審査要旨 | | 本論文は「設備管理の効率化を目的とした図面検索方式に関する研究」と題し,点検手順の設計や故障の診断などの作業を効果的に支援する設備管理システムの実現を目的として,設備図面の類似検索や関連検索などの高度な検索を可能にする技術の確立を目指して行った一連の研究を纏めたもので,7章よりなっている。 第1章は「序論」で,本研究の背景について述べ,本研究の目的を明らかにすると共に,本論文の構成について述べている。 第2章「設備管理における図面の検索」では,設備管理において必要となる図面の検索機能として類似検索と関連検索の二つの内容検索の機能を取りあげ,その技術課題を分析している。図面の類似検索では,図面の接続構造を反映した類似度の定義が必要であり,従来提案されてきた類似度の定義では不十分であり,又,類似度を評価するために多大な時間を要し,実用的な検索機能の実現には,高速化が必要であることを示している。図面の関連検索では,従来の方式としてハイパーリンク方式を検討し,ノード間の関連が複雑になると,どのリンクを辿ればよいか分からなくなるという問題があり,利用者を的確に誘導する仕組が必要であることを示している。 第3章「グラフ表現に基づく図面の類似検索方式」では,図面の接続構造を反映した類似度を定義するために,特徴グラフと名付けた図面特徴の記述方法を導入し,二つの特徴グラフの対応づけに対し,節点と枝の整合度を評価して図面間の類似度を決定する方式を提案している。特に,枝の整合度の評価では,任意の二つの節点の間に近接度と呼ぶ尺度を導入して,枝の評価値を定義しており,図面の接続構造を反映した類似度の定義を可能としている。評価実験の結果,判定規準値を適切に設定すれば呼出率と適合率が共に,95%以上となる的確な検索が可能となることを確認している。 第4章「図面の類似検索のための高速マッチング方式」では,前章で定義した類似度に基づく類似検索を高速に行うための二段階マッチングの方式を提案している。二段階マッチングにおいては,粗マッチング値により大雑把な絞り込みを行い,その後に前章で定義した類似度である詳細マッチング値を求めてその値が判定規準値以下のものを選択する。この粗マッチング値は図面構造の表記方法である距離マップを用いて定義し,粗マッチング値が詳細マッチング値より小さくならないことを理論的に確認し,二段階マッチング方式によって必ず類似度が判定規準値以下の正当な結果が得られることを示している。又,検索時間の評価実験では,二段階マッチングによる検索時間は,従来の詳細マッチングのみによる検索方式に対して約6分の1になり,二段階マッチングの効果を確認している。 第5章「視点移動ルールに基づく図面の関連検索」では,視点移動ルールを用いた図面の関連検索方式を提案し,その有効性について論じている。関連検索の過程を,データ空間の中で利用者が視点を移動させて行く過程と捉えてモデル化し,視点移動モデルと名付け,一連の検索の観点を含んだナビゲーションのパターンを視点移動ルールの形で表現する。この視点移動モデルに基づいて関連検索方式を構築し,利用者を状況に応じて的確に誘導する関連検索の機能を実現している。プラントにおける異常の診断を想定した評価実験では,従来のハイパーリンク方式と比べて,枝分れのある検索の割合及び枝分れがある場合の枝分れの数は,共に約30%減少し,提案した方式の有効性を確認している。 第6章「プラント設備管理データベースシステム」では,本論文で提案している図面の類似検索,関連検索をプラント設備管理の応用に適用したプラント設備管理データベースシステムの試作結果について述べ,設備管理の主な業務である点検・保守や監視・制御の各場面で図面の類似検索,関連検索が有効に機能することを確認している。 第7章は,「結論」であって本研究の成果を纏めている。 以上これを要するに,本論文は点検手順の設計や故障の診断などの作業を効果的に支援する設備管理システムを実現することを目的として,設備図面を対象として類似検索および関連検索の二種類の検索方式を考案し,これらの検索機能を設備管理システムに組込むことにより従来煩雑であった設備管理業務が効率化されることを示す等,図面処理技術の進展に寄与するところが多大であり、電気・電子工学に貢献するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |