本体に作用する波圧について、数値計算結果を水理実験データによって充分に検証することに成功した。更に、縮尺の異なる2種類の水理実験の結果に基づいて波圧・反射率・透過率に及ぼす実験スケール効果を定量的に明らかにするとともに、数値計算結果をもとにそれらに及ぼす抗力と慣性力の影響をも示している。 これらの結果は、透過性防波堤の設計における数値計算モデルの適用性を充分に示したものであると同時に、水理模型実験を行う際、ならびに実験で得られるデータの解釈についての指針を与えるものとして、高く評価できる。 更に、第5章「潜堤上の波浪変形」においては、この数値計算モデルを潜堤による波の変形特に波の分裂現象の解析に適用し、本モデルがいわば"数値波動水路"として水理模型実験と同等あるいはそれ以上の機能を持つことを示している。すなわち、透過潜堤ならびに不透過潜堤の両者を対象に、数値計算の結果を実験結果と詳細に比較することを通して、潜堤による波の分裂現象等が本モデルにより精度良く再現できることを検証した。加えて、大型・小型模型実験を実施して、潜堤による波の変形現象における実験スケール効果についても検討し、潜堤の場合にはスケール効果が然程顕著でないことを見いだした。 第6章「結論」では、本研究で得られた主な結論をまとめている。 以上を要するに、本論文は、透過性防波堤と波との相互作用に関し、綿密な模型実験を行うとともに、精度の高い数値計算モデルを新たに開発して、両者によって相互干渉現象における実験スケール効果を明らかにしたものであり、海岸工学上貢献するところが大きい。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/50679 |