本研究は、in vitroで免疫賦活作用はあるが、毒性が強く作用時間の短いサイトカイン(IL1 ,TNF )を有効にリポソームに封入することで、担癌動物における抗腫瘍効果が得られるかどうかをみたものであり、下記の結果を得ている。 1.ロータリーエヴァポレート法によるPC/PS(7:3)リポソーム合成時、IL1の溶媒として2-8mMのCaCl2を用いると、2価のカチオンを含まぬ緩衝液を用いた時と比べて、IL1のリポソームへの取り込み率が上昇していることが125I標識IL1を用いた実験結果で示され、また生物活性の高いIL1リポソームが得られることがD10ヘルパーT細胞増殖刺激試験で示された。 2.同様にカルシウムイオンの存在は、TNFに関してもリポソームへの取り込み率、L929線維芽細胞の融解活性の上昇に貢献したことが示された。カルシウムイオンは従来脂質二重膜の相分離を招くためリポソームの不安定性の原因になるとされていたが、上記至適カルシウム濃度と負の電荷を帯びた脂質PSのモル比から、Ca++/PSの相互作用でサイトカインの取り込み率が上昇したことが示唆された。 3.また上記の合成条件で、同一リポソームにIL1とTNFをそれぞれの単位脂質あたりの活性を落とさずに同時に取り込ませることができたことも示された。 4.IL1,TNFに直接には感受性の無いB16F10悪性黒色腫細胞を尾静脈から注入し肺転移をおこしたC57BL/6マウスに対して、免疫系を介した間接的な抗腫瘍効果の有無を観察した。生存日数を比較する試験では、IL1(50U)とTNF(80U)を同時に取り込んだリポソームを静注した群が、IL1あるいはTNFを単独で取り込んだリポソームを投与した群、生理食塩水投与群と比べ、有意に長期生存を示した。 5.肺転移数比較試験では、50,000個以上の腫瘍細胞の接種は、肺表面の転移巣を100個以上にし、実験結果の正しい評価に適さなかったが、20,000-30,000個の腫瘍細胞で転移を成立させたマウスで、IL1とTNFを同時に結合したリポソームを静注した群が、コントロール群と比し有意に転移数を減少させていたことが示された。 以上、本論文は、従来有効に生物活性の得られなかったサイトカインリポソームの合成段階での常識を破り、膜の不安定性を招くとされていたカルシウムイオンをあえて存在させることで、より高い生物活性のリポソームが得られることを示した。 また、担癌動物への応用では、今まで報告のあった有効量を下回る少量で抗腫瘍効果を得ることを示した。 サイトカインの臨床応用への一つの手段として、効果持続、毒性減弱を期待してのリポソームの利用は大きな意義があると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |