内容要旨 | | 従来より悪性腫瘍に対し,様々な能動的および受動的免疫療法が試みられてきた。LAK療法は非特異的免疫療法で,一部の悪性腫瘍において効果が認められるものの,多くの悪性腫瘍においては有効性が認められなかった。一方,tumor infiltrating lymphocyte(TIL)やin vitro sensitized(IVS)lymphocyteなどのcytotoxic T lymphocyte(CTL)は,感作された腫瘍に対する腫瘍特異性を持ち,特異的養子免疫療法に用いられてきた。効率的に養子免疫療法を行い十分な臨床効果を得るには,腫瘍特異的な抗腫瘍効果を持った十分な数のT細胞を得ることが重要と考えられる。 腫瘍を潅流するリンパ節,tumor-draining lymphnode(DLN)中に存在するTリンパ球は,生体内で腫瘍抗原の感作をうけており,in vitroで活性化と増殖を行うことにより養子免疫療法に利用可能となる。我々は,Shuらの方法により,C57BL/6マウスの足蹠にMC-1を接種,腫張した膝窩リンパ節よりDLN cellを採取し,in vitroで抗CD3抗体及びrecombinant interleukin-2(rIL-2)で活性化と増殖をおこない,以下の検討を行った。 I.活性化DLN cellをもちいた養子免疫療法のin vivoにおける解析。 II.活性化DLN cellの、in vitroにおける解析。 III.活性化DLN cellの、in vitroにおけるサイトカイン(IFN- ,TNF- )産生能についての解析。 方法と結果I.活性化DLN cellをもちいた養子免疫療法のin vivoにおける解析。 C57BL/6マウスの足蹠に3-methylcholanthrene誘発fibrosarcoma細胞株(MC-1)を接種,腫張した膝窩リンパ節よりDLN cellを採取し,in vitroで抗CD3抗体及びrecombinant interleukin-2(rIL-2)で活性化と増殖をおこなった。活性化により細胞数は平均3.4倍となり,phenotypeはCD4-CD8+CD25+CD44+であった。活性化DLNは,LAK療法が無効であった同系肺転移および肝転移に対し腫瘍特異的に抗腫瘍効果を発揮した(Table1)。 Table1II.活性化DLN cellの、in vitroにおける解析。 活性化DLN cellおよびLAK cellのin vitroでの細胞障害性について,4時間51Cr-release assayで検討した。LAK cellはMC-1,MC-3およびMC-4に対して細胞障害性を示した。一方,活性化DLN cellはMC-1,MC-3,MC-4に対して細胞障害性を全く示さず(Fig.1),前述の養子免疫療法の結果と解離した。従来の細胞障害性試験はin vivoの抗腫瘍効果を反映していないものと考えられ,in vivoでの抗腫瘍効果を反映するassayが必要と考えられた。 Fig.1III.活性化DLN cellの、in vitroにおけるサイトカイン(IFN- ,TNF- )産生能についての解析。 活性化DLN cellはMC-1腫瘍細胞の刺激でIFN- を産生したが,MC-3腫瘍細胞の刺激ではIFN- の産生は有意に少なかった(p<0.01)。IFN- の産生は,rIL-2により増強された。一方,TNF- の産生は認められなかった。こうした特異的なIFN- 産生の結果はin vivoの抗腫瘍効果の特異性と相関しており,活性化DLNの特異的抗腫瘍効果においてIFN- が重要な役割を果たし,IFN- 産生能の測定が従来のin vitroの細胞障害性試験にかわりうるassay法のひとつと考えられた。rIFN- のMC-1細胞に対する増殖抑制効果は穏やかであったが,rIFN- はMHC class Iの発現を増強した。IFN- は直接的な抗腫瘍活性より,MHC class Iの発現増強,リンパ球の血管内皮への接着の刺激,リンパ球のhoming signalとしての働きなどにより,間接的に抗腫瘍効果をmediateしている可能性が考えられた。さらにhoming能をもったDLN cellは,サイトカイン遺伝子導入effector細胞の有望な候補になりうると考えられる。 Table2まとめ 1.抗CD3抗体とrIL-2でin vitroにて活性化したDLN cellは、CD4-CD8+CD25+CD44+のT細胞で,in vitroでは細胞障害性を示さなかったが,in vivoでの養子免疫療法において腫瘍特異的に抗腫瘍効果を発揮した。 2.活性化DLN cellは、自己腫瘍刺激により特異的にIFN- を産生し、IFN- のassayが従来の細胞障害性試験より,抗腫瘍活性のスクリーニングに適している可能性が示唆された。 3.活性化DLN cellは,腫瘍組織に対する適切なhoming能を持っており,cytokine等の遺伝子導入effector細胞の有望な候補となりうると考えられた。 |
審査要旨 | | 本研究は,腫瘍を潅流するリンパ節,tumor-draining lymphnode(DLN)中に存在するTリンパ球を用いた養子免疫療法を,マウスモデルを用いてin vivo,in vitro両面から基礎的な検討を加えたものであり,下記の結果を得ている。 1.マウス足蹠に腫瘍細胞(MC-1)を接種後,腫張した膝窩リンパ節より得られたDLN cellを,抗CD3抗体及びrIL-2で活性化し養子免疫療法に用いるモデルを作成している。活性化されたDLN cellは,CD4-CD8+CD25+CD44+のT細胞で,LAK細胞が無効であった同系肺転移および肝転移に対し腫瘍特異的に抗腫瘍効果を発揮することが示された。 2.活性化DLN cellおよびLAK cellのin vitroでの細胞障害活性について,4時間51Cr-release assayで検討している。LAK cellがMC-1,MC-3およびMC-4に対して細胞障害性を示したのに対し,活性化DLN cellはMC-1,MC-3,MC-4に対して細胞障害性を全く示さず,養子免疫療法の結果と乖離した。従来の細胞障害性試験がin vivoの抗腫瘍効果を反映していない事が示された。 3.活性化DLN cellはMC-1腫瘍細胞の刺激で特異的にIFN- を産生した。この結果がin vivoの抗腫瘍効果の特異性と相関することから,IFN- のassayが従来の細胞障害性試験より,抗腫瘍活性のスクリーニングに適している可能性が示唆された。この系では,rIFN- のMC-1細胞に対する増殖抑制効果は穏やかであったが,MHC class Iの発現を増強しており,rIFN- が間接的に活性化DLNの特異的抗腫瘍効果をmediateしている可能性が示唆された。 以上,本論文は,DLN cellも用いた新しい養子免疫療法をマウスの系において確立し,解析を加えた。本研究は,新しい免疫療法に対し基礎的なデータを与え,今後の臨床応用へ向けて貢献をなすものと考えられ,学位の授与に値するものと考えられる。 |