学位論文要旨



No 213013
著者(漢字) 大津,繁樹
著者(英字)
著者(カナ) オオツ,シゲキ
標題(和) 核融合炉ダイバータプラズマのモデリングに関する研究
標題(洋)
報告番号 213013
報告番号 乙13013
学位授与日 1996.09.19
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13013号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 田中,知
 東京大学 教授 井上,信幸
 東京大学 助教授 吉田,善章
 東京大学 助教授 越塚,誠一
 東京大学 助教授 山口,憲司
 東京大学 助教授 寺井,隆幸
内容要旨

 現在トカマク型プラズマ核融合炉は、加熱技術の進歩や閉じ込めモードの改善によって着実に自己点火条件に近付きつつある。それに伴い核融合炉心から高粒子束・高熱流束プラズマを制御し、核融合炉第一壁への負荷を抑えるダイバータの開発は、核融合炉実現のために非常に重要な課題となっている。

 しかしダイバータ領域を含む境界プラズマは、種々の固体-プラズマ相互作用・原子分子過程を含み、大型実験による計測手法が難しいことにより、詳しい粒子輸送現象は解明されていない。

 そこで本論文は、核融合ダイバータプラズマのモデリングを行ない、ダイバータ領域特有の物理過程の解明することを目的する。ダイバータ領域での不純物輸送・中性粒子輸送・非局所電子熱輸送に注目し、数値シミュレーションによって、プラズマ・中性粒子の輸送現象の解析を行なった。

 不純物輸送解析は、炭素不純物とネオン不純物を対象とした解析を行なった。

 炭素不純物輸送解析では、簡易一次元計算によってダイバータ領域での炭素不純物挙動がThermal ForceとFriction Forceの運動量輸送のバランスによって変化することを示した。

 ネオン不純物輸送解析は、2次元多流体プラズマコード(B2.5コード)を用いてITER-CDAダイバータ領域でのネオン不純物注入・粒子排気のモデリングを行なった。ネオン不純物による電子冷却効果についての解析を行い、ダイバータ板へ流入する熱流を10MW以下に減少するダイバータの運転領域を示した。(図1(a))また不純物注入・粒子排気によって不純物による電子エネルギーの冷却量の制御ができることを明らかにし、ネオン・ヘリウム・水素のダイバータ領域中の分布に起因することを示した。プラズマ流れの解析によって、電子圧力勾配によってダイバータ領域においてプラズマの大循環流が形成されることを示し(図1(b))、循環流に伴ってネオン不純物の冷却機構を明らかにした。

図1:ITER-CDAダイバータにおけるネオン不純物注入計算

 B2.5コードによるJT60-SUダイバータの中性粒子輸送解析を行ない、バッフル板によって中性粒子をダイバータ領域に閉じ込めることができることを明らかにした。ドームをプライベートフラックス領域に挿入した場合、ダイバータ領域のプラズマ密度が減少することを示した。

 非局所電子熱輸送のモデル化を行ない、B2.5コードに組みこむことによってITER-EDAダイバータ解析を行なった。SOLダイバータ入口部とダイバータ板近傍部において非局所熱輸送効果が現れることを明らかにし、低エネルギー出力下では経験的flux-limited手法でも有効であることを示した。

 これらの結果より、トカマク型核融合炉ダイバータでの不純物輸送・中性粒子輸送・熱輸送に関して新たな知見を得ることができた。これらダイバータ領域特有の輸送現象が明らかになることで、大型実験炉の運転に最適なダイバータの設計に生かすことができるものと考える。

審査要旨

 現在トカマク型プラズマ核融合炉は、加熱技術の進歩や閉じ込めモードの改善によって着実に自己点火条件に近付きつつある。それに伴い核融合炉心から高粒子束・高熱流束プラズマを制御し、核融合炉第一壁への負荷を抑えるダイバータの開発は、核融合炉実現のために非常に重要な課題となっている。しかし、ダイバータ領域を含む境界プラズマは、種々の固体-プラズマ相互作用・原子分子過程を含み、大型実験による計測手法が難しいことにより、詳しい粒子輸送現象は解明されていない。本論文は、核融合ダイバータプラズマのモデリングを行ない、ダイバータ領域特有の物理過程を解明することを目的してダイバータ領域での不純物輸送・中性粒子輸送・非局所電子熱輸送に注目し、数値シミュレーションによって、プラズマ輸送現象の解析を行なったものである。本論文は次の6章よりなる。

 第1章は序論であり、これまでの大型実験装置によるダイバータ実験結果をまとめ、ダイバータモデリングの重要性・その課題などを挙げ、本論文の目的について述べられている。

 第2章では、本研究で中心的に使用した2次元プラズマ輸送コード(B2.5コード)の解析手法について詳しく説明されている。B2.5コードで用いられているコントロールボリューム法はボリューム内で保存則を非常に精度良く満たすため、ダイバータ領域などの粒子の湧き出しや沈みこみが存在する場合に非常に有効な手法であることを示している。

 第3章では、ダイバータ領域での炭素及びネオン不純物輸送について計算結果が示されている。まず簡単な一次元の計算から炭素不純物の挙動は、Thermal ForceとFriction Forceを中心とした運動量輸送によって決まることを明らかにしている。また運動量輸送のバランスからThermal Forceによって炭素不純物が主プラズマ方向へ逆流する条件を示している。次にB2.5コードによってITER-CDAダイバータにおけるネオン不純物注入と粒子排気運転のモデリングを行なっている。その結果、ネオン不純物注入によってダイバータ板への熱流が、10MW以下まで急激に減少させることができ、プラズマがダイバータ板から離れるdetached状態まで移行することを示した。また、ネオンとヘリウム・水素の電子エネルギー冷却の分布の違いによる排気・注入による不純物制御が可能であることを示している。さらに電子圧力勾配に起因するダイバータ領域のプラズマ大循環流が形成され、ダイバータ領域に注入された不純物が主プラズマ領域に混入される事を示し、プライベートフラックス領域における不純物逆流による不純物のエネルギー冷却機構を明らかにしている。

 第4章では、JT60-SU概念設計ダイバータにおける排気による中性粒子輸送の変化とバッフル板・ドームによるダイバータの幾何形状の変化に伴うプラズマ・中性粒子輸送の変化についてB2.5コードを用いて述べている。ここでは外側ダイバータ領域の排気によって中性粒子が第一壁境界に沿って逆流する量を減らし主プラズマ領域への混入を下げることが可能であることを示している。また、バッフル板挿入を行なうと中性粒子の流れが変化し、主プラズマへ混入する中性粒子束が急激に減少することがわかった。これによってバッフル板によってダイバータ領域に閉じ込めることが可能であることを示している。またプライベートフラックス領域にドームを挿入することによってダイバータ領域のプラズマ密度が低下することを明らかにした。これによってバッフル板・ドームが主プラズマの閉じ込め改善に効果的であることが示された。

 第5章では、ダイバータ領域における非局所電子熱輸送効果について調べている。すなわち、改良LMVモデルをB2.5コードに適応することによって高エネルギーの電子によるkinetic効果を取り入れ、ダイバータ入口部とダイバータ板近傍での電子温度分布の変化を表すことができることを示している。またITER-EDAダイバータにおいて200MW以下のエネルギー出力でのモデルの適応性を示すことができている。そして出力が低くなるにつれて非局所電子熱輸送効果が小さくなり、経験的flux-limited手法による計算に近付いていくことを示している。

 第6章は結論であり、本研究で得られた成果をまとめた章である。

 以上のように、本論文はモデリングによってトカマク型核融合炉のダイバータにおける不純物・中性粒子・電子熱輸送の物理輸送過程を明らかにしたもので、システム量子工学、特に核融合工学研究に寄与するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク