工学修士三次仁提出の論文は「ケーブル構造の数値解析に関する研究」と題し、6章よりなっている。 衛星搭載大型アンテナ反射鏡の構造として、ケーブルを結合金具でネットワーク状に構成した構造を用いて金属メッシュ膜を所望の曲面に成形したメッシュアンテナと呼ばれる構造が有望である。高い鏡面精度を有するメッシュアンテナ実現の為には、こうしたケーブル構造の効率的な解析法が必要となる。ところがケーブル構造を高精度に解析するためには、プーリーを通過するケーブルを含めた大変形解析を行う必要があること、結合金具の有限回転を考慮する必要があること、元来ケーブル構造の剛性行列が特異となりやすいことなどの問題を解決する必要があり、現実的なケーブル構造の解析法は従来、存在しなかった。 そこで本研究は結合金具を有限回転を生じる剛体とし、ケーブルが結合金具上に定義した点に結合され、あるいはこれを通過するとみなすケーブル構造の大変形解析および、剛性行列が特異となる場合に従来の一般化逆行列による解に特異行列のヌル・スペースを適切に加えて、確実に解を得る手法を提案している。更に提案した手法を、メッシュアンテナ構造開発に適用することによってその有効性を示している。 第1章は序論であり、ケーブル構造の宇宙用展開アンテナへの具体的適用例を挙げて高精度解析の必要性を述べるとともに、従来のケーブル構造解析法を概観して、その問題点と、現実の問題に適用可能な高精度解析法を開発するという本論文の目的を述べている。 第2章は、オイラーパラメタを用いた有限回転の表記および回転に関する仮想変位について復習するとともに、回転角度増分からオイラーパラメタの増分を求める線形式を導出し、従来法との比較によって提案する手法の優位性を示している。 第3章では、結合金具を有限回転を生じる剛体とし、ケーブルが結合金具上に定義した点に結合され、あるいはこれを通過するとみなすことによって、大変形を生じるケーブル要素の歪みエネルギーを求めている。この歪みエネルギーの変分より、結合金具の仮想変位に対する仮想仕事を導出し、その微小変化により要素剛性行列を導出している。導出された要素剛性行列は一般に非対称となるが、釣合方程式が満足された状態での全体剛性行列は対称となることを理論的に示すとともに、実用的には要素剛性行列を対称化して扱っても差し支えないことも述べている。 第4章では、ケーブル構造の解析において特異行列が生じやすい理由が、ケーブル軸に直交する方向の剛性がケーブル張力に依存していることにあることを解析的に明らかにし、特異行列に対して従来よく用いられている一般化逆行列法では特異行列のヌル・スペース成分が欠如するため適用できない問題が存在することを明らかにしている。続いて、特異行列を有する線形方程式を数学的に等価なポテンシャル最大値問題に置き換え、一般化逆行列が与える解よりもこのポテンシャルが大きくなるように、特異剛性行列のヌル・スペースの係数を決定して解に含める手法を新たに導出し、その有効性を確認している。 第5章では、提案する解析法をメッシュアンテナ開発に適用することによって、ケーブルの製造時の長さ誤差に対して鏡面精度が劣化しにくいメッシュアンテナ構成法および製造後の鏡面精度調整法を明らかにするとともに、プーリーを用いることによってアンテナ展開を容易にできること、金属メッシュ膜面を構造的に等価なケーブル構造に置き換えることによって、メッシュ膜面とケーブルの張力の干渉による変形を予測できることなどを示し、提案した解析法の有用性を示している。 第6章は結論であり、本研究で得られた成果を要約している。 以上、要するに、本論文はケーブル構造の新しい解析法を導き、現実の衛星搭載用展開メッシュアンテナに適用してその有効性を示したもので、宇宙構造工学上、貢献するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる。 |