学位論文要旨



No 213005
著者(漢字) 杉山,澄雄
著者(英字)
著者(カナ) スギヤマ,スミオ
標題(和) 半溶融加工に関する基礎的研究
標題(洋)
報告番号 213005
報告番号 乙13005
学位授与日 1996.09.19
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13005号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 木内,學
 東京大学 教授 鈴木,俊夫
 東京大学 助教授 谷,泰弘
 東京大学 助教授 横井,秀俊
 東京大学 助教授 柳本,潤
内容要旨

 本論文は、序論と結論を含む9章からなる。

 第1章は序論であり、言葉の定義、研究の概要、関連分野の研究・技術開発・応用動向、本論文の構成について示してある。

 第2章には、高固相率域での各種実用合金の内部組織の直接観察ならびに変形特性について検討した結果を示してある。本研究により、溶融開始位置、溶融域の拡大化の様子、また半溶融金属に荷重を付加した際の結晶粒の変形挙動等が明らかになり、金属学的にも価値ある観察結果を得ることができた。また、実用アルミニウム合金等を対象とし半溶融金属の圧縮試験を行い、変形抵抗におよぼす温度(固相率)の影響、ひずみ速度の影響、試験片寸法・形状の影響等を明らかにした。得られた結果は、半溶融加工法での加工条件の選定、被加工材の変形特性の把握、構成式の確立、解析モデルの構築と解析結果の検討などにおいて有用な情報となるものである。

 第3章では、半溶融(半凝固)金属の固相率の測定法の開発を目的とし、(a)半溶融状態での金属材料の(圧縮)変形抵抗を求め、その値を基に固相率を推定する方法、(b)半溶融または半凝固状態にある金属材料の二点間の電位差(または電気抵抗)を計測し、その値を基に固相率を推定する方法、についての新たな提案を行い、その可能性について調べた結果を示してある。固相率測定技術の確立は、最適加工条件や製品特性に大きな影響をおよぼし、半溶融・半凝固加工技術の開発にとって欠くことのできない課題である。本推定法の結果は組織凍結法から得られた結果とも概ねよい一致が得られ、固相率測定技術の確立の手がかりを示すことができたと考えられる。

 第4章には、半凝固処理金属材料の製造法の開発を目的とし、均一・微細かつ等軸な結晶組織を有する半凝固処理金属材料を製造する新しい処理法(SCR法)を提案し、その特性について調べた結果について示してある。SCR法には、現在研究が進められている機械攪拌法(レオキャスト法)や電磁攪拌法などの半凝固処理法にない様々な特徴のあることが判明し、特に、機械撹拌法の中のレオキャスト法と比較して、(a)より微細な結晶組織の半凝固処理材の製造が可能なこと、(b)装置の大型化・単純化・ラインへの組み込み化が容易なこと、(c)生産性が高いこと、(d)新しい合金製造の可能性のあること、などの長所を示すことができた。

 第5章には、半溶融押出し法の基本特性の検討を目的とし、通常の押出し法では実行が困難な、(a)小荷重・高加工率を目指した棒管材の加工、(b)難加工材の加工、(c)同心円状に積層した複合棒線材の製造と加工、(d)粒子強化型複合棒材の製造と加工、(e)チタン短繊維強化型複合棒材の製造と加工、(f)炭化珪素短繊維強化型複合棒材の製造と加工、について調査した結果を示してある。

 第6章には、半溶融鍛造法の基本特性の検討を目的とし、通常の鍛造加工では製造や加工が困難であるかまたはできない、(a)鋳鉄の加工、(b)金属基複合材料の製造と加工、(c)積層型粒子強化複合材料の製造と加工、について実践した結果を示してある。

 第7章には、半溶融圧延法の基本特性の検討を目的とし、(a)アルミニウム合金ならびに鋳鉄の板材加工、(b)積層型複合板材の製造、(c)アルミニウム基積層型粒子強化複合板材の製造と加工、(d)鉄基積層型粒子強化複合板材の製造と加工、(e)サンドイッチ型粒子強化複合板材の製造と加工、について加工法上の特性を明らかにした結果を示してある。

 第8章には、半溶融複合加工法の基本特性の検討を目的とし、冷間・熱間塑性加工法または上述の半溶融加工法単独では達成できない、(a)アルミニウム合金粉末の板材への製造と加工、(b)粒子強化複合板材の製造と加工、(c)めっき鋼板を利用した各種複合鋼板の製造と加工、(d)部分接合型複合鋼板の製造と加工、について研究した結果を示してある。

 第5章から第8章までの半溶融加工の基本特性に関する研究から概略以下のことが明らかとなった。

(a)既存の塑性加工範囲の拡張

 半溶融加工法においては、既存の塑性加工条件、特に被加工材の材質についての制限を大幅に緩和できることがわかった。すなわち、半溶融加工には、被加工材内部に液相成分と固相成分を含有するため結晶粒のすべりや回転に対する抵抗が弱く、被加工材全体の変形が起こりやすくなること、また、加工中に結晶粒界が開き亀裂が発生しても、その亀裂に液相成分が浸入し、亀裂を埋め接合させてしまうこと、などの特性のあることが判明した。半溶融加工法により、片状黒鉛鋳鉄あるいはセラッミクス粒子が数10パーセント含有された粒子強化複合材料の加工が可能となることが具体的に示された。

(b)既存の塑性加工設備・工具の小規模化・小型化

 半溶融加工法では、通常の熱間塑性加工法と比較し、加工に必要な力は数分の一でよいことが判明した。このことは、加工機械や駆動設備の小規模化あるいは金型や保持具など工具の小型化に対し有利な条件となる。

(c)各種複合材料製造・加工の可能性

 通常の冷間・熱間塑性加工では不可能である複合材料の製造ならびにその加工が半溶融加工によって始めて可能となることが明らかになった。例えば、(1)純アルミニウムを被覆材に用い、高力アルミニウム合金を芯材に用いた積層型複合棒材の加工、また同組み合わせの、極薄皮積層型複合棒材の加工、(2)セラミックス粒子を金属マトリックス中に最大70体積パーセント含有させた粒子強化複合材料の製造とその加工、(3)金属短繊維を金属マトリックス中に最大50体積パーセント含有させた金属短繊維強化複合材料の製造とその加工、(4)セラミックス短繊維を破断させることなく、断面に均一かつ一方向に整列させた短繊維強化複合材料の製造とその加工、などである。

(d)粒子強化複合材料と金属素板との積層化の可能性

 粒子強化複合材料を金属素板に積層させる積層型複合材料が種々提案されているが、素板と積層部との接合強度に関してはいまだ問題がある。半溶融加工法は、塑性変形と拡散反応の両方を利用した固相-液相の積層法であり、素板と積層部との接合強度に優れた積層型粒子強化複合材料の製造が可能であることがわかった。

(e)機能材料製造の可能性

 半溶融加工法は、通常の冷間・熱間塑性加工法と加工形態を単純に比較する場合には大差がないが、しかし、加工にともなう被加工材内部の材料の変形流動を比較する場合には大きな相違がある。すなわち、半溶融加工法では、被加工材の内部に固相成分と液相成分の二相が存在するため、加工の進行にともない、液相成分と固相成分の変形流動差が顕著に現れる。この流動差現象を有効に利用し、液相成分と固相成分のマクロ分布を意図的に行うことで、結晶粒や析出物・晶出物の大きさ・形状・分布を連続的に変化させたいわゆる傾斜機能材料の製造が可能であることがわかった。

 第9章は結論であり、研究の成果と今後の検討課題について示してある。

 以上、本研究により、半溶融金属の高固相率状態での基本特性について多く現象が明らかとなり、また、半溶融加工法の基本特性についても多くの事実が判明し、半溶融加工法がより系統的に整理され、技術的・学問的確立の基礎が構築できたと考えることができる。

審査要旨

 本論文は、半溶融加工に関する基礎的研究と題し、金属(合金)材料の半溶融状態の基本特性ならびに半溶融加工法の基本特性について検討した結果をまとめたものである。

 本論文では、はじめに、金属(合金)材料の溶融過程の直接観察ならびに半溶融金属の変形特性調査を行い、変形抵抗におよぼす温度(固相率)の影響、ひずみ速度の影響、試験片寸法・形状の影響等に関し系統的に考察してある。これまで、完全溶融域や低固相率域と比べ、高固相率域における金属材料の特性に関しては研究も少なく比較的未知の領域であった。本論文が明らかにした高固相率域における金属材料特性は、半溶融・半凝固加工分野において貴重な情報を与えるものである。

 また本論文では、半溶融加工における最適加工条件の選定や製品特性に大きな影響をおよぼすことが予想される半溶融(半凝固)金属の固相率の測定法に関し、(a)半溶融状態での金属材料の(圧縮)変形抵抗を求め、その値を基に固相率を推定する方法、(b)半溶融または半凝固状態にある金属材料の二点間の電位差(または電気抵抗)を計測し、その値を基に固相率を推定する方法、についての新たな提案を行っている。この提案は、新しい固相率測定技術の手がかりを与えるものとして、溶融凝固現象を伴う加工技術全般に対し大きな貢献が期待できる。

 また本論文では、均一・微細・等軸の結晶構造を有する金属素材の製造法として、せん断冷却ロール(SCR法)を新たに提案し、そのプロセス特性ならびに製品特性について示してある。SCR法は、現在研究が進められている機械攪拌法(レオキャスト法)と比較して、(a)より微細な結晶組織の半凝固処理材の製造が可能なこと、(b)装置の大型化・単純化・ラインへの組み込み化が容易なこと、(c)生産性が高いこと、(d)新しい合金製造の可能性が高いこと、などの長所があり、本研究の結果は、工業技術的にも高い評価を与えることができる。

 次に本論文では、半溶融押出し法、半溶融鍛造法、半溶融圧延法等の半溶融加工法を、通常の冷間・熱間塑性加工法では実行が困難な、(1)小荷重・高加工率を目指した棒管板材の加工、(2)難加工材の加工、(3)粒子強化型複合材料の製造と加工、(4)繊維強化型複合材料の製造と加工、(5)積層型粒子強化複合材料の製造と加工等に適用し、加工荷重、被加工材の変形・流動挙動、製品の機械的特性などについて調査した結果を示している。半溶融加工法には、被加工材の内部に固液の2相が存在するため、通常の冷間・熱間塑性加工と比べ、(a)被加工材の材質についての制限を大幅に緩和できること、(b)加工に必要な力は数分の一でよいこと、したがって加工機械や駆動設備の小規模化あるいは金型や保持具など工具の小型化が達成できること、(c)各種の複合材料の製造ならびに加工が可能となること、(d)結晶粒や析出物・晶出物の大きさ・形状・分布を連続的に変化させた傾斜機能材料などの新材料の製造が可能となること、などの特長のあることを明らかにしているが、これらの結果は、今後の金属材料の加工技術の革新に大きく寄与することを示している。

 以上、本論文は、半溶融金属の高固相率状態での基本特性について多くの事実を明らにし、かつ、半溶融加工法の基本特性について系統的な研究を行い整理したものであり、半溶融加工法の技術的・学問的体系の構築に大きく貢献するものであると判断できる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/51017