本研究は、骨粗鬆症の病態の根幹をなす骨量減少におよぼす人種差の因子ならびに環境因子の影響を検討するために日本人女性とブラジル人女性、さらにブラジル在住日本人の骨量を全身ならびに、身体の各所について比較した。また、退行期骨粗鬆症に対する危険因子として最も重要なものの一つに数えられているカルシウム摂取不足につき、牛乳摂取量と身体の各所の骨量との比較をすることによって検討した。以下に結果を示す。 1.dual energy X-ray absorptiometry (DEXA)を用いた全身の骨量測定をブラジル人女性1176名、日本人女性1690名について、腰椎の骨量測定をそれぞれ3876人、3370人、大腿骨頚部の骨量測定をそれぞれ4467名、1141名について行った。それぞれのpopulationについて加齢にともなう各部位の骨量の推移を検討した。その結果、日本人女性においては、全身、下肢、脊椎は20歳台、大腿骨頚部とWard三角は30歳台、転子部と頭蓋は40歳台で骨密度の最大値が得られた。一方、ブラジル人女性では全身、頭蓋、下肢、大腿骨頚部、Ward三角では20歳台、脊椎は30歳台で最大骨密度が得られた。各部位の骨密度絶対値はブラジル人女性のほうが日本人女性よりも大きな値をしめした。一方、これらの骨密度を身長と体重で補正すると、頭蓋骨以外の部位については有意差がなくなった。しかしながら頭蓋骨の差は補正後も保たれた。 2.235人のブラジル人女性を牛乳摂取状況によって3群に分類した。第1群は牛乳を摂取しない群(n=63、55.0±13.3歳)、第2群は一日一杯のむ者(n=33、61.2±13.4歳)、第3群は一日一杯のむ者(n=134、59.3±10.6歳)である。すべての対象者につきdual energy X-ray absorptiometry(DXA)にて全身ならびに身体各所の骨量を測定し、群間で比較した。なお測定値は体重と年令で較正したのちに比較した。 その結果第1群と第3群の間で有意な差が認められた。その中で頭蓋骨の骨密度差がきわだっておおきなものであった(第1群<第3群)。さらにこれらの群間で骨折の発生率にも有意差が認められた(第1群>第3群)。また多変量解析により、骨量に及ぼす影響につき、牛乳の摂取量と体重の間に有意な相関が得られた。以上のことより、牛乳の摂取は2つの機序、すなわち、カルシウムの摂取と体重の増加を介して骨量の増加に寄与していることが予想された。 以上、本論文は日本人とプラジル人を対象として、骨量の加齢にともなう変化を身体の部位別に検討し、それぞれの群における特徴を明らかにするとともに、牛乳摂取の骨量におよぼす影響を検討した。本研究は骨粗鬆症の病態解明に必要な骨量におよぼす遺伝的背景と環境因子の解析に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |