本研究の目的は石炭及び天然ガスから製造した合成ガスを用いる石油系燃料代用品(ジメチルエテール又はガソリン)の合成に関する基礎研究である。 第1章は緒言であり、本研究の背景を述べている。即ち、石炭と天然ガスは化石エネルギー源として巨大的な埋蔵量があるが、自然的な存在形式は固体と気体であり、石油よりその取り扱いが不便であり、特に石炭使用の場合にはその直接燃焼に伴う環境面の問題が深刻である。21世紀においては石油の供給が不安定になることに対して石炭と天然ガスから液体燃料の合成に関してその基本理論と特徴について述べた。 第2章は「合成ガスからのジメチルエーテル(DME)気相合成」であり、DMEはLPGと非常に近い物理性質を持つ化学品であり、LPG代用品として注目されている。特に液化し易いため合成ガスより貯蔵性及び運搬性が優れており、家庭燃料やスモークレスな自動車燃料として将来性が期待されている。本研究は合成ガスからのDME合成について熱力学解析及び実研究を行い、触媒の調製と修飾、最適反応条件に関して検討した。その結果、市販のメタンノール合成触媒とアルミナの物理混合触媒が担持触媒または担持貴金属触媒とアルミナの物理混合触媒より反応性が高く、高選択的にDMEを与えること明らかにした。 第3章は「COリッチ合成ガスからのスラリー相DME合成」であり、スラリー相におけるDME合成は気相反応より多くの利点を持つ。即ち、石炭ガス化及び天然ガスリーフォミングにより製造したCOリッチ合成ガス(CO/H2≧1)を組成の調整なしで直接に反応に使え、またonce-through転化率が気相反応より高く、反応温度の制御は容易で過熱による触媒失活を避けることができる。本研究は気相反応の結果に基づき、複合触媒(Cu-Zn-Alと-アルミナの物理混合)を用いて、高圧autoclave反応器におけるCOリッチー合成ガスからのDME合成に関する研究を行った。スラリー相反応で反応速度が気相反応より少し低く、特にCOシフト反応は不十分であった。この原因はスラリー相DME合成における水蒸気の物質移動に大きな違いが存在するためであることを明らかにした。これに基づいてスラリー相反応に適したメタノール脱水能と水性ガスシフト能の両性能をもつbifunctional触媒を開発した。その結果、新触媒は反応速度、DME收率及びCOシフト活性がともに促進された。スラリー相メタノール合成においてはCu-Zn系メタノール合成触媒が副生成物のCO2と水の共存によりプロモータのZnOがCO2と水反応し、溶解度が高いZn(CO3)2を生成し、触媒中より抜け出るためその活性を失うことが知られている。本研究で開発したbifunctional触媒を用いると生成した水がCOシフト反応によりCO2と水素に転化されるため、メタノール触媒は水と隔絶され、CO2と水共存による失活を防止し得ることが明らかとなり、700時間の連続実験を活性の変化なく実施し得た。 第4章は「合成ガスからの液体炭化水素合成用Co/SiO2触媒及び修飾Co/SiO2に関する研究」であり、Fischer-Tropsch(F-T)反応は合成ガスからの液体炭化水素合成反応において最も有望な反応である。シリカ担持コバルト触媒はこの反応に対して活性が高く、ガソリン成分の選択率も高い。しかし、この触媒は高温でメタンの生成量が多く、改善の余地が大きい。 本研究では種々な金属と金属の酸化物を用いて、シリカ担持コバルト触媒を修飾した。La2O3の添加は触媒活性を高め、メタン生成を抑制した。Laの添加方法と添加量は触媒の活性に著しく影響した。Laの修飾機構を解明するために、FT-IR、XRD、TEMを利用してCo-La/SiO2触媒のCharacterizationを行った。その結果、Co-La/SiO2触媒では金属の凝集状態がCo/SiO2と異なり、その為COの吸着状態がより解離的であり、その結果、触媒の活性が高く、炭素-炭素結合の生成に有利となっていることが明らかとなった。 第5章は「スラリー相におけるFischer-Tropsch反応の化学反応工学に関する研究」であり、スラリー相F-T合成は気相反応より多くの利点を持ち、注目されているが、反応後には微粉状態の触媒と反応溶媒及び生成したワックスの分離が困難である。また多孔質触媒を用いる場合は触媒の粒子が大きくなると、触媒細孔内の拡散が反応速度を制約している可能性がある。本章では前章に述べたCo-La/SiO2触媒を用いるF-T反応について、スラリー反応における触媒の粒子径と細孔径が反応速度及び見かけ活性化エネルギーに対する影響を実験的、又は理論的に検討した。 反応実験は細孔径の異なる(non-pore,1.8nm、3.8nm、8.6nm)四種類のシリカゲルを用いて粒子径の異なる(0.02,0.1,1.0mm)担持コバルト触媒を調製し、実施した。その結果、触媒の粒子が0.1mm以下或いは細孔の直径が8.6nm以上の場合は触媒の有効係数は十分に大きく触媒細孔内における拡散の影響は無視することができることが明らかとなった。 また、理論解析のために、細孔内の拡散-反応モデルを利用し、simulationを行った結果と実験値が良く適合することを明らかにした。更に、多くのsimulationと計算の結果はスラリー相F-T合成においては担持コバルト触媒の粒子が0.1mm以下で細孔直径が7.0nm以上になると触媒の有効係数が十分に大きくて、細孔内の拡散影響を無視することができることを明らかにした。 第6章は本研究のまとめである。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |