本研究では、癌化学療法における新しい抗癌剤投与方法である、angiotensinII(以下、ATII)を用いた昇圧化学療法(induced hypertension chemotherapy、以下IHC)の意義と有用性について実験的に検討され、以下の結論を得た. 1.IHC群では、ATIIを持続微量注入し平均動脈血圧を上昇させることにより、肝に移植された腫瘍の組織血流量は選択的に増加した. 2.昇圧とともに投与されたadriamycin(以下、ADM)の腫瘍組織内濃度は、ADM単独投与と比較して約4倍の高値を示し、IHCによる抗癌剤の腫瘍集積性が確認された. 3.IHC群の剖検所見では、腫瘍径はADM単独投与群、非治療群に比較して、有意に低値であり、また腫瘍重量は非治療群に比較して有意に低値を示し、IHCの有用性が示唆された. 従来のIHCに関する研究では、組織血流量と組織内抗癌剤濃度がそれぞれ独立した実験系で検討されているが、本研究で初めてこの両者を同一個体で測定し、IHCの持つ臨床的意義を実験的に証明した.また本研究で肝転移を想定したモデルにおけるIHCの有用性が示されたことにより、IHCが将来的に有力なdrug delivery systemとなりうる可能性が示された.以上より、本研究は腫瘍治療学の進展に寄与するものであり、学位の授与に値するものと考えられる. |