学位論文要旨



No 212912
著者(漢字) 佐山,恭正
著者(英字)
著者(カナ) サヤマ,ヤスマサ
標題(和) 非鉄金属製錬における工程管理分析の迅速化及び高度化に関する研究
標題(洋)
報告番号 212912
報告番号 乙12912
学位授与日 1996.06.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12912号
研究科 工学系研究科
専攻 応用化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 澤田,嗣郎
 東京大学 教授 合志,陽一
 東京大学 教授 二瓶,好正
 東京大学 助教授 樋口,精一郎
 東京大学 助教授 北森,武彦
内容要旨

 非鉄金属は、古来より高強度化材や構造材として、様々に利用されているが、銅、鉛、亜鉛などのいわゆるベースメタルにおいても、高純度化によって新たに機能性素材としての利用が展開されつつあり、微量分析による高度な各製錬工程及び製品の管理が重要となっている。また、非鉄金属製錬を取りまく経済環境は、昨今の円高等によって、一層厳しさを増し、各製錬所は生産性の向上、合理化、省力化に鋭意取り組んでおり、分析部門においても分析要求が難度化・高度化する中で、分析コストの低減、省力化を求められると言う厳しい状況にある。

 このような状況を踏まえ、本論文は、新しい分析手段を積極的に導入し、これらをシステム化あるいは自動化することによって、工程及び製品管理分析の迅速化と高度化を図った研究をまとめたものである。

 著者の論文の概要を述べれば、以下のごとくである。

 第1章は、緒言であって、非鉄金属製錬における微量化学分析技術の変遷と微量成分分析による工程管理や製品管理の重要性及び本研究の概要を述べた。

 第2章は、高速液体クロマトグラフィー/ICP発光分析法による銅電解液中のアンチモン(III,V)の分別定量について述べた。スライムの生成や不動態化現象等の要因となる銅電解液中のアンチモンの化学形態や濃度を迅速かつ正確に把握するため、高速液体クロマトグラフィーを利用して、Sb(III)とSb(V)を分離し、流出液を直接ICP発光分析装置に導入する分析システムを構築した。分析精度は、Sb(III)及びSb(V)各々3.6%及び2.3%(RSD,各0.1g/l)であった。従来、数時間を要していた分析を、50lという極微少量の試料によって、約15分で分析可能とした結果、多くのデータの蓄積を可能とし、工程解析及び安定操業に寄与した。

 第3章は、ダイオードアレー検出器を用いた微分分光光度法による精製工程液中の希土類元素の分別定量について述べた。希土類精製工程液の迅速で高精度な管理分析法を確立するため、広い波長領域を同時に測定可能なダイオードアレイ検出器を利用して、微分分光法による各希土類元素共存時の同時定量法を検討した。塩酸溶液における各希土類元素の特性吸収スペクトルを測定し、この一次微分スペクトルから等吸収点法と二波長分光法を組み合わせて各希土類元素濃度を算出した。分析精度(RSD)は、いずれの元素も3%以下であった。本法によれば、特別な分離操作を行わずに分離精製工程液中の希土類6元素(Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy)を従来のICP発光分析法に比べ、約1/3の時間で迅速かつ高精度に同時定量可能である。

 第4章は、フローインジェクション分析法を利用する亜鉛浄液工程液中の銅及びカドミウムの吸光光度定量とその自動化について述べた。浄液工程における銅及びカドミウムの工程管理分析は滴定法、ポーラログラフ法などの手分析によって行われていた。工程管理分析を迅速化及び高度化するために、吸光光度法を検出法とするフローインジェクション分析法(以下FIA法)を利用して自動分析化することを試みた。数百ppmレベルの銅の定量には、非分散ゾーンにおける銅(II)の水和イオンの吸光度を測定するシステム、また、0.1から1000ppmの広範囲にわたって定量する必要のあるカドミウムには、陰イオン交換分離-カジオン吸光光度法によるシステムを構築した。なお、高濃度カドミウムは、試料注入体積をコンピュータによって正確に制御し、同一のシステムを利用して定量することに成功した。分析精度(RSD)は、いずれのシステムにおいても5%以下であり、分析速度は6〜10試料/時間である。

 第5章は、フローインジェクション分析法を利用する亜鉛電解工程液中の微量コバルト及び銅のオンライン定量について述べた。適格な分析法がなく、客観的なデータによる管理が行われていなかった電解液中の0.1ppmレベルのコバルト及び銅の定量に対して吸光光度法を検出法とするFIAシステムを各々構築した。システムの変動補正及び洗浄機構を考案し、コンピュータ制御による自動分析装置の作製に成功した。コバルトの分析精度(RSD)及び分析速度は、発色試薬としてニトロソR塩を用いたシステムでは、各々8%以下及び6試料/時間、5-Br-PSAAを用いたシステムでは、各々5%以下及び10試料/時間である。また、バソクプロイン酸ナトリウムを発色試薬とする銅の分析システムの分析精度及び速度は、各々2%以下及び50試料/時間である。前章の分析システムを含め、総合的な全自動工程管理システムを確立した結果、迅速・高感度・高精度なオンライン分析によって、生産性の向上と共に分析員4名の削減が可能となり、大幅なコストダウンを達成した。

 第6章は、超音波ネブライザー導入/ICP発光分析法による銅地金中の微量不純物の定量について述べた。銅地金の製品管理分析を迅速化するため、超音波ネブライザー導入によるICP発光分析装置の高感度化及び内部標準法の適用による高精度化を検討した。通常のICP発光分析法に比べ感度が一桁向上し、GF-AASと同程度の感度と精度で、0.1ppmレベルの不純物6元素(As,Bi,Pb,Se,Sn,Te)の簡便な定量に成功した。測定時間は、従来法に比べ約1/6に短縮され、迅速化が達成された。また、微量硫黄の定量に、銅を硝酸溶液から電解脱銅した後、超音波ネブライザー導入/ICP発光分析法を適用して、標準試料を必要としない硫黄の高感度な定量(定量下限0.5g/g)に成功した。原理の異なる分析法の確立によって、微量硫黄の製品管理分析に対する現行法(燃焼-赤外線吸収法)の適用性、信頼性の評価に貢献した。

 第7章は、オンラインマトリックス分離/ICP-質量分析法による超高純度亜鉛の分析について述べた。超高純度亜鉛の分析に高感度な誘導結合プラズマ-質量分析法(ICP-MS)を適用するため、塩酸系でのNi,Co,Cu,Th,U及びヨウ化カリウム系でのCd,Biのイオン交換分離法を各々確立した。更に、分離操作における汚染などの問題を解決するため、フローインジェクション(FI)を利用し、ミニカラムによってオンラインでマトリックスを分離後、流出液を直接ICP-MSに導入するFI/ICP-MSシステムを構築した。試料溶解操作以降の全操作を密閉系で自動化することによって、分析時間の短縮(約1/4)、空試験値の低減(1桁以上)を達成し、7〜8Nグレードの超高純度亜鉛中の不純物7元素の迅速かつ高精度な定量に成功した。

 第8章は、結言であって、本研究で得られた成果を具体的に述べ研究の総括を行うと共に今後の展望を述べた。

審査要旨

 非鉄金属は、古来より高強度化材や構造材として、様々に利用されているが、銅、鉛、亜鉛などのいわゆるベースメタルにおいても、高純度化によって新たに機能性素材としての利用が展開されつつあり、微量分析による高度な各製錬工程及び製品の管理が重要となっている。また、非鉄金属製錬を取りまく経済環境は、昨今の円高等によって、一層厳しさを増し、各製錬所は生産性の向上、合理化、省力化に鋭意取り組んでおり、分析部門においても分析要求が難度化・高度化する中で、分析コストの低減、省力化を求められると言う厳しい状況にある。

 このような状況を踏まえ、本論文は、新しい分析手段を積極的に導入し、これらをシステム化あるいは自動化することによって、工程及び製品管理分析の迅速化と高度化を図った研究をまとめたものである。

 著者の論文の概要を述べれば、以下のごとくである。

 第1章は、緒言であって、非鉄金属製錬における微量化学分析技術の変遷と微量成分分析による工程管理や製品管理の重要性及び本研究の概要を述べた。

 第2章は、高速液体クロマトグラフィー/ICP発光分析法による銅電解液中のアンチモン(III,V)の分別定量について述べた。スライムの生成や不動態化現象等の要因となる銅電解液中のアンチモンの化学形態や濃度を迅速かつ正確に把握するため、高速液体クロマトグラフィーを利用して、Sb(III)とSb(V)を分離し、流出液を直接ICP発光分析装置に導入する分析システムを構築した。分析精度は、Sb(III)及びSb(V)各々3.6%及び2.3%(RSD,各0.1g/l)であった。従来、数時間を要していた分析を、50lという極微少量の試料によって、約15分で分析可能とした桔果、多くのデータの蓄積を可能とし、工程解析及び安定操業に寄与した。

 第3章は、ダイオードアレー検出器を用いた微分分光光度法による精製工程液中の希土類元素の分別定量について述べた。希土類精製工程液の迅速で高精度な管理分析法を確立するため、広い波長領域を同時に測定可能なダイオードアレイ検出器を利用して、微分分光法による各希土類元素共存時の同時定量法を検討した。塩酸溶液における各希土類元素の特性吸収スペクトルを測定し、この一次微分スペクトルから等吸収点法と二波長分光法を組み合わせて各希土類元素濃度を算出した。分析精度(RSD)は、いずれの元素も3%以下であった。本法によれば、特別な分離操作を行わずに分離精製工程液中の希土類6元素(Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy)を従来のICP発光分析法に比べ、約1/3の時間で迅速かつ高精度に同時定量可能である。

 第4章は、フローインジェクション分析法を利用する亜鉛浄液工程液中の銅及びカドミウムの吸光光度定量とその自動化について述べた。浄液工程における銅及びカドミウムの工程管理分析は滴定法、ポーラログラフ法などの手分析によって行われていた。工程管理分析を迅速化及び高度化するために、吸光光度法を検出法とするフローインジェクション分析法(以下FIA法)を利用して自動分析化することを試みた。数百ppmレベルの銅の定量には、非分散ゾーンにおける銅(II)の水和イオンの吸光度を測定するシステム、また、0.1から1000ppmの広範囲にわたって定量する必要のあるカドミウムには、陰イオン交換分離-カジオン吸光光度法によるシステムを構築した。なお、高濃度カドミウムは、試料注入体積をコンピュータによって正確に制御し、同一のシステムを利用して定量することに成功した。分析精度(RSD)は、いずれのシステムにおいても5%以下であり、分析速度は6〜10試料/時間である。

 第5章は、フローインジェクション分析法を利用する亜鉛電解工程液中の微量コバルト及び銅のオンライン定量について述べた。適格な分析法がなく、客観的なデータによる管理が行われていなかった電解液中の0.1ppmレベルのコバルト及び銅の定量に対して吸光光度法を検出法とするFIAシステムを各々構築した。システムの変動補正及び洗浄機構を考案し、コンピュータ制御による自動分析装置の作製に成功した。コバルトの分析精度(RSD)及び分析速度は、発色試薬としてニトロソR塩を用いたシステムでは、各々8%以下及び6試料/時間、5-Br-PSAAを用いたシステムでは、各々5%以下及び10試料/時間である。また、バソクプロイン酸ナトリウムを発色試薬とする銅の分析システムの分析精度及び速度は、各々2%以下及び50試料/時間である。前章の分析システムを含め、総合的な全自動工程管理システムを確立した結果、迅速・高感度・高精度なオンライン分析によって、生産性の向上と共に分析員4名の削減が可能となり、大幅なコストダウンを達成した。

 第6章は、超音波ネブライザー導入/ICP発光分析法による銅地金中の微量不純物の定量について述べた。銅地金の製品管理分析を迅速化するため、超音波ネブライザー導入によるICP発光分析装置の高感度化及び内部標準法の適用による高精度化を検討した。通常のICP発光分析法に比べ感度が一桁向上し、GF-AASと同程度の感度と精度で、0.1ppmレベルの不純物6元素(As,Bi,Pb,Se,Sn,Te)の簡便な定量に成功した。測定時間は、従来法に比べ約1/6に短縮され、迅速化が達成された。また、微量硫黄の定量に、銅を硝酸溶液から電解脱銅した後、超音波ネブライザー導入/ICP発光分析法を適用して、標準試料を必要としない硫黄の高感度な定量(定量下限0.5g/g)に成功した。原理の異なる分析法の確立によって、微量硫黄の製品管理分析に対する現行法(燃焼-赤外線吸収法)の適用性、信頼性の評価に貢献した。

 第7章は、オンラインマトリックス分離/ICP-質量分析法による超高純度亜鉛の分析について述べた。超高純度亜鉛の分析に高感度な誘導結合プラズマ-質量分析法(ICP-MS)を適用するため、塩酸系でのNi,Co,Cu,Th,U及びヨウ化カリウム系でのCd,Biのイオン交換分離法を各々確立した。更に、分離操作における汚染などの問題を解決するため、フローインジェクション(FI)を利用し、ミニカラムによってオンラインでマトリックスを分離後、流出液を直接ICP-MSに導入するFI/ICP-MSシステムを構築した。試料溶解操作以降の全操作を密閉系で自動化することによって、分析時間の短縮(約1/4)、空試験値の低減(1桁以上)を達成し、7〜8Nグレードの超高純度亜鉛中の不純物7元素の迅速かつ高精度な定量に成功した。

 第8章は、結言であって、本研究で得られた成果を具体的に述べ研究の総括を行うと共に今後の展望を述べた。

 以上、本研究は非鉄精錬工場に於ける工程管理分析に大いに役立っており、またその成果は工学的にも価値のあるものと判断され、博士(工学)に値する。

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