学位論文要旨



No 213036
著者(漢字) 朱,殷浩
著者(英字)
著者(カナ) シュ,ウノ
標題(和) IL-12によるヒト免疫学的処女T細胞の機能的分化の解析とモノサイト-T細胞の相互作用によるIL-12産生の機序に関する研究
標題(洋)
報告番号 213036
報告番号 乙13036
学位授与日 1996.10.23
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第13036号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 成内,秀雄
 東京大学 教授 玉置,邦彦
 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 教授 高津,聖志
 東京大学 講師 瀧,伸介
内容要旨 背景

 IL-12はモノサイト/マクロファージ系細胞やB細胞などの抗原提示細胞等から速やかに放出され、natural immunityとadaptive immunityを結ぶ要として重要な役割を果たす。即ち、IL-12はCD4陽性免疫学的処女T細胞に直接働いて、Th1細胞への分化を誘導し、またT細胞の増殖及び細胞障害活性を増強し、IFN-の産生を誘導する。またNK細胞の分裂・増殖及び細胞障害機能を増強し、INF-の産生を誘導する。IL-12によって誘導産生されたIFN-によってモノサイト/マクロファージ系細胞の殺菌作用が活性化される。このように多彩な機能を有するIL-12は、Th1型の免疫応答の確立に重要な役割を果たすが故に、感染症、ガン免疫、自己免疫疾患やアレルギー疾患の成立に深く関わっているものと考えられている。

 近年ヒトにおいても1型ヘルパーT細胞(Th1 cells)、2型ヘルパーT細胞(Th2 cells)或いはまた、0型ヘルパーT細胞(Th0 cells)なる分類が広く認められるようになり、Th1とTh2の病的不均衡が病因の背景として重要であるとされる疾患も多々みられるようになった。例えば、AIDS(acquired immunodeficiency syndrome)やLeishmaniasisなどの重症感染症やアレルギー疾患においてはTh2側の病的な優位状態が、一方自己免疫疾患においてはTh1側の病的な優位状態がそれら疾患の成立に重要であるとのコンセンサスが形成されつつある。さらに、AIDSやLepromatousleprosyなどの感染症やある種の気管支喘息などの患者よりIL-4やIL-5を産生するCD8陽性T細胞が分離されたとの報告がなされるようになり、このサイトカインの産生プロフィールによるT細胞の分類とTh1とTh2の間の免疫学的均衡という概念はCD8陽性T細胞に関しても拡大し受け入れられつつある。しかも強調されるべきことはこれらの疾患はいずれも難治性であり、その根本的治療法の確立が今日の臨床医学に課せられた重要な課題であるという点である。従って著者は、IL-2以外のサイトカイン産生能を持たない免疫学的処女T細胞が種々のサイトカイン産生能を獲得し、Th1、Th2或いはTh0細胞へと機能的に分化を遂げるメカニズムを解明することがこれらの疾患の根本的治療法の確立に結び付くものであると確信した。

 本研究は、広く注目を集めているサイトカインであるIL-12を通して、ヒトのCD4陽性及びCD8陽性免疫学的処女T細胞の機能的分化のメカニズムを解明しようと試みるものであり、ならびに、抗原提示の際に、このTh1型の免疫応答の確立に重要な役割を果たすIL-12がモノサイトから放出されるメカニズムを明らかにするものである。

方法

 臍帯血及び健常成人末梢血より高純度に分離したヒトのCD4陽性及びCD8陽性naiveT細胞を、IgGレセプターを遺伝子導入したしたマウス繊維芽細胞上で抗CD3モノクローナル抗体によって刺激するin vitroの系を確立し、IL-12を始めとする種々モノクローナル抗体によって刺激するin vitroの系を確立し、IL-12を始めとする種々のサイトカインの機能的分化に与える作用を検討した。

 活性化した後固定したT細胞クローンまたは、IgGレセプターを遺伝子導入したマウス繊維芽細胞上で抗CD40モノクローナル抗体によってモノサイトを刺激し、IL-12(p75)に特異的なELISAを用いて、上清中のIL-12を測定した。

結果

 1) 我々のシステムによってプライムされたヒト臍帯血由来のnaiveCD4T細胞は、マウスを用いた系での種々の報告に概ね一致した分化の動態を示した;IL-2は1型及び2型いずれのサイトカインの産生能も増強し、IL-4はTh2への分化を、IFN-、IFN-、TGF-はTh1側への分化誘導作用をそれぞれを示した。

 2) IL-12は成人のnaive CD4T細胞に対してTh1細胞への分化誘導作用を示したものの、臍帯血のnaive CD4T細胞に対しては大量のIFN-のみならず大量のIL-4を産生する細胞への分化を誘導した。しかし、処女刺激の以前にIL-12に暴露された臍帯血のnaive CD4T細胞は、IL-12によるプライミングによって、Th1細胞への分化が誘導された。

 3) ヒト臍帯血より分離したヒトCD8陽性免疫学的処女T細胞は、ex vivoに於て原則的にIFN-のみを産生し、IL-4によるプライミングにてIL-5産生細胞への分化が誘導された。IL-4産生CD8陽性T細胞への分化誘導のためには、2サイクルの抗CD3モノクローナル抗体による刺激が必要であり、一次刺激の時はIL-4が、二次刺激の時はIL-2の存在が必要であった。

 4) モノサイトを直接刺激しない、即ちアジュバント作用を有さない可溶性抗原が抗原特異的T細胞に提示されると、活性化されたT細胞はその表面上のCD40ligandとモノサイト上のCD40との相互作用を通して、モノサイトからIL-12の放出を誘導することを示した。

考案

 我々が確立したin vitroの刺激モデルは、今後、薬剤を含めて新たな因子のヒトT細胞の機能的分化・成熟に与える生理学的ならびに薬理学的作用の検討に貴重な手段を提供し得るものと考える。

 次に、IL-12が成人および臍帯血のCD4陽性処女T細胞に対して異なった機能的分化誘導作用を示すin vitroでの実験的事実は臨床の場に於てみられる、重症化或いは慢性化する新生児期の感染症に対する理解を深め、さらに新生児期のワクチン接種に関する再考を示唆するものと考える。また、in vitroに於てIL-4、IL-5を産生するCD8陽性T細胞を実際に誘導し、IL-12はIL-4の産生能の獲得に対しては抑制的に働くものの、IL-5の産生能に対してはむしろ増強する事実を報告した。

 最後に、CD4陽性T細胞に可溶性抗原が提示されると、活性化T細胞はCD40ligand-CD40間の相互作用を介して、モノサイトからIL-12の放出を誘導することを報告した。このことはアレルギー疾患に於て、可溶性アレルゲンをモノサイトによる抗原提示がなされるように修飾することによって、アレルゲン特異的2型ヘルパーT細胞の表現型をTh1型に誘導する免疫学的治療の可能性を示唆するものである。

審査要旨

 本研究はヒトのnaiveT細胞を刺激するin vitroの系を用いて、難治性疾患の病理的背景に於て重要な役割を演じているTリンパ球の機能的分化に与えるインターロイキン(IL)12の作用並びに、モノサイトによる抗原提示の際にみられるIL12の産生のメカニズムの解明を試みたものであり、下記の結果を得ている。

 1.IL-12は成人のnaiveCD4T細胞に直接働いて1型ヘルパーT細胞への分化を誘導するが、臍帯血より分離したCD4陽性処女T細胞に対してはIFN-のみならずIL-4産生細胞への分化を誘導することが明らかにされた。

 2.in vitroの系に於てはじめて、Th2型のサイトカイン(IL-4、IL-5)を産生するヒトのCD8T細胞の分化を誘導し、処女刺激に於てIL-4が、二次刺激においてIL-2が必要であることが示され、IL-12はIL-5産生能を増強することが示された。

 3.アジュバント作用のない可溶性抗原がCD4T細胞に提示されるとき、活性化T細胞上のCD40ligandとモノサイト上のCD40との相互作用によりIL-12が産生されることが示された。

 以上、本論文はIL-12がヒトnaiveT細胞の機能的分化に与える重要な作用を明らかにし、IL-12産生のメカニズムの解析を通じて、これまで未知に等しかった抗原提示於けるT細胞と抗原提示細胞(モノサイト)間の相互作用の解明に重要な貢献をなすと考えられる。従って、本論文は学位の授与に値するものと考えられる。

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