学位論文要旨



No 212907
著者(漢字) 坂井,正康
著者(英字)
著者(カナ) サカイ,マサヤス
標題(和) 部分燃焼ガス化の最適条件に関する燃焼学的研究
標題(洋)
報告番号 212907
報告番号 乙12907
学位授与日 1996.06.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12907号
研究科 工学系研究科
専攻 航空宇宙工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 河野,通方
 東京大学 教授 荒川,義博
 東京大学 教授 平野,敏右
 東京大学 教授 松為,宏幸
 東京大学 助教授 鶴田,俊
内容要旨

 世界では年間100億トンもの化石燃料が使われ,これが酸性雨,大気CO2増加による地球温暖化,廃棄物の急増,河川汚染など様々な環境問題を引き起こしている。同時に化石燃料枯渇も着実に近づき,世界人口100億人に達する21世紀中頃には化石燃料の供給は半減することが予想される。

 本研究はこれらの問題解決の一策として,草木等のバイオマスからメタノール燃料を製造する技術の実用化を目的とした。これは恒久的燃料を確保し,大気CO2増加を防止できることを意味する。

 既に,ブラジルではサトウキビからエタノール燃料を生産し,自動車用燃料の85%を賄っている。しかし,この製法は搾汁の糖分から発酵によって生産しているので,作物が限定され,また大量に生産するには問題が多い。

 これに対し,バイオマスからH2とCOを含む合成ガスを作り,メタノールを化学的に合成する本研究の方法ではすべてのバイオマスを原料にできるので,草木が育生できる土地であれば生産が可能で,そのうえ収率も高い。

 この反応原理を化学式で示すと次のようになる。

 

 即ち,バイオマスの一部を燃焼させ,700℃以上の温度場をつくることによって,残りのバイオマスを熱分解する部分燃焼ガス化である。

 このあと次の2工程でメタノールが製造される。

 

 以上を総合すると次式のようになり,1kgのバイオマスから0.64kgのメタノールが得られ,低位発熱量基準で77%の収率となる。

 

 このプロセスのうち,(c),(d)は既在のメタノール合成技術であるから,技術課題は部分燃焼ガス化と云うことができる。

 これまでのガス化研究の大半は木材チップを原料とした固定床方式で,代表例をバッテル社の研究に見ることができる。炉底より吹き込まれた空気・水蒸気のガス化剤で1000℃のチャーの燃焼層を保持し,上層部で揮発分を乾留ガス化させている。この方法はタールの発生が多いため,ダクト閉塞が起き易く,得られるガス化ガスの熱量が低い。

 そこで、本研究では水蒸気・酸素をガス化剤とした噴流床(微粉浮遊方式)による部分燃焼ガス化に照準をおき,基礎実験からメタノール合成実証試験まで一連の研究を行った。

 酸素10%以下の水蒸気・酸素のガス化剤を用いると,温度700〜900℃領域において無色のクリーンガス化が可能であることを繊維強化プラスチック材で現象確認した上で,図1の噴流床形式電気炉の実験装置を用いて,バイオマス粉体の部分燃焼ガス化の最適条件を探った。バイオマス試料は汎用材としての故紙,牧草種で成長が速いスィートソルガム,高生産が期待される約100の微細藻スピルリナの3種を用い,前2者は2mm以下に微粉砕した。

図1 部分燃焼ガス化実験装置

 実験条件はバイオマス(CH2O)の[C]モルに対するガス化剤の[O2]/[C]モル比,[H2O]/[C]モル比および反応管内温度を変化させた。スィートソルガムの実験結果を図2に示す。図2の結果に示されるように部分燃焼ガス化ガスはタールを含まないクリーンで,かつCOとH2を多く含む高熱量のメタノール合成に有効な生成ガスであることが確かめられた。ただし,700℃以下では反応速度が遅くガス化率が低くなった。また,逆に900℃以上の故紙,スピルリナの実験ではタール・すすの発生が見られた。そこで,スィートソルガム試料による800℃での実験を行い,[O2]/[C]と[H2O]/[C]の平面におけるクリーンガス化域を求めた。結果を図3に示す。[H2O]/[C]が2以下および[O2]/[C]が0.25以下でタール・すすの発生が起きた。ただし,スピルリナ実験では[O2]/[C]=0.16〜0.2までタール・すすの発生はなかった。[O2]/[C]を下げることによって,生成ガス熱量が上り,メタノール収率を上げることができるが,このためにはガス化剤の予熱,ガス化炉壁の耐火断熱等が重要であることが判った。

図2 スイートソルガムの部分燃焼ガス化ガス組成図3 スイートソルガムのクリーンガス化域

 このような低温度・低酸素濃度の部分燃焼ガス化を噴流床方式のガス化炉で成立させるためには,原料を必要な微粉度にしてガス化反応をガス化炉内で終えさせて発熱させ,温度保持を図ることが必須条件となる。いま,木粉についての実験値を基に,原料粉粒径とガス化時間t,終末速度Vtから,ガス化炉高さHfを求めると図4が得られた。

図4 木粉粒径と必要ガス化炉高さの相関

 以上の実験および理論検討から,バイオマスの部分燃焼ガス化による合成ガス製法条件について次の結論を得た。

 (1)ガス化炉:噴流床(微粉浮遊)方式,断熱耐火材内張

 (2)ガス化温度:700〜900℃の範囲が適性

 (3)ガス化剤:水蒸気・酸素とし,[O2]/[C]=0.2〜0.3,[H2O]/[C]=4〜5このときのO2濃度4〜7%

 (4)ガス化剤予熱:排熱を利用して予熱温度を上げ[O2]/[C]を下げることによってメタノール収率が上げられる

 (5)原料微粉度:図4を用い,ガス火炉高さに応じて微粉度を決定する。

 本研究ではバイオマス5kg/h規模の実験装置により,故紙,スィートソルガム,スピルリナのバイオマスからメタノールを合成し,本研究の成果を実証した。メタノール収率は低位発熱量基準で62%が期待できる。

審査要旨

 工学士坂井正康提出の論文は、「部分燃焼ガス化の最適条件に関する燃焼学的研究」と題し、6章から成っている。

 世界では年間100億トンの化石燃料が使われ,これが酸性雨,大気中CO2増加による地球温暖化,廃棄物の急増,河川汚染など様々な環境問題を引き起こしている。同時に化石燃料枯渇も着実に近づき,世界人口100億人に達する21世紀中頃には化石燃料の供給は半減することが予想される。これらの問題解決の一策として,草木等のバイオマスから製造する燃料が注目されている。この方法によれば本質的に、恒久的燃料を確保し,大気中のCO2増加を防止できる。例をあげると、ブラジルにおいてはサトウキビからエタノール燃料を生産し,自動車用燃料の85%を賄っている。しかし,この製法は搾汁の糖分を発酵によって変換して燃料としているので,作物が限定され,また大量に生産するには収率が低いこと、時間がかかることなど問題が多い。これに対し、本研究で提案している方法は、バイオマスからH2とCOを含む合成ガスを作り、そのガスからメタノールを化学的に合成する方法であり、ほとんどすべての草木等を原科にできるので,草木が育成できる地域であれば生産が可能で,そのうえ収率も高い。

 第1章は序論であり、本研究の背景を述べ、関連する研究の成果とその問題点を検討し、研究の目的と意義を明確にしている。その結果、以下の反応による方法が有効であることを示している。

 まず、バイオマスを部分的に燃焼し700℃以上の温度場を形成し((a))、残りのバイオマスを熱分解する((b))。

 212907f04.gif

 その後、つぎの触媒反応によってメタノールを生成する。

 212907f05.gif

 以上を総合すると次式のようになり,1kgのバイオマスから0.64kgのメタノールが得られ,低位発熱量基準で77%の収率となる。

 212907f06.gif

 このプロセスのうち,(c)、(d)は従来のメタノール合成技術であるから,本研究における技術課題は(a)、(b)の部分燃焼ガス化であることを示している。

 第2章においては、バイオマスを石英管中に充填し、管中に水蒸気・酸素(以下ガス化剤)を流しながら外部から加熱することにより部分燃焼ガス化の現象観察を行っている。その結果、管中の温度が700〜1000℃、酸素濃度が5〜10%の条件において、タールやすすを含まない混合ガスが得られることを示している。

 第3章においては、部分燃焼ガス化によって得られる混合ガスの成分割合が(c)、(d)式で示される割合、すなわちメタノール合成反応に対する最適な成分濃度が得られる条件、および(a)、(b)総合の反応速度について実験的な考察を行っている。その結果、ガス化剤の速度および各成分比、バイオマスの微粉粒径および密度、ガス化反応管の容積および管長、反応管温度、などの影響について調べ、最適混合ガスが得られる条件を求めている。

 第4章においては、第3章において得られた実験結果を反応モデルを用いて理論的に考察し、各パラメータの影響をより一般的なものに敷衍化している。

 第5章においては、第3章で得られるような混合ガスからメタノール燃料が最適に得られるかどうかについて、ベンチスケールのプロセス実験装置を用いて確認している。その結果、低位発熱量基準で62%の収率が得られ実用化が十分期待できるとしている。

 第6章は結論であり、本研究で得られた結果を要約している。

 以上要するに、本論文は、バイオマスを高収率でメタノール燃料に変換することに関して、部分ガス化燃焼方式を提案し、その最適条件を明らかにして実用化の目途をつけたものであり、燃焼学上およびエネルギー変換工学上貢献するところが大きい。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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