本論文は、超高層事務所ビルの施工において、高速リフトによる資材揚重量を、過去の4つの施工実施事例の実績を調査分析することによって定量的に把握し、その結果新しい「資材揚重計画手法]を提案し、その手法を最近の施工事例に適用してその妥当性を評価したものである。 新しい「資材揚重計画手法」では、従来のように設計図に基づいて揚重すべき建設資材を一つ一つ積算することなく、設計仕様と施工計画にしたがって数値を代入することによって揚重量を算出し、更に高速リフトの所要稼働時間、揚重山積表が求められる算定式を提案している。本研究の成果として、その算定式を活用することによって極めて短時間のうちに超高層事務所ビル建設の際の厖大な揚重量が算出され、高速リフトによる揚重計画の基本方針を定めるための高度な判断が可能となるばかりでなく、その揚重計画を中心としたプロジェクト全体の建設計画の問題点を洗い出し、設計仕様と建築工法・施工計画についての揚重技術の効率化を求めて、計画全体の見直しと更なる工夫へと導くことも可能となることがあげられる。また、この算定式は適用の一般性を優先しており、超高層事務所ビルであればその施工法の在来工法、積層工法の如何を問わずに適用可能なように工夫されている。 第I章では、本研究の背景、目的、意義、範囲、構成等を概論的に述べた。超高層事務所ビルの建設技術の開発と発展に伴って、その技術の重要な要素である「揚重技術」も発展し全体に大きく貢献している。その「揚重技術」の中で、設計仕様、建築工法によって影響される「高速リフト」の揚重量を定量的に調査、分析し、超高層事務所ビルの施工計画を実施する時に必要な「揚重量を算出することのできる算定式」を提案するという目的を示している。 第II章では、まず超高層事務所ビルの施工法について、その建設技術の開発からその発展の歴史について述べ、揚重技術的に具体的実例をあげながら詳細な説明を加えている。特に在来工法と積層工法についてその施工法、その考え方の相異点を比較しながら揚重技術の観点から説明している。積層工法については、新たに開発したユニットフロアーを用いた新積層工法の揚重技術的に優れた側面を、その開発の思想と共に詳しく述べている。 第III章では、超高層事務所ビルの建設資材の揚重について、まず、仮設揚重機械の種類とその特徴、概要そして資材揚重の役割分担を述べ、次にその仮設揚重機械の中の高速リフトによる揚重計画と揚重回数、揚重時間等の実績をまとめている。 そして、高速リフトによる揚重回数の実態調査とその分析の項で、4つの実施事例についてその建物及び揚重概要、揚重回数、実績をまとめ、次にそれらの揚重回数がどのような設計仕様、建築工法によってそのような数値になったかを想定し、建築材料、設備材料、仮設材料、残材、特殊階とテナント階の工事用資機材、備品、余剰材盛替の各項目別に定量的にその要因を分析して、夫々の項目の数値を求めるための計算式を考案した。 更に高速リフトによる揚重工程の実態調査とその分析の項で、4つの実施事例について、その全体工程、揚重工程と月別揚重山積、仕上工事タクト工程の実績をまとめ、標準揚重工程と模式的仕上工事タクト工程による揚重回数山積表を提案した。 なお、4つの実施事例には下記のプロジェクトを選定している。 SG:新呉服橋ビル SS:新宿センタービル SN:新宿NSビル ST:新都庁舎 第IV章では、揚重に関わる諸算定式を提案した。設計仕様、建築工法を決めることによって、高速リフトによる揚重係数kを求め、揚重対象床面積Sを乗じて、揚重回数Nを求める。 基準揚重係数k0は4つの実施事例の中から建築、設備、仮設、残材の各項目で揚重係数の最も小さい数値を選んでk0=0.152(回/m2)と定めた。変動揚重係数k1は検討の結果n=15と定め、下記に示すi=1〜15までの各変動要因毎に計算式又は推奨数値を用いて求める方式としている。 i=1(k1):耐火被覆材を圧送せず、高速リフト揚重 i=2(k2):外装材をユニット化せず、高速リフト揚重、施工階組立 i=3(k3):コアまわり耐火壁:乾式壁 i=4(k4):柱、壁の仕上:化粧鋼板 i=5(k5):床仕上に2重床採用:OAフロアなど i=6(k6):駄目躯体(床スラブ)工事の型枠、鉄筋材揚重 i=7(k7):天井内設備材(ダクト、配管)高速リフト揚重(ユニットフロアの採用少ない) i=8(k8):小型空調機を高速リフト揚重 i=9(k9):階高の高い階が多く、仮設足場材多い i=10(k10):空コンテナがかさばり、その却し揚重 i=11(k11):設備用残材多い(ユニットフロアの採用少ない) i=12(k12):ボード類を定尺寸法で揚重、施工階で切断 i=13(k13):特殊階、テナント階の資機材・高速リフト揚重 i=14(k14):造付家具、備品 i=15(k15):余剰材揚重 次に上記の算定式によって求められたN(回)を用いて、高速リフトの所要稼働時間H(時)をもとめる算定式を提案した。 上記文字のうち、P,m,M,Dをそれぞれどのように定めたらよいかの推奨代入数値も示した。そして、これらの計算結果を基に、標準揚重工程による揚重回数山積表と、諸般の事情により遅れがちになった場合の特殊揚重工程による揚重回数山積表を示した。 第V章では、第IV章で提案された諸算定式を最近の実施した施工事例に適用した。その結果、諸算定式によって算出された計画揚重回数及び揚重工程山積は、その事例の実績に極めて近似し、6%以下の誤差であることが確認され、したがってそれらの諸算定式の妥当性が検証された。 第VI章では、第I章から第V章までのまとめと、超高層事務所ビルの施工計画に際しての「揚重技術面での配慮すべき事項」を箇条書きに整理した。そして最後に、今後の展開として、下記の課題を示す。 (1)計画と実施との間の誤差を更に小さくする工夫として (1)-1 変動要因の数を増やす。 (1)-2 実施施工事例の数を増やすことによって、変動揚重係数k1の定数等の数値を補正する。 (2)揚重効率化技術を更に発展させ、揚重量を削減する工夫を更に進める。 本論文で提案された「資材揚重計画手法」は未だ完成されたものではなく、上記のような課題を一つずつ解決してゆくことによって更に高度なものへと改善されていかなければならないと考えている。 |