現在トカマク型プラズマ核融合炉は、加熱技術の進歩や閉じ込めモードの改善によって着実に自己点火条件に近付きつつある。それに伴い核融合炉心から高粒子束・高熱流束プラズマを制御し、核融合炉第一壁への負荷を抑えるダイバータの開発は、核融合炉実現のために非常に重要な課題となっている。しかし、ダイバータ領域を含む境界プラズマは、種々の固体-プラズマ相互作用・原子分子過程を含み、大型実験による計測手法が難しいことにより、詳しい粒子輸送現象は解明されていない。本論文は、核融合ダイバータプラズマのモデリングを行ない、ダイバータ領域特有の物理過程を解明することを目的してダイバータ領域での不純物輸送・中性粒子輸送・非局所電子熱輸送に注目し、数値シミュレーションによって、プラズマ輸送現象の解析を行なったものである。本論文は次の6章よりなる。 第1章は序論であり、これまでの大型実験装置によるダイバータ実験結果をまとめ、ダイバータモデリングの重要性・その課題などを挙げ、本論文の目的について述べられている。 第2章では、本研究で中心的に使用した2次元プラズマ輸送コード(B2.5コード)の解析手法について詳しく説明されている。B2.5コードで用いられているコントロールボリューム法はボリューム内で保存則を非常に精度良く満たすため、ダイバータ領域などの粒子の湧き出しや沈みこみが存在する場合に非常に有効な手法であることを示している。 第3章では、ダイバータ領域での炭素及びネオン不純物輸送について計算結果が示されている。まず簡単な一次元の計算から炭素不純物の挙動は、Thermal ForceとFriction Forceを中心とした運動量輸送によって決まることを明らかにしている。また運動量輸送のバランスからThermal Forceによって炭素不純物が主プラズマ方向へ逆流する条件を示している。次にB2.5コードによってITER-CDAダイバータにおけるネオン不純物注入と粒子排気運転のモデリングを行なっている。その結果、ネオン不純物注入によってダイバータ板への熱流が、10MW以下まで急激に減少させることができ、プラズマがダイバータ板から離れるdetached状態まで移行することを示した。また、ネオンとヘリウム・水素の電子エネルギー冷却の分布の違いによる排気・注入による不純物制御が可能であることを示している。さらに電子圧力勾配に起因するダイバータ領域のプラズマ大循環流が形成され、ダイバータ領域に注入された不純物が主プラズマ領域に混入される事を示し、プライベートフラックス領域における不純物逆流による不純物のエネルギー冷却機構を明らかにしている。 第4章では、JT60-SU概念設計ダイバータにおける排気による中性粒子輸送の変化とバッフル板・ドームによるダイバータの幾何形状の変化に伴うプラズマ・中性粒子輸送の変化についてB2.5コードを用いて述べている。ここでは外側ダイバータ領域の排気によって中性粒子が第一壁境界に沿って逆流する量を減らし主プラズマ領域への混入を下げることが可能であることを示している。また、バッフル板挿入を行なうと中性粒子の流れが変化し、主プラズマへ混入する中性粒子束が急激に減少することがわかった。これによってバッフル板によってダイバータ領域に閉じ込めることが可能であることを示している。またプライベートフラックス領域にドームを挿入することによってダイバータ領域のプラズマ密度が低下することを明らかにした。これによってバッフル板・ドームが主プラズマの閉じ込め改善に効果的であることが示された。 第5章では、ダイバータ領域における非局所電子熱輸送効果について調べている。すなわち、改良LMVモデルをB2.5コードに適応することによって高エネルギーの電子によるkinetic効果を取り入れ、ダイバータ入口部とダイバータ板近傍での電子温度分布の変化を表すことができることを示している。またITER-EDAダイバータにおいて200MW以下のエネルギー出力でのモデルの適応性を示すことができている。そして出力が低くなるにつれて非局所電子熱輸送効果が小さくなり、経験的flux-limited手法による計算に近付いていくことを示している。 第6章は結論であり、本研究で得られた成果をまとめた章である。 以上のように、本論文はモデリングによってトカマク型核融合炉のダイバータにおける不純物・中性粒子・電子熱輸送の物理輸送過程を明らかにしたもので、システム量子工学、特に核融合工学研究に寄与するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |