学位論文要旨



No 213041
著者(漢字) 池川,志郎
著者(英字)
著者(カナ) イケカワ,シロウ
標題(和) ヒトcolligin-2遺伝子(CBP2)の単離、構造解析、及び染色体マッピングに関する研究
標題(洋) Isolation,characterization and chromosomal assignment of the human colligin-2 gene(CBP2)
報告番号 213041
報告番号 乙13041
学位授与日 1996.10.23
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第13041号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 澁谷,正史
 東京大学 教授 山本,雅
 東京大学 助教授 長野,昭
 東京大学 助教授 中村,耕三
 東京大学 助教授 中堀,豊
内容要旨

 colliginは、1984年にKurkinenらによって、マウスの頭頂骨内皮細胞より47kDaの糖蛋白として発見されたcollagen結合蛋白で、I型collagen、IV型collagen、gelatinに特異的に結合する。その後、類似の糖蛋白をコードする遺伝子が、ラット、ニワトリ、ヒトで同定されている。これらの遺伝子は、アミノ酸レベルでの高い相同性を示し、特徴的モチーフ構造も良く保たれており、gene familyを形成していると考えられる。我々は、既報のヒトcolligin-1遺伝子(CBP1)と高い相同性を持つが、CBP1とは明かに異なる遺伝子、colligin-2遺伝子(CBP2)をヒト胎児肺cDNA libraryより単離した。本研究では、この新たに単離したCBP2の塩基配列を決定し、その遺伝子構造、及びヒト組織での発現を解析し、染色体上の局在を決定した。

 まず、CBP2 cDNA全長の塩基配列を決定した。CBP2は1254塩基のopenreading frameを持ち、418アミノ酸をコードしていた。cDNAより予測されるアミノ酸配列は、CBP1と97%の相同性を持ち、ラット、マウス、ニワトリのcolligin遺伝子ともそれぞれ、94、93、77%の高い相同性を示した。N末端の疎水性のsignal配列、N-linked oligosaccharide結合部位、serine protease inhibitorの特徴的配列、C末端の"RDEL"配列などcolligin gene familyの特徴がすべて保たれていた。

 種々のヒト組織でのCBP2の発現を、Northern法とReverse-transcription-polymerase chain reaction(RT-PCR)法によって調べた。CBP2の発現は調べたほとんど全ての成人組織でみられ、特に心臓、腎臓、大腸で強かったが、脳と末梢血白血球においては発現を認めなかった。これは、成人組織では発現がないという既報のラットのcolliginの結果と対照的であった。

 次いで、ヒトgenomic DNA libraryよりCBP2の全coding領域及び、転写調節領域を含むcosmid cloneを単離し、これを用いてCBP2の遺伝子構造、転写調節領域の配列を解析した。cDNAとgenomicDNAとの塩基配列の比較よって、CBP2の全長は約14Kbで、5つのexonからなることがわかった。CBP2の5’の転写調節領域は、マウスのcolligin遺伝子と高い相同性を示し、heat shock element(HSE)やretinoic acid responsive elementなど特徴的な転写調節配列が存在していた。HSEが存在することから、CBP2産物はheat shock蛋白である可能性が示唆された。また、cosmid cloneをprobeとして蛍光in situ hybridization法によって決定したCBP2の染色体上の局在は、11番染色体の長腕、11q13.5であった。

審査要旨

 本研究は、collagen代謝に関与する特異的collagen結合蛋白であるcolliginのひとつであるヒトcolligin-2の遺伝子(CBP2)を解析したものであり、下記の結果を得ている。

 1.CBP2cDNA全長の塩基配列を決定したところ、CBP2は1254塩基のopen reading frameを持ち、418アミノ酸をコードしていることが分かった。cDNAより予測されるCBP2のアミノ酸配列は、ヒトcolligin-1遺伝子のそれと97%の相同性を持ち、ラット、マウス、ニワトリのcolligin遺伝子ともそれぞれ、94、93、77%の高い相同性を示した。CBP2には、N末端の疎水性のsignal配列、N-linked oligosaccharide結合部位、serine protease inhibitorの特徴的配列、C末端の"RDEL"配列などcolligin gene familyの特徴がすべて保たれていることが明かになった。

 2.種々のヒト組織でのCBP2の発現を、Northern法とReverse-transcription-polymerase chain reaction(RT-PCR)法によって調べたところ、CBP2の発現はほとんど全ての成人組織でみられ、特に心臓、腎臓、大腸で強いが、脳と末梢血白血球においては発現を認めないことが分かった。これは、成人組織では発現がないという既報のラットのcolliginの結果と対照的であった。

 3.ヒトgenomic DNA libraryよりCBP2の全coding領域及び、転写調節領域を含むcosmid cloneを単離し、これを用いてCBP2の遺伝子構造、転写調節領域の配列を解析した。cDNAとgenomicDNAとの塩基配列の比較によって、CBP2の全長は約14Kbで、5つのexonからなることが分かった。CBP2の5’の転写調節領域は、マウスのcolligin遺伝子と高い相同性を示し、heat shock element(HSE)やretinoic acid responsive element(RARE)など特徴的な転写調節配列が存在していた。HSEが存在することから、CBP2産物はheat shock蛋白である可能性が示唆された。

 4.CBP2の染色体上の局在をcosmid cloneをprobeとして蛍光insitu hybridization法によって検索したところ、11番染色体の長腕、11q13.5であることが示された。

 以上、本論文は新たに単離したCBP2の塩基配列を決定し、その遺伝子構造、及びヒト組織での発現を解析し、染色体上の局在を明かにした。更に、CBP2の5’の転写調節領域には、HSEやRAREなど特徴的な転写調節配列が存在することを示した。本研究は、collagen代謝に重要な役割を果たすと考えられるCBP2を遺伝子レベルで解析した点で重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/53978