学位論文要旨



No 212960
著者(漢字) アントニオ カルロス アラウージョ デ ソウザ
著者(英字)
著者(カナ) アントニオ カルロス アラウージョ デ ソウザ
標題(和) 骨量とカルシウム摂取からみた退行期骨粗鬆症の臨床的研究
標題(洋) Clinical aspects of involutional osteoporosis with special emphasis on the role of bone mass and calcium intake
報告番号 212960
報告番号 乙12960
学位授与日 1996.07.24
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第12960号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 武谷,雄二
 東京大学 助教授 中村,耕三
 東京大学 助教授 福岡,秀興
 東京大学 助教授 長野,昭
 東京大学 講師 松本,俊夫
内容要旨 はじめに

 骨粗鬆症、とくに加齢に伴う病的骨量減少を基盤とする退行期骨粗鬆症はそれに基づく脊椎圧迫骨折や腰痛が高齢者の活動度を著しく低下させるのみならず、長期臥床を余儀なくさせる大腿骨頚部骨折の原因疾患として重要なものである。本症の予防および治療は人口構成の高齢化が急速に進む現在、医学的のみならず社会的に重要な研究課題でもある。近年の骨代謝学の進歩には目を見張るものがあるが本症の病態解析や予防法、治療法の開発は未だ道半ばにある。

 本研究においてはまず日本人女性とブラジル人女性の骨量を全身ならびに、身体の各所について比較する。このことにより、骨粗鬆症の病態の根幹をなす骨量減少におよぼす人種の因子ならびに環境因子の影響を検討する。さらにこの研究をすすめるためにブラジル在住の日本人の骨量を比較の対象とする。

 一方、退行期骨粗鬆症の危険因子として知られてるもののうちカルシウム摂取不足は最も重要なものの一つに数えられている。しかながら、カルシウム摂取と骨代謝、特に骨密度との関連に関する詳細な検討はきわめて少ない。本研究ではカルシウムの供給源として重要な牛乳の摂取量と全身ならびに、身体の各所の骨量との比較を行った。

第1章骨量の国際比較

 その1 日本人女性とブラジル人女性の骨量の比較

 その2 ブラジルにおける日本人移民の骨量

 骨密度あるいは骨量は骨の強度を決定する最も大きな因子であり、その病的減少が骨粗鬆症の病態の根幹をなす。骨量は環境要因と遺伝的な因子で決定されると考えられているがそれぞれの意義については確立されていない部分が多い。骨量を人種間で比較することにはこれらの要因の解析に有用であると考えられる。本研究ではブラジル人女性と日本人女性、ならびにブラジルにおける日本人移民女性について加齢に伴う骨量の変化を比較した。

 dual energy X-ray absorptiometry(DEXA)を用いた全身の骨量測定をブラジル人女性1176名、日本人女性1690名について、腰椎の骨量測定をそれぞれ3876人、3370人、大腿骨頚部の骨量測定をそれぞれ4467名、1141名について行った。それぞれのpopulationについて加齢にともなう各部位の骨量の推移を検討した。

 その結果、日本人女性においては、全身、下肢、脊椎は20歳台、大腿骨頚部とWard三角は30歳台、転子部と頭蓋は40歳台で骨密度の最大値が得られた。一方、ブラジル人女性では全身、頭蓋、下肢、大腿骨頚部、Ward三角では20歳台、脊椎は30歳台で最大骨密度が得られた。各部位の骨密度絶対値はブラジル人女性のほうが日本人女性よりも大きな値をしめした。一方、これらの骨密度を身長と体重で補正すると、頭蓋骨以外の部位については有意差がなくなった。しかしながら頭蓋骨の差は補正後も保たれた。

 本研究において非常に大きな母集団について骨密度が測定され、日本人女性の加齢にともなう骨量の推移に関する基礎情報がえられた。さらに頭蓋骨の骨密度は身長、体重といった体格によっては左右されず、人種の差に依存することが明らかとなった。頭蓋骨の骨密度が骨代謝の人種差を明確に表すことが示唆され、今後の骨代謝研究のtarget organになりうることが示唆され。

第2章骨量におよぼす牛乳摂取の影響

 カルシウム摂取と骨代謝、特に骨密度との関連に関して詳細に検討するためにカルシウムの供給源として重要な牛乳の摂取量と全身ならびに、身体の各所の骨量との比較を行った。

 まず235人のブラジル人女性を牛乳摂取状況によって3群に分類した。第1群は牛乳を摂取しない群(n=63、55.0±13.3歳)、第2群は一日一杯のむ者(n=33、61.2±13.4歳)、第3群は一日一杯のむ者(n=134、59.3±10.6歳)である。すべての対象者につきdual energy X-ray absorptiometry(DXA)にて全身ならびに身体各所の骨量を測定し、群間で比較した。なお測定値は体重と年令で較正したのちに比較した。

 その結果第1群と第3群の間で有意な差が認められた。その中で頭蓋骨の差がきわだっておおきなものであった(第1群<第3群)。さらにこれらの群間で骨折の発生率にも有意差が認められた(第1群>第3群)。また多変量解析により、骨量に及ぼす影響につき、牛乳の摂取量と体重の間に有意な相関が得られた。

 以上のことより、牛乳の摂取は2つの道筋、すなわち、カルシウムの摂取と体重の増加を介して骨量の増加に寄与していることが予想された。

審査要旨

 本研究は、骨粗鬆症の病態の根幹をなす骨量減少におよぼす人種差の因子ならびに環境因子の影響を検討するために日本人女性とブラジル人女性、さらにブラジル在住日本人の骨量を全身ならびに、身体の各所について比較した。また、退行期骨粗鬆症に対する危険因子として最も重要なものの一つに数えられているカルシウム摂取不足につき、牛乳摂取量と身体の各所の骨量との比較をすることによって検討した。以下に結果を示す。

 1.dual energy X-ray absorptiometry (DEXA)を用いた全身の骨量測定をブラジル人女性1176名、日本人女性1690名について、腰椎の骨量測定をそれぞれ3876人、3370人、大腿骨頚部の骨量測定をそれぞれ4467名、1141名について行った。それぞれのpopulationについて加齢にともなう各部位の骨量の推移を検討した。その結果、日本人女性においては、全身、下肢、脊椎は20歳台、大腿骨頚部とWard三角は30歳台、転子部と頭蓋は40歳台で骨密度の最大値が得られた。一方、ブラジル人女性では全身、頭蓋、下肢、大腿骨頚部、Ward三角では20歳台、脊椎は30歳台で最大骨密度が得られた。各部位の骨密度絶対値はブラジル人女性のほうが日本人女性よりも大きな値をしめした。一方、これらの骨密度を身長と体重で補正すると、頭蓋骨以外の部位については有意差がなくなった。しかしながら頭蓋骨の差は補正後も保たれた。

 2.235人のブラジル人女性を牛乳摂取状況によって3群に分類した。第1群は牛乳を摂取しない群(n=63、55.0±13.3歳)、第2群は一日一杯のむ者(n=33、61.2±13.4歳)、第3群は一日一杯のむ者(n=134、59.3±10.6歳)である。すべての対象者につきdual energy X-ray absorptiometry(DXA)にて全身ならびに身体各所の骨量を測定し、群間で比較した。なお測定値は体重と年令で較正したのちに比較した。

 その結果第1群と第3群の間で有意な差が認められた。その中で頭蓋骨の骨密度差がきわだっておおきなものであった(第1群<第3群)。さらにこれらの群間で骨折の発生率にも有意差が認められた(第1群>第3群)。また多変量解析により、骨量に及ぼす影響につき、牛乳の摂取量と体重の間に有意な相関が得られた。以上のことより、牛乳の摂取は2つの機序、すなわち、カルシウムの摂取と体重の増加を介して骨量の増加に寄与していることが予想された。

 以上、本論文は日本人とプラジル人を対象として、骨量の加齢にともなう変化を身体の部位別に検討し、それぞれの群における特徴を明らかにするとともに、牛乳摂取の骨量におよぼす影響を検討した。本研究は骨粗鬆症の病態解明に必要な骨量におよぼす遺伝的背景と環境因子の解析に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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