審査要旨 | | 本論文は「往復圧縮機-配管系の圧力脈動に関する研究」と題し,全6章より成っている. 第1章は「緒論」で,往復圧縮機を含む配管系に生じる圧力脈動に関する本研究の背景及び目的を述べ,従来の研究を概観して問題点を指摘し,本研究の位置付けを行っている. 第2章は「有限要素法による圧力脈動の解析」で,本研究の圧力脈動計算法の基礎をなすものである.従来,圧力脈動の計算には伝達マトリックス法が使用されてきたが,配管系が複雑になり,ループ状配管が含まれると伝達マトリックス法による計算は非常に困難になる.これを解決するために,有限要素法による圧力脈動の計算法を提案し,流量の積分値と圧力を変数として,配管要素の質量及び剛性マトリックス,容積部及び分岐部の剛性マトリックス,管摩擦や圧力損失等の減衰要素マトリックスをそれぞれ定式化し,これらの各要素を配管系全体に適用して,全体系の質量,減衰及び剛性マトリックスを構築する手法を述べている.この手法の妥当性を検証するために,葉山らの実験結果と比較して,圧力脈動の共振振幅が10%の誤差範囲で計算できることを確認し,また,実プラントで計測した圧力脈動の応答振幅及び計測波形の周波数成分を計算結果と比較してよい一致を得ている. 第3章は「2台の往復圧縮機で運転される配管系の圧力脈動の解析」で,実プラントでよく見かける独立した往復圧縮機が2台同時に運転される場合の圧力脈動の最大応答値を効率的にしかも精度よく推定する手法について検討している.2台の同時運転のとき,両圧縮機の吸込み/吐出し流量波形はお互いに0〜2の間の任意の位相差を取りうるが,すべての位相差について計算するのは経済的でない.そこで,各圧縮機の吸込み/吐出し流量波形をクランク上死点基準でフーリエ展開した各次数の入力振幅と位相を求め,各次数ごとにお互いの位相を一致させて同時加振したときの圧力脈動の計算値と,逆位相として同時加振したときの圧力脈動の計算値とを求め,その絶対値の大きい方を最大応答値とする方法を提案している.この手法による計算値を,位相差を0〜2に変えて詳細に計算して求めた最大応答値と比較したところよく一致しており,従来の手法に比べて,実用上有効な推定法であることを確認している. 第4章は「往復圧縮機と配管系の流体連成を考慮した圧力脈動の解析(シリンダ内のガス剛性が一定の場合)」である.最近,往復圧縮機と配管系との流体連成を考慮した圧力脈動の計算が必要となっている.従来,流体連成を考慮した計算法としては,圧縮機の吸/排気系をコンデンサーとダイオードで模擬したアナログ計算法が使用されている.これをデジタル計算機で模擬するために,圧縮機の吸/排気系を体積の変化する管要素,吸/排気弁要素及び可変絞り要素に分解して,それぞれの要素を微分方程式で表し,これらを組み合わせて往復圧縮機のデジタルモデルを作っている.これを配管系と接続して全体系の運動方程式を求め,Newmark-法を用いて時刻歴積分を行うことによって,流体連成を考慮した圧力脈動の計算が行えるようになった.ここでは,計算を簡略化するために,シリンダー内のガスのばね剛性は一定として計算しているが,アナログ計算では不可能であった弁の動特性が考慮されている.まず,圧縮機単体の計算を行い,弁の動特性を考慮すると,吐出し波形に鋭いスパイクが現れることなど実機に近い流量波形が計算されている.また,実機相当のモデルに適用して,流体連成を考慮しない場合,アナログ相当の場合及びこれに弁の動特性を加えた場合の圧力脈動の計算を行って4次までの周波数成分を比較して,低次の成分の応答にはそれほど差はないが,高次の成分が気柱共鳴に近いときにはその差が大きくなり,弁の動特性と流体連成を考慮した計算が必要であると結論している. 第5章は「往復圧縮機と配管系の流体連成を考慮した圧力脈動の解析(シリンダ内のガス剛性が変化する場合)」で,前章で簡略化のために一定とおいたシリンダー内のガスの剛性が時間的に変化する場合の計算法を示している.シリンダー内の圧力変化を流入・流出するガス流量の変化によるものと,シリンダー容積の変化によるものとに分けて計算し,時間の経過と共にその変化量を前章の圧縮機モデルに加えて修正している.これにより往復圧縮機の吸入側と排気側を含めた圧縮機-配管系全体の応答計算が可能となり,圧力脈動の応答計算みならず,往復圧縮機の性能評価も行えるようになっている. 第6章は「結論」で,本論文で得られた結果をまとめて述べている. 以上のように,本論文は著者の提案した有限要素法による圧力脈動の解析法を用いて,複雑な配管系で生じる圧力脈動の応答計算法を確立すると共に,圧縮機と配管系の流体連成を考慮した計算を可能にしたもので,機械工学とくに配管系の防振技術の発展に寄与するところが大きい. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. |